観光客の知らない浅草~浅草高校・国語教師の飲み倒れ講座~
「コメジルシ」は唯一無二の日本酒バー|神林先生の浅草ひとり飲み案内⑪

「コメジルシ」は唯一無二の日本酒バー|神林先生の浅草ひとり飲み案内⑪

銀座線「浅草駅」の先に延びる浅草地下街。アジアのカオスな雰囲気満点の一角に、未知の酒に出会える日本酒バーがあるという。江戸の“飲み倒れ”の精神を、「飲むことに人生を懸けて」追求する神林先生が、自身のミニコミ「ひとり飲みの店ランキング2019」25軒より、穴場的日本酒バーを目指します!

日本酒百花繚乱。1年で新たに200蔵の日本酒を飲んだ。

「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり」

日本を代表する「酒仙」といえば若山牧水だ。彼は生涯で約200首の酒の歌を詠んでいる。「愛酒の日」8月21日は牧水の誕生日だ。この歌のように「ひとり飲み」の極みは、やはり日本酒か。ひとりしみじみ飲む時間は何にも代え難い(ふたりでしっぽり、というのにも憧れますが……)。

酒瓶を染め抜いた暖簾が「こっちの酒は旨いぞ」と手招きします。
酒瓶を染め抜いた暖簾が「こっちの酒は旨いぞ」と手招きします。

今までに593蔵の日本酒を飲んできた。
僕の経験では、日本酒は現在、4回目の「日本酒ブーム」に突入している。2013年10月発売の『dancyuムック 新しい日本酒の教科書』(プジデントムック)、『dancyu』2018年3月号「日本酒」特集内の記事「日本酒クロニクル」を見ながらふり返ってみよう。

神林先生が職場の都立浅草高校で配布する目的でつくり始めたミニコミ誌。今回のテーマは「ひとり飲みの店ランキング2019」に即した大好きな店ばかり25軒をランキング形式で紹介しています。
神林先生が職場の都立浅草高校で配布する目的でつくり始めたミニコミ誌。今回のテーマは「ひとり飲みの店ランキング2019」に即した大好きな店ばかり25軒をランキング形式で紹介しています。

1950~60年代は「モーレツ期」。高度経済成長の勢いのまま、日本酒も大量生産の時代を迎え、“剣菱”“菊正宗”“白鷹”などが全国を席巻していく。その反面、巨大化した大手による桶買い(小規模酒蔵から買った酒を自社製品として売る)、三増酒(醸造アルコールで3倍に増量した酒)などが横行した。
質の悪い酒を飲んだ当時の酔っ払いは、体内で発生したアセトアルデヒドのために酷く酒臭かったし(最近はああいうオッサンも見かけないなぁ)、二日酔いも最悪だった。

僕は1974年に大学生になった。サークルの飲み会や合宿での「イッキ飲み」は、もっぱら二級酒だった。ビールは高価だったし、チューハイブームは1980年代に入ってから、ウーロンハイの登場は1985年、ホッピーが若者に支持されるのは2000年代に入ってからである。

しかし一方で、1975年には「日本名門酒会」が発足し、地方の質のいい日本酒を集めて流通させ始める。その影響もあり、1970~80年代にかけて「第一次地酒ブーム」が起こるのだ。この頃に“越乃寒梅”“八海山”“浦霞”“一ノ蔵”“梅錦”など多くの銘酒を知った。

1985年頃になると、「第2次地酒ブーム」となる。吟醸酒が人気となり、純米酒の“田酒”、“神亀”(1987年に全量純米蔵となる)、淡麗辛口の新潟“久保田”“上善如水”や山廃仕込みの石川“天狗舞”などが脚光を浴びる。
しかしバブル景気の波に乗り、日本酒は過度な高級化路線へ迷走してしまう。
僕も、「本格焼酎ブーム」(2003年頃~)、地ビール、シングルモルトウイスキーなどに浮気をし、10年ほど日本酒とは疎遠になっていた。

1995年頃から、僕の留守中に、日本酒は新たな時代を迎える。高級化への反動から「伝統的な技」が見直される一方、山形“十四代”、秋田“新政”、福島“飛露喜”など若い世代の蔵元たちが中心となり「蔵元発信の酒造りの時代」となったのだ。
無濾過・生酛・冷やおろし・あらばしり・槽(ふね)・袋吊り・雄町……。知らない銘柄に知らない用語、知らないキーワードも多く、昨年度はブランクを取り戻すべく200蔵の日本酒を新たに飲んだ。

日本最古の地下街に潜む、懐深き日本酒バー。

浅草も日本酒酒場が花盛りだ。
このシリーズでも紹介した観音裏「ずぶ六」(3位)。
太田和彦著「日本百名居酒屋」にも選出されている観音裏「ぬる燗」(2位)。驚異的な品揃えの西浅草「表乃蔵」。こだわりが半端ではない千束「しゅはり」。古い呉服屋を改装した西浅草「盃屋かづち」。立ち飲みとは思えないレベルの日本酒が飲める「洒落者(しゃれもん)」(22位)。酒屋直営の「酒の大桝」。カップ酒専門の浅草地下街「忍者場(バー)」。
そんな中でも「唯一無二」の存在と言えるのが「コメジルシ」(6位)である。

神林先生の「ひとり飲みの店ランキング2019」より。
▼15位「焼酎処 乙」
2005年開業。珍しい焼酎が揃っている。地元の客や飲食関係者たちが多く集まる店。
▼14位「OGURA isBar」
1998年開業。オーセンティックな雰囲気で、ウイスキーの品揃えがすばらしい大人のバー。
▼13位「田毎」
1966年開業。釜飯屋で飲む。焼鳥も『dancyu』に載る実力。女将は元女子レスラー。
▼12位「コントワールクワン」
2015年開業。ナチュラルワインバー。パスタ、ピザ、メイン料理が1000円前後から。
▼11位「おにぎり 金太郎」
1972年開業。吉原裏の渋いおにぎり居酒屋。女将さん手製の日毎の惣菜も魅力。
▼10位「呑み喰い処 酔花」
2007年開業。浅草の芸者衆や旦那衆も立ち寄る家庭的な店。靴を脱いでくつろげる。
▼9位「笑ひめ」
2010年開業。愛媛料理の居酒屋。着物に割烹着姿の女将が人気。柑橘系の酒が充実。
▼8位「ペタンク」
2017年開業。「ミシュランガイド東京 2019」ビブグルマン掲載のビストロ。気取らずに料理とワインを。要予約。
▼7位「ちゃこーる」
2013年開業。元「萬鳥(ばんちょう)」の焼き方が開いた。天城軍鶏に仏産鶉、鴨、ジビエもある焼鳥屋。
▼6位「コメジルシ」 
2014年開業。浅草駅地下街のカルト的日本酒バー。店主におまかせのお得なコース制。
(ランキングは、テーマや先生の独断で変動することも多分にあります)

「コメジルシ」は、1955年開業の「浅草地下街」にある(銀座三原橋地下街の閉鎖により現在は日本最古の地下街で、ディープな雰囲気がたまらない)。
2014年開店のカウンター7席、外席6席の小さな日本酒バーだ。

小体の店では、日本酒をツールに一体感も高まります。
小体の店では、日本酒をツールに一体感も高まります。
コースは「飲み放題」ではなく、多種を味わうためのシステム。
コースは「飲み放題」ではなく、多種を味わうためのシステム。

店主のHALさんは胸板が厚く格闘家のよう。一見強面(こわもて)だが、恐い人ではない。
それどころかHALさんは10年間、メッセンジャー(自転車便)として東京の街を駆け抜け「日本最速の男」と呼ばれていたのだ。
日本酒に目覚めたのはメッセンジャーを辞める頃だが、今では日本酒に関しても先頭集団を走っている。

浅草地下街のトイレは鍵を開けないと入れない共同トイレ(男女別)。キーホルダーは思い出深い自転車のパーツを。
浅草地下街のトイレは鍵を開けないと入れない共同トイレ(男女別)。キーホルダーは思い出深い自転車のパーツを。

「唯一無二」と言った理由は、そのシステムにある。
飲める酒の数は冷酒25種類、常温・燗10種類ほどで、それを「楽々酔々」をテーマにコースで提供するのだ。僕は、開封する本数を絞って劣化しないうちに飲ませるシステムかと思っていたら、そうではなかった。
おまかせコースは、60分2,400円、90分2,800円、120分3,200円などがあり、とてもリーズナブル。飲み放題ではなく、客の飲み方を見ながら、ペースや好みを読み取って酒を提供する。

酒は、自分で選ぶとどうしても決まった好みに偏ってしまう。
そこで、まず、高価な日本酒や流行の日本酒、レアな日本酒に加え、無名だがお薦めの日本酒、旬の日本酒、熟成酒などを冷酒・常温・お燗と幅広く提供して未知の日本酒との出会いを演出している。

酒
扱う酒は「偏らない」のがコンセプト。レギュラーの酒は決めていないが、応援したい小さな蔵の酒も揃える。この日冷酒は、左より“川鶴 純米雄町80(香川県)”“和香牡丹 純米(大分県)”“つきよしの 純米吟醸生原酒(長野県)”“楽器正宗 純醸 純米酒(福島県)”“浅茅生 特別純米生原酒(滋賀県)”“菊鷹 純米酒(愛知県)”“新政 コスモスラベル 純米酒2012(秋田県)”“宝剣 レトロラベル 純米酒(広島県)”“義侠 磨き60 純米生原酒 特A山田錦”

次に、同じ酒でも年度や酒米などによって異なる味わいを飲み比べしてもらう。
日本酒は開けたてがピークではなく、味や香りが開いた飲み頃があるということを経験してもらうという狙いもある。HALさんは、常温・冷蔵・氷温とさまざまな温度で300~400本を寝かせており、日々味見を繰り返しながら、飲み頃や新しい提案を模索している。

酒肴は20種類以上あり、最低1品頼むのがルール。
僕はいつも「おつまみ盛り合せ」(800円~)を注文する。

2皿セットで供される、おつまみ盛り合せ1,300円の1皿目。今日は、泉州水なす、有機小松菜のお浸し、鰹のカルテット(刺身、酒盗、魚醤、鰹節)。
おつまみ盛り合せ800円。今日は、泉州水なす、有機小松菜のお浸し、鰹のカルテット(刺身、酒盗、魚醤、鰹節)。
おつまみ盛り合せ1,300円の2皿目。きゅうり、オクラなどが入る、山形だしインスパイア系冷奴。単品600円でも注文できる。
おつまみ盛きゅうり、オクラなどが入る、山形だしインスパイア系冷奴600円。
鶏キーマ(クラッカー付き)700円には、キャベツのサブジも。
鶏キーマ(クラッカー付き)700円には、キャベツのサブジも。

今日は“而今(じこん) 八反錦 純米吟醸 無濾過生”の2018BY・2017BY・25BY(2013年醸造)の3種の飲み比べが劇的で見事だった。
今までも“写楽 純米吟醸”播州山田錦・東条山田錦・吉川山田錦の3種の飲み比べ、「仙禽 初槽 直汲み」あらばしり・なかどり・せめ3種飲み比べなど、毎回新鮮な驚きや発見が待っていた。これこそが「唯一無二」!

醸造年数の違う“而今”を飲み比べできるなんて!
醸造年数の違う“而今”を飲み比べできるなんて!
丁寧に説明をしてくれる、店主のHALさん。
丁寧に説明をしてくれる、店主のHALさん。
冷蔵庫ではなく、氷温庫で寝かせて育ててきました。
冷蔵庫ではなく、氷温庫で寝かせて育ててきました。
「寝かせるとパイナップルのようなトロピカル感が増してきます」
「寝かせるとパイナップルのようなトロピカル感が増してきます」

「コメジルシ」では同じ酒に出会うことはほとんどない。まさに「一期一会」だ。
そう、あなたにも日本酒好きのための「唯一無二」の店で、旨い日本酒との「一期一会」をぜひ楽しんでいただきたい。
しかも懐には超やさしい「明朗会計」ですよ!
(ラインナップの素晴らしさは、FacebookInstagramの写真でご確認ください)

――明日につづく。

似顔絵
<本日のお会計>
おまかせコースの120分コース(マニアックなお酒までとことん楽しみたい方にオススメ)3,200円。おつまみ盛合せ800円。山形だしインスパイア系冷奴600円.計4,600円也。

店舗情報店舗情報

コメジルシ
  • 【住所】東京都台東区浅草1‐11‐12 浅草地下街15
  • 【電話番号】なし
  • 【営業時間】17:00頃~23:00(最終入店)、日曜・祝日15:00頃~20:30(最終入店)
  • 【定休日】火曜、不定休あり
  • 【アクセス】東京メトロ「浅草駅」直結

文:神林桂一 写真:大沼ショージ

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神林 桂一(都立高校国語教師)

教師生活41年。食べ歩き、飲み歩き歴は44年。10年前の都立一橋高校(馬喰町)時代から食のランキング・ミニコミを刊行(おもに職場で配布)。下町エリアを中心に酒場、定食屋、バー、和・洋・中・その他のエスニック料理店と守備範囲は広いが、なかでも“お母さん酒場”には並々ならぬ情熱を持つ。食にまつわる書籍、雑誌、テレビ番組、一般的なランキングサイトなど、リサーチにも余念がなく、自作のデータベースには行った店・約9000軒を含む1万4800軒の店や食の情報が整理されている。毎日早朝6時、デッキや外付けHDD計4台に録りためた番組をチェックすることから1日が始まる。