名物解体新書
江戸の味を伝える東京しゃも|玉ひでの親子丼④

江戸の味を伝える東京しゃも|玉ひでの親子丼④

東京・人形町にある鳥料理店「玉ひで」には、名物の親子丼を求めて行列が絶えない。なぜこの店の親子丼は多くの人を虜にするのだろう。親子丼の主役は「東京しゃも」の胸肉ともも肉。数ある鶏肉の中から選ばれた「東京しゃも」の旨さの秘密を探った。

店の伝統が軍鶏肉を選んだ。

「うちの親子丼は、ファストフード的な丼ではありません。ひと品の鳥料理だと考えてつくっています」と「玉ひで」八代目主人の山田耕之亮さんは言う。すべての素材に心を砕き厳選してつくる親子丼だが、とりわけ鶏肉と卵には深い想いを込めているそうだ。

玉ひでの初代から三代目までは鷹匠をしていました。三代目のときに鳥鍋屋を開いたんです。当時から軍鶏は貴重で最高のご馳走でした。軍鶏鍋を提供する中から、親子丼が生まれたのは以前お話ししたとおりです。玉ひででは、丼といえども、鍋と同じく軍鶏肉を使っています。

玉ひでの親子丼は東京名物として、海外からの客も増えている。
玉ひでの親子丼は東京名物として、海外からの客も増えている。

「ほとんどの銘柄鶏、地鶏を食べていますが、鍋と丼にするなら『東京しゃも』しかないと私は思っています。この軍鶏は適度な歯ごたえと、しっかりとした旨味がある」と山田さんは語る。
全国津々浦々の鶏肉を食べ尽くした山田さんが選んだ「東京しゃも」とはどんな鶏だろう。

玉ひでには内臓が入った“まる”の鶏を捌くことができる「食鳥処理衛生管理者」がいる。この資格者がいる鶏料理店は東京で数えるほどしかない。敷地内には、鶏を専門に捌くエリアがあり、鮮度と安全を両立している。
玉ひでには内臓が入った“まる”の鶏を捌くことができる「食鳥処理衛生管理者」がいる。この資格者がいる鶏料理店は東京で数えるほどしかない。敷地内には、鶏を専門に捌くエリアがあり、鮮度と安全を両立している。

「東京しゃも」の旨さの秘密を知るために、東京都農林水産振興財団の平野直彦さんを訪ねた。開発経緯について詳しく知る数少ない関係者だ。

お話を伺った人

平野直彦

平野 直彦

東京都農林水産振興財団事業課長。東京都の畜産試験場職員として1985年頃から「東京しゃも」の研究に携わる。都庁勤務等を経て、定年を迎えた後は現在の東京都農林水産振興財団で、銘柄畜産物の生産、普及など東京の畜産業の振興に貢献している。

――「東京しゃも」は名前に“東京とついていますが、在来の品種なのでしょうか?

平野さん
東京というよりも江戸時代まで歴史は遡ります。軍鶏は江戸時代初期にシャム(現在のタイ)から中国大陸を経て、日本に持ち込まれたと東京都農林水産振興財団の資料には記されています。
もともと闘鶏用品種ですから、身が引き締まって旨味があり、勇壮な姿と相まって江戸っ子に好まれたようです。この軍鶏肉とねぎを一緒に鍋にした軍鶏鍋は当時のご馳走だったそうです。
東京都農林水産振興財団の入り口に飾られている「東京しゃも」の剥製。「実際の東京しゃもは、首がすっと長いんですよ」と平野さんは教えてくれた。この施設内にも「東京しゃも」はいるが、外部からの病原菌から守るために公開はしていない。残念!
東京都農林水産振興財団の入り口に飾られている「東京しゃも」の剥製。「実際の東京しゃもは、首がすっと長いんですよ」と平野さんは教えてくれた。この施設内にも「東京しゃも」はいるが、外部からの病原菌から守るために公開はしていない。残念!

――最近では鶏肉と言えば、ブロイラーが主流で軍鶏肉はあまりみかけませんね?

平野さん
明治時代以降、闘鶏が廃れてしまい、それに伴って飼育される軍鶏は激減し、軍鶏肉料理を提供する店も見なくなりました。1941年には天然記念物に指定されるほど稀少になりました。
東京都では伝統の軍鶏肉料理を再び盛り上げるために、1971年から東京都畜産試験場で「東京しゃも」の研究開発を始めました。

――天然記念物に指定された軍鶏を食用にしたのですか?

平野さん
厳密には純粋な軍鶏を親にして、ほかの鶏を掛け合わせて食用品種にしています。軍鶏は闘争性が強いので、飼育に向くようにおとなしい個体を選んで交配を重ねて育てやすい軍鶏をつくります。
次に軍鶏にロードアイランドレッド種を交配して、育てやすくて増やしやすい交配種をつくりました。これを二元交配と言います。多くの地鶏と言われている鶏は、この二元交配で品種を固定するのですが、「東京しゃも」は、より軍鶏独自の旨味を増やすために、もう一度軍鶏を掛け合わせて完成させました。三度交配させることで、姿、肉質ともに、極めて軍鶏に近い特徴を備えた鶏ができました。
「東京しゃも」の丸鶏。ブロイラーに比べてひと回り大きく、引き締まっていて手羽が大きいのが特徴。「東京しゃも」は120日~150日かけて肥育して出荷されている。ブロイラーは50日~55日。
「東京しゃも」の丸鶏。ブロイラーに比べてひと回り大きく、引き締まっていて手羽が大きいのが特徴。「東京しゃも」は120日~150日かけて肥育して出荷されている。ブロイラーは50日~55日。

――「東京しゃも」は、一般的な軍鶏より手間をかけてつくられた鶏だということはよくわかりました。味わいは、どのように開発されたのですか?

平野さん
軍鶏肉の味に詳しいお店の料理人や店主の協力をお願いしました。アドバイスをいただいたお店の中に玉ひでさんが入っていました。当時は七代目の山田耕路さんから熱心にアドバイスをしていただき、「東京しゃも」に対する情熱は現在の八代目に受け継がれていますね。

――「東京しゃも」の肉質の特徴を教えてください。

平野さん
ほかの鶏肉と比べて、加熱したときの肉汁の損失が少なく、旨味を閉じ込める傾向にあります。さらに噛んだときにサクッとかみ切れる歯触りの良さも挙げられます。
ただ、これらの旨味、食感は品種だけでなく、餌や飼育方法によっても違いが出ます。
上が「東京しゃも」で下がブロイラー。「東京しゃも」のもも肉は赤身が強く大きい。膝から下、いわゆる「ドラムスティック」の部分のサイズにも違いがある。
上が「東京しゃも」で下がブロイラー。「東京しゃも」のもも肉は赤身が強く大きい。膝から下、いわゆる「ドラムスティック」の部分のサイズにも違いがある。

――「東京しゃも」はどのように育てられているのでしょう?

平野さん
成長に合わせて指定したトウモロコシや、大豆などの穀物を与えています。餌の成分のバランスが悪いと、肉の水分が多かったり、余分な脂がついてしまい、おいしい鶏に育たないのです。適度に身が締まって、旨味のある肉質になるように、試行錯誤して開発した餌を使っています。
飼育期間ですが、育ち方を吟味して120日~140日で出荷しています。150日くらいまで飼育することもあります。

「東京ブランドの食材なんてあるの?」――そう思う人もいるだろうが、「トウキョウX」「東京うこっけい」などの畜産品から「江戸東京野菜」など、豊かな産品がある。
「東京しゃも」もそのうちのひとつ。玉ひでの親子丼は、江戸の香りを現代に運ぶ名物だ。

加熱すると“ぷくん”と膨らむ「東京しゃも」の肉。玉ひででは、柔らかい胸肉と、歯ごたえのあるもも肉の両方を使って親子丼をつくる。
加熱すると“ぷくん”と膨らむ「東京しゃも」の肉。玉ひででは、柔らかい胸肉と、歯ごたえのあるもも肉の両方を使って親子丼をつくる。

次回は親子丼の材料を包み込む卵の秘密に迫ります。お楽しみに!

――つづく。

店舗情報店舗情報

玉ひで
  • 【住所】東京都中央区日本橋人形町1-17-10
  • 【電話番号】03-3668-7651
  • 【営業時間】親子丼は11:30~13:30(入店)、コース料理は11:45~13:30(L.O.)、17:30~21:00(L.O.)
  • 【定休日】不定休(店のホームページに告知)
  • 【アクセス】東京メトロ「人形町駅」より1分

文:鈴木桂水 写真:花井智子/山出高士

鈴木桂水さん.jpg

鈴木 桂水(ライター)

編集と執筆、ときどき写真。美食家になれない、食いしん坊の知りたがり。好奇心が強すぎて人気のラーメン店や餃子店に頼み込んで修行をしたことも。おかげで麺許皆伝。“料理の前”も知りたくて、いまは生産地巡りの日々。