観光客の知らない浅草~浅草高校・国語教師の飲み倒れ講座~
「食堂うんすけ」の地味で滋味な惣菜とカレー|神林先生の浅草ひとり飲み案内②

「食堂うんすけ」の地味で滋味な惣菜とカレー|神林先生の浅草ひとり飲み案内②

「倒れるまで飲む」の意ではなく、「飲むことに人生を懸ける」という“飲み倒れ”の精神を体を張って追求する神林先生。自身が刊行するミニコミ「ひとり飲みの店ランキング2019」より、選り抜きの25軒を紹介。浅草観音裏にあるカレーが名物の食堂は、宵の口の軽飲みにもぴったり。

「食堂うんすけ」はひとり飲みの理想を満たす店。

「食堂うんすけ」(18位)は、僕が理想とするひとり飲みの店の条件のほとんどを満たしている。
Ⓐ「名物女将と話ができる店」、©「カウンターで飲める店」、Ⓓ「いい酒が揃う店」、Ⓔ「肴が充実している店」、Ⓕ「主人や客との会話が楽しめる店」、Ⓖ「渋く落ち着いた雰囲気の店」、といったものだ。
(ほかに、Ⓑ「寡黙で腕のいい大将がいる店」、Ⓗ「さんざめき(心地よいざわめき)の中で飲むことができる店」というのもあります)

ミニコミ
神林先生の「ひとり飲みの店ランキング2019」より。
▼25位「角打ちフタバ」
2013年開業。『酒のフタバ』。ビール1本、日本酒3杯の“センベロセット”1,080円! 
▼24位「スナックひまわり」
1989年開業。一青窈も来た実力店。テレビ番組『和風総本家』登場。春は店内が本物の桜の花で埋まる。
▼23位「食べ呑み処 あぐまる」
2018年開業。まだ素人っぽい若い女性二人が営む。こんな店を応援するのも愉しい。
▼22位「洒落者」
2016年開業。「dancyu」で紹介された、日本酒の品揃えが素晴らしい立ち飲み。
▼21位「なお太」
2009年開業。深夜に極細打ち蕎麦が食べられる。活気があり、蕎麦以外の一品料理も大充実。
▼20位「しゅこう みやもと」
2004年開業。もっとも通っている店だが、いつも仲間と飲むので今回のランクは控えめ。
▼19位「Gyoza Bar けいすけ」
2016年開業。神戸味噌だれ餃子の店。パクチー餃子など創作餃子も多く、愉しい。
▼18位「食堂うんすけ」
2014年開業。ママが集めた民芸品とカレーと手料理の店。夜は厳選した日本酒も。
▼17位「吉原もん」
2014年開業。吉原大門・見返り柳前にある立石「玄庵」出身の人気蕎麦居酒屋。酒肴も手打ち蕎麦もお手頃。
▼16位「林檎や」
2016年開業。元向島芸者・りんごさんの居酒屋。ランチのカレーも夜の料理も旨い。
外観
看板もうんすけ型。何かおもしろそうなものに出会える匂いがぷんぷん漂っています。

「うんすけ」とは酒や焼酎を入れる注ぎ口の付いた陶器の壺「雲助」のこと。店名の表記は漢字にしようと思っていたが、「“くもすけ”としか読めないだろう」と開店前に親に止められ、かな書きにしたという。

うんすけ
こちらが店名の由来となった、うんすけ。どの席からも目に入る位置に堂々と鎮座しているよう。開店の際に友人が贈ってくれたもの。

大分県日田市の小鹿田焼(おんたやき)を中心とした民芸品も扱っている。
開店当初は「民藝咖喱」と名乗っていたが、カレー専門店ではない。地味だけど滋味あふれる“おばあちゃんごはん”を大切にして提供したいという思いから、「食堂」にあらためた。
夜は厳選された日本酒もあり、居酒屋使いができる。カウンター4席、テーブル8席。民芸品や渋い調度品に囲まれた、落ち着いた空間だ。

店内
思い入れのあるポスターを切り抜いたり、品書きは半紙に墨で書いたものだったり、店内はどこかアーティスティック!

惣菜とカレーと「ママ」に癒される。

ママの嶋田智子さんは佐渡の生まれ(浅草では有無をいわさず、女性店主は「ママ」と呼ばれるんです)。
その食文化が自らの根底にあるという。
以前は北欧家具店「IKEA」のレストランで働いていた。焼き物に興味を持ったのは、飲食の仕事を始めてからのことだ。

車麩の煮もの
車麩の煮もの350円。瓶ビール600円は、冷蔵庫からセルフでどうぞ。
しぜんしゅ 燗誂
ひじきとごぼうと豚肉の煮もの500円。今夜は福島県郡山「仁井田本家」の“しぜんしゅ 燗誂”750円(一合)を。日本酒は半合でも頼めて、500円~。
漬物
漬物350円。コリアンダー入りの酢で漬けたひよこ豆、昆布入りの酢で漬けた大根などが入り、その時々で内容は変わります。

店を開くにあたっては、浅草へのこだわりは皆無で、手頃な物件を探しているなかで現在の店舗に出会った。
いざ、浅草で商売を始めてみると、最初は少々おせっかいで口うるさいご近所さんに面食らっていたものだが、慣れてみると「これほど情が厚く、住みやすいところはない」とすっかり気に入り、地元に溶け込んでいる。
それどころか、定期的に実施されている「浅草エーラウンド」という奥浅草(最近では、観音裏とさらに外側の千束・日本堤・清川・橋場・今戸などを含むエリアをこう呼んでいます)の「革とモノづくりの祭典」の理事として活躍したり、地元や物づくりをする人たちを応援するさまざまな活動をしたり。
小さな店にも関わらず、いまではすっかり“情報発信基地”のようになっているのだ(ぜひFacebookやTwitterをチェックしてみてください)。

ママの嶋田智子さん
ママの嶋田智子さんはパソコンのインストラクターを経て、食の世界へ。飲食の仕事に携わるようになってから、民芸の器の魅力に目覚めました。

ママの人柄は決してモーレツ型ではない。拍子抜けするほど肩の力が抜けている自由人。ひょうひょうとしたキャラクターも、客を引き付ける大きな魅力なのかもしれない。

仕事の手だって抜かない。5時間じっくり煮込んだ牛すじカレーは、飲みの〆にぴったり。
ぜひ味わってみてほしい。僕は中辛が大好き!

牛すじカレー
大きなにんじんがごろんと入る“牛すじカレー”の単品800円は、お酒を頼んだ人が注文できるメニュー。通常は、やっこの付く定食スタイルで1000円。ランチタイムは定食にお茶も付く(福木島茶、グリーンマテ茶、ルイボスティから選べます)。器は小鹿田焼。
ミニコミ
<本日のお会計>
瓶ビール“サッポロラガー”600円。車麩の煮もの350円。ひじきとごぼうと豚肉の煮もの500円。日本酒“しぜんしゅ 燗誂”750円。漬物350円。牛すじカレー800円。計3,350円也。

――2019年5月11日につづく。

店舗情報店舗情報

食堂うんすけ
  • 【住所】東京都台東区浅草4-17-3
  • 【営業時間】11:30~14:30、18:00~21:00、日曜は昼のみ営業
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】つくばエクスプレス「浅草駅」より7分

文:神林桂一 写真:大沼ショージ

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神林 桂一(都立高校国語教師)

教師生活41年。食べ歩き、飲み歩き歴は44年。10年前の都立一橋高校(馬喰町)時代から食のランキング・ミニコミを刊行(おもに職場で配布)。下町エリアを中心に酒場、定食屋、バー、和・洋・中・その他のエスニック料理店と守備範囲は広いが、なかでも“お母さん酒場”には並々ならぬ情熱を持つ。食にまつわる書籍、雑誌、テレビ番組、一般的なランキングサイトなど、リサーチにも余念がなく、自作のデータベースには行った店・約9000軒を含む1万4800軒の店や食の情報が整理されている。毎日早朝6時、デッキや外付けHDD計4台に録りためた番組をチェックすることから1日が始まる。