「四川家庭料理 中洞」の十皿
麻婆豆腐|「四川家庭料理 中洞」の一皿目

麻婆豆腐|「四川家庭料理 中洞」の一皿目

一皿目は麻婆豆腐。日本の中華料理においては、王道中の王道にして、不思議なくらい同じ味のものがない。「中洞」のそれは、フツフツと発酵真っ最中の豆板醤を用いるのが最大の秘訣だった。その豆板醤を、毎日かき混ぜるたびに、理想のおいしさを願って、本気で祈りを捧げている。

発酵中の豆板醤に「おいしくなれ」と本気で祈る。

「麻婆豆腐は、店の看板メニューにしたかった料理です。中華料理の世界に入った時から、いろんな店の麻婆豆腐を食べまくってきました。行きついたのは“麻婆豆腐は豆板醤と豆腐である”という理解でした」
「四川家庭料理 中洞」店主の中洞新司(なかほらしんじ)さんは、そう語る。

発酵中の豆板醤
フツフツと発酵中の豆板醤。香ばしい味噌の豊かな香りがする。

色味、コク、香り、辛味。
それらを理想に近づけたくて、豆板醤にはひと際、心を砕く。
「中洞」の豆板醤は、厨房に置かれた樽の中でフツフツと小さな泡を立てて発酵している。
3種の豆板醤をブレンドし、さらに清酒を加えて混ぜ合わせたものだ。

「空気に触れさせて発酵を促すために、毎日かき混ぜます。その時、『おいしくなれ』って祈りながら混ぜるんです。本気で念じるんですよ。こうすれば発酵するって誰に教わったわけではなく、試してみてたどり着きました。塩気の角が取れて、コクと旨味が増しました。だから、砂糖や旨味調味料を入れる必要もないんです」

豆腐は絹に近い、滑らかな木綿豆腐を用いる。
味付けの主役は豆板醤。豆鼓は補助的に入れるのみ。
豆腐は崩さず、口の中でほぐれて味わいが一体になるようにする。
仕上げに山椒脂をひと回し。さらにいい香りが立つ。

辛いけど旨い!シンプルなのに深い!

極めてシンプルな調味料でつくられた麻婆豆腐は、豆板醤の深いコクと旨味が冴えている。
砂糖はほぼ使わない。旨味調味料も使わない。
だから辛いのにやさしく、油は使っているのに軽い。
そのままでもおいしく、ごはんにかけたらもう箸が止まらない。
中洞さんの「本気の祈り」は、確実に効いている。

麻婆豆腐
“豆板醤と豆腐の料理”という解釈を体現する麻婆豆腐1,512円。きりりとシャープで、甘味はないが深いコクがある。
たっぷりとご飯にかけて。
仕上げの山椒油の香りもそそる。白いご飯にたっぷりかけて。

――明日につづく。

店舗情報店舗情報

四川家庭料理 中洞
  • 【住所】東京都文京区千石4‐43‐5
  • 【電話番号】03‐5981‐9494
  • 【営業時間】11:00~14:00(L.O.)、17:00~21:00(L.O.)
  • 【定休日】月曜(祝日の場合は火曜)
  • 【アクセス】JR・都営地下鉄「巣鴨駅」より7分

文:沼由美子 写真:森本菜穂子

yumiko_numa.jpg

沼 由美子(ライター・編集者)

横浜生まれ。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。