名物解体新書
ふわトロに仕上がる卵の理由|玉ひでの親子丼⑤
ふわトロ卵 ふわトロ卵

ふわトロに仕上がる卵の理由|玉ひでの親子丼⑤

時代を超えて愛され続ける「玉ひで」の親子丼。どんな食材がその味を支えているのだろうか。今回は鶏肉をふんわり包む卵編。玉ひで八代目主人の山田耕之亮さんに聞いてみた。「当たり前だけど、親子丼に卵は欠かせない。色が濃いとか、銘柄鶏の卵だとか、評判の卵を選べば良いと思うでしょ?実はそうじゃないんだよ」と、予想外の答えにいきなり面食らった。

美味しいだけの卵では、玉ひでの親子丼はつくれない。

山田耕之亮さん
「卵は黄身と白身の質はもちろん、かき混ぜる回数が5回違うだけでも親子丼の仕上がりが大きく変わります」と語る「玉ひで」八代目主人の山田耕之亮さん。

「『玉ひで』の親子丼は基本的に鶏肉、卵、割下、ごはん、あしらいにねぎが入ることがあります。味を際立たせるのは鶏肉で、卵の主張が強いと『たまごかけごはん』になってしまいます」
玉ひで主人の山田さんに、親子丼に使われている卵について質問すると、ゆっくりと語り始めた。

山田さん
先代の父が生きている頃に、どこの卵が良いかという話になったんです。父と相談して、手に入る50銘柄くらいを取り寄せて食べ比べをしました。感じたのは、不自然なオレンジ色をしている黄身の卵が多いことです。
黄身の色は親鶏が食べた餌で決まります。オレンジ色にするためにはパプリカを餌に混ぜると聞いたことがあります。美味しそうに見えるからなのでしょうが、玉ひでの親子丼は、やさしい黄色の卵で仕上げてきました。黄身がオレンジ色の卵は使わないので、9割くらいの卵が候補から外れました。
香りも気になりましたね。コクのある卵をつくろうとすると、色んな餌を与えないといけない。そうすると、香りの強い卵になることがあるみたいです。
誤解がないように言っておきますが、こうした卵は「たまごかけごはん」で食べるには最適だと思います。
私達が探していたのは、「玉ひでの親子丼に最適な卵」です。黄身が黄色くて、香りにクセがなく、さらに白身と黄身のバランスが良い卵は本当に少なかった。
ふたつ並んだ卵
ふたつ並んだ卵、右の大きいサイズが親子丼に使っているL。左は鳥鍋用のMSサイズ。
割った卵
卵を割ると、親子丼用は白身が広く広がり、水分を多く含んでいる。この差が、味の違いになるという。

大切なことは卵がふんわりと具材を包むこと。

山田さん
簡単に言ってしまえばLサイズ以上の卵がいいです。このことを明かすのは今回が初めてだと思います。これ、重要なことなんですよ。SサイズやMサイズではダメなんです。ご存じかもしれませんが、卵はSでもLLでも、黄身のサイズはほとんど変わりません。卵全体のサイズが大きくなるにつれて、白身の水分量が増えます。ですから、玉ひでの親子丼をつくるには、黄身よりも白身が多いLサイズ以上が最適なんです。もし家で親子丼をつくるなら、Lサイズを使うとふんわりとして美味しい親子丼ができますよ。
ちなみに、店では決まった生産者から、玉ひで専用とも言える卵を生産していただいています。生産数が限られているので、残念ながらどこの業者かは教えられないんですよ。家庭でつくるならLサイズ以上の卵を使うのがベストです!
調理中
白身が多い卵を使うことで、割り下を中に閉じ込め、味の一体感が増す。

――産地だけでも教えてもらえませんか?

山田さん
青森県産の卵です。あとは秘密です(笑)。

――産地や鶏の品種よりも、白身と黄身の比率が重要なんですね?

山田さん
これは玉ひでの場合ということです。私見ですが、人気のある親子丼には2種類あると思っています。ひとつは加熱時間を短くして、卵がほぼ生の状態で提供される親子丼。対して玉ひでは、一度卵を固めて、仕上げに生卵をかける方法です。前者は「トロトロ」、後者は「ふわトロ」と表現すれば伝わりやすいでしょうか。卵が固まらないうちに出しているお店は、白身の多い卵を使ってることが多いように思います。
ボウルの卵
玉ひでが求める卵の質は、鮮やかなレモンイエローの黄身とたっぷりとした白身。実際に箸を入れると白身の張りに違いがあるのがわかる。

「美味しい卵は、たまごかけごはんで食べれば良い。親子丼用の卵は、主張しすぎない卵が向いている」
山田さんの話は意外だった。次回は玉ひで親子丼のレシピを披露します!

――つづく。

店外観
玉ひでの親子丼は13時30分まで。終わりの時間が近づくと、駆け足で客が訪れる。

店舗情報店舗情報

玉ひで
  • 【住所】東京都中央区日本橋人形町1-17-10
  • 【電話番号】03-3668-7651
  • 【営業時間】親子丼は11:30~13:30(入店)、コース料理は11:45~13:30(L.O.)、17:30~21:00(L.O.)
  • 【定休日】不定休(店のホームページに告知)
  • 【アクセス】東京メトロ「人形町駅」より1分

文:鈴木桂水 写真:山出高士

鈴木 桂水

鈴木 桂水 (ライター)

編集と執筆、ときどき写真。美食家になれない、食いしん坊の知りたがり。好奇心が強すぎて人気のラーメン店や餃子店に頼み込んで修行をしたことも。おかげで麺許皆伝。“料理の前”も知りたくて、いまは生産地巡りの日々。