
なめらかなあんと湯葉から、ひね鶏のスープの旨味がとろりと広がる。20回目は、清湯(チンタン)を二重に味わう湯葉あんかけ「溜腐皮(リウフピィ)」です。湯島聖堂の料理を支えた、味の原点をたどろう。
湯島聖堂料理の味の要だった「清湯(チンタン)」。味の濃いひね鶏(老鶏、親鳥とも)からとった黄金の澄んだスープは、さまざまな料理のベースに用いられていた。清湯を生かした料理を尋ねたところ、山本豊さんが真っ先に候補に挙げたのが、湯葉あんかけ「溜腐皮(リウフピィ)」だ。
「豆腐皮(ドゥフゥピィ、湯葉のこと)を使うこの料理は、現地では精進料理とされます。ただ、湯島聖堂では、スープに精進出汁を使うのではなく、老鶏のスープでつくっていました」
中国料理研究部を率いた中山時子も、この料理が大のお気に入りだった。「湯島聖堂らしい品のある料理として好評で、宴席料理でもよくつくりました」と山本さん。
それもそのはず、湯葉にたっぷりとスープを含ませ、さらにその湯葉をあんかけ仕立てのスープで包み込む。スープを二重に味わう料理なのである。
清湯のやさしい味わいと気品を損なわないように、下ごしらえにも細心の注意を払おう。
「一つひとつの工程をおろそかにせず、地道に積み重ねていくことが、味の頂点に至る道です」と山本さん。湯葉は包丁で切らずに手でちぎり、ひらひらと舞う自然な美しさを引き出す。シャキシャキとした歯ざわりを添えるもやしは、日本では安価な食材の代名詞だが、中国では「銀絲(インス)」と呼ばれ、尊ばれている。銀の糸のように、一本一本きれいに揃えたい。
スープと渾然一体となったあんと湯葉が、とろりと舌の上に広がる。ひね鶏からとった雑味のない、コク深くやさしい味わいが口の中でなめらかにほどけていく。湯葉そのものは淡泊だからこそ、含ませた清湯の滋味がじんわりとした余韻を残す。ひと口ごとにスープのよさがしみじみと伝わってくる、まさに清湯を味わうための一品なのだ。
| たぐり湯葉 | 2枚 |
|---|---|
| 干し椎茸 | 2枚 |
| 筍水煮 | 小1本 |
| もやし | 50g |
| ひね鶏のスープ | 300ml(※) |
| 日本酒 | 大さじ1 |
| 塩 | 小さじ1/3 |
| 水溶き片栗粉 | 大さじ2(水と片栗粉を2:1で合わせる) |

※ひね鶏のスープのつくり方は「清湯」を参照。
湯葉は筋にそって、7~8cm長さに手でちぎっておく。椎茸は水洗いして汚れを取り除き、軸を切ってそぎ切りにする。筍は薄切りにする。もやしは、臭みや雑味のもととなる芽と根を丁寧に取り除く。


鍋に湯を沸かし、もやし、筍を入れ、ひと煮立ちしたら取り出し、水気をきる。ボウルに少量のスープ(分量外)を入れ、塩ひとつまみを加え、筍、もやしを浸しておく。

中華鍋を熱して油をなじませてからきり、鍋の鉄臭さを取り除く。中火で鍋を熱し、スープ、日本酒、塩を加え、湯葉、筍、椎茸を入れ、ひと煮立ちさせる。もやしを加え、水溶き片栗粉をお玉でまわしながら入れ、かき混ぜる。全体がまとまったら火を止め、深めの器に盛る。


1949年高知県生まれ。68年、中国料理研究部に所属し、中国料理の道に進む。76年より中国料理研究部出身の故小笹六郎さんが開いた「知味斎」に勤務。87年、東京・吉祥寺に「知味 竹爐山房」をオープンし、旬の素材を取り入れた月替りのコース料理で中国料理界に新風を巻き起こした(2019年閉店)。著書『鮮 中国料理味づくりのコツ たまには花椒塩を添えて』、共著『野菜の中国料理』、『乾貨の中国料理』(すべて柴田書店)など携わった本は、中国料理を志す人にとって必携の書になっている。

文:澁川祐子 撮影:今清水隆宏 調理協力:藤本諭志(「シルクバレル」店主)