さらなるイスラム圏のおいしい料理を探すべく、東京は広尾へ。到着したのはパキスタン・イスラム共和国大使館。重厚な建物に圧倒されながら、汗ばむ手でインターホンを押した。
「カラチの空」でパキスタン料理の魅力にすっかりやられてしまった。もっと知りたい!もっと食べたい!もっとつくりたーい!
欲求が高まり、パキスタン・イスラム共和国大使館に相談をしてみると、参事官に見せるための企画書を送ってほしいという返事があった。
パキスタンは今、カシミール地方の緊張の高まりで、「レシピ」どころではないのかもしれない……。企画書を送って2週間後、参事官に会えることとなった。
東京・広尾にある大使館では、アシュファク・カリル報道参事官が待っていた。要件を伝えると、参事官は行きつけのパキスタン料理店「ナワブ」のオーナーである成塚シャキル・カーンさんに電話をかけてくれた。
東京は日本橋にある「ナワブ」は“タンドリーフィッシュ”が絶品だという。
「味は現地のままです。大使館主催の食事会では、いつもケータリングをお願いしているんですよ」
参事官とカーンさんのホットライン(?)のおかげで、いざ「ナワブ」へ。参事官、ありがとうございました!
「ナワブ」を訪れると、恰幅のよいカーンさんが満面の笑みで歓迎してくれた。カーンさんはパキスタンのバハーワルプル出身。
「現在はパンジャーブ州の町だけど、戦後パキスタンに併合されるまでは王国の首都だったんです」
来日したのは約30年前。宝石商などさまざまな仕事をしていたが、2000年に日本人女性と結婚したのを機に、レストラン経営を始めた。2001年、湯島に「ナワブ」1号店を、2007年に日本橋店をオープン。現在は6店舗を営む実業家だ。
普段はどちらのお店にいらっしゃるのか聞いてみると、「特に私の居場所はないの。いつも、車でウロウロしているよ(笑)」。ちなみに店名の「ナワブ」は、カーンさんの父の名前だという。
「息子にもナワブと名付けました。『縄武』と書いてナワブと読みます。いい名前でしょ?」
シェフのカリル・アハマドさんはラホール出身。カラチの高級ホテル「パールコンチネンタルホテル」でシェフとして腕を振るい、サウジアラビアのレストランで働いた後、2010年に来日。「ナワブ」の厨房に立ち、5年が過ぎた。パキスタン料理なら、パンジャーブスタイルもカラチスタイルもお任せあれ、の腕利きだ。
「参事官は、彼のつくる“タンドリーフィッシュ”が大好きなんだよ」とカーンさんが嬉しそうに言う。
店ではインド料理とパキスタン料理を提供している。手間と時間がかかるパキスタン料理は、平日のランチメニューには、ない。
「インド料理とパキスタン料理はよく似ています。けれど、インド料理はソースの料理。パキスタン料理は煮込みの料理。肉が柔らかくなるまで、野菜がとろとろになるまで煮込まなくてはなりません。完成までに時間がかかるので、ランチには向いていないんです」
大使館が推薦するパキスタンの味を試したいなら、平日の夜か週末、または祝日にぜひ予約を!
次回は、カーンさんイチ押しの“マトンプラオ”を、さらにその次は“タンドリーフィッシュ”と“タンドリーラムチョップ”のレシピを紹介します。いずれもパキスタン大使館の人たちが太鼓判を押す本場の味。
スパイスの分量をスケールで正確に計量する緻密で洗練されたレシピです。インドとは異なる奥深いスパイス料理の世界へと誘います。
しつこいようですが、スパイスやマトンなど、パキスタン料理に使う食材は、イスラム横丁で安く手に入りますよ!
――つづく。
文:佐々木香織 写真:本野克佳 協力:パキスタン・イスラム共和国大使館