湯島聖堂の料理帖~戦後の日本に伝わった“本当の中国料理”~
【ひね鶏でとるクリアなスープは唸るほど旨い】中華の基本スープ「清湯(チンタン)」で、最高の〆ラーメン(清湯麺)をつくろう!

【ひね鶏でとるクリアなスープは唸るほど旨い】中華の基本スープ「清湯(チンタン)」で、最高の〆ラーメン(清湯麺)をつくろう!

脂っこさがなくピュアな味わいで、唸るほど旨い。18回目は、湯島聖堂の味の決め手だったひね鶏のスープ「清湯(チンタン)」と、そのスープをシンプルに生かした「清湯麺(チンタンミェヌ)」です。食材のエキスを味わう「湯(タン)」を通して、中国料理の真髄に迫ろう。

澄んだスープをつくるコツは火加減にあり

一口含めば、深く穏やかな滋味がじんわりと体にしみ入る。味が濃く、脂肪の少ないひね鶏(老鶏、親鳥とも)の旨味を最大限に引き出した、黄金の澄んだスープ「清湯(チンタン)」。山本豊さんは「このスープこそ、湯島聖堂料理の真髄に触れる味です」と語る。

「赤身の豚を使った湯が庶民の味であるのに対し、老鶏の清湯は宮廷料理にも使われる最高級のものとされてきました。南方の広東では豚や金華ハムも加えますが、北方では老鶏のみを使ったスープが、さまざまな料理の味のベースになります」

ねぎや生姜の香味野菜を一緒に煮ることもあるが、湯島聖堂では老鶏だけを使い、クリアで濃厚な湯をとるのが日常だった。

重要なのは、丸鶏を煮る火加減だ。火力は強すぎても弱すぎても旨味を十分に引き出せない。

「ふつふつと海老の目のような泡がわき上がる『蝦目湯(シャイェンタン)』の状態がベスト。菊の花が下からふわっと開くように見えることから『菊花湯(ジュウホワタン)』と表現することもあります。表面が静かでも、ボコボコと沸騰している状態でもいけませんし、沸騰し始めの小さな泡が絶えず上がる火加減を保つことが、スープを濁らせずに、エキスを最大限引き出すコツです」

丹念にアクを取り除き、静かに漉すことも忘れずに。さらに透明度を高めるため、鶏と豚の挽き肉を練っただんごをスープに投じ、アクや濁りを吸着させる手の込んだ調理法もある。それほどまでに、澄んだ仕上がりが重視されるのだ。

じっくり煮出した清湯は、ほんの少しの味つけで絶品の一碗になる。スープそのものを味わうシンプルな清湯麺に加え、本誌では湯島聖堂のコース料理で〆の双璧だった「搾菜肉絲湯麺」と「鶏絲湯麺」を紹介。極上の一杯を思い浮かべ、根気よく鍋に向き合おう。

ひね鶏のスープのつくり方

材料材料 (つくりやすい分量)

ひね鶏1羽(約3kg)

※8Lの寸胴鍋、家庭では出刃包丁を用意。

丸鶏
市販の丸鶏はほぼ若鳥なので、ひね鶏(老鶏、親鳥)は精肉店に頼んで用意してもらうか、ネットで冷凍品を注文。半日ほどかけて常温で自然解凍するか、流水で解凍して使用。

1丸鶏を切り分ける

鶏の背骨の脇に沿って、お尻から包丁を入れて開く(写真1枚目)。背を上にして開き、中心の胸軟骨を包丁の刃元を使って叩き切る(2枚目)。鍋に入らなければ、ももの付け根を切り、四つにカットする(3枚目)。

包丁を入れて開く
胸軟骨を叩き切る
四つにカットする

2湯洗いをする

表面の汚れと臭みを取るために、鶏を水からゆでて湯洗いをする。鍋に水、鶏を入れて火にかける(1枚目)。沸騰して2〜3分経ったら取り出し、水を張ったボウルに移して粗熱を取る(2枚目)。

火にかける
粗熱を取る

3流水で洗う

流水にさらしながら、背骨の周りについている内臓を取り除く(1枚目)。お尻の脂肪も取り除き、きれいに洗い流す(2枚目)。

内臓を取り除く
きれいに洗い流す

4倍量の水でゆでる

鍋に、鶏の重量に対して倍の水(6L)を入れて火にかける(1枚目)。沸騰してアクが出てきたら、脂も一緒に丁寧にすくい取る(2枚目)。

火にかける
アクをとる

5ふつふつと4時間煮る

“海老の目”のような泡がふつふつとわく程度の火加減で、約4時間煮る(1枚目)。途中、鍋の水分が少なくなったら、適宜水を足す。完成時にスープの量が煮始めの3分の2(4L程度)になるのが目安(2枚目)。漉す前に表面に浮いた鶏油をすくい取っておく(冷蔵庫で冷やし、固まった脂を保存。炒め物のコク出しなどに活用できる)。

“海老の目”のような泡
鶏油をすくい取る

6スープを漉す

ボウルにキッチンペーパーを敷いたザルを置き、スープを静かに漉す(1枚目)。キッチンペーパーは絞らずにそっと取り出す(2枚目)。

漉す
キッチンペーパーを取り出す
完成
よいスープをとることは、中国料理の基本。鶏のスープには鶏ガラを使うことも多いが「湯島聖堂では必ずひね鶏を用いていた。老鶏の濃厚なスープに慣れているので、鶏ガラではシャバシャバと薄く感じます」と山本さん。目指すのは、濃厚で透明感のあるこの仕上がりだ。

ごくシンプルな清湯麺で、ひね鳥スープを堪能しよう

清湯麺

ひね鶏のエキスが凝縮された清らかなスープは、ほんの少し味を調えるだけで、驚くほど満足感のある仕上がりに。細麺をゆでてスープと合わせ、白髪ねぎを散らし、青菜の芯を好む中国料理らしく彩りにチンゲン菜の芯をあしらったのがこの清湯麺。飲んだ後の〆にもうってつけの、シンプルを極めた一杯を堪能しよう。

清湯麺のつくり方

スープ300mlを沸かし、日本酒小さじ1/2、塩小さじ1/3、白胡椒少々を入れて味を調える。器に規定時間通りにゆでた細麺(130g)を入れスープを注ぎ、白髪ねぎ、ゆでた青菜の芯をのせれば出来上がり。

教える人

山本豊

山本豊

1949年高知県生まれ。68年、中国料理研究部に所属し、中国料理の道に進む。76年より中国料理研究部出身の故小笹六郎さんが開いた「知味斎」に勤務。87年、東京・吉祥寺に「知味 竹爐山房」をオープンし、旬の素材を取り入れた月替りのコース料理で中国料理界に新風を巻き起こした(2019年閉店)。著書『鮮 中国料理味づくりのコツ たまには花椒塩を添えて』、共著『野菜の中国料理』、『乾貨の中国料理』(すべて柴田書店)など携わった本は、中国料理を志す人にとって必携の書になっている。

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文:澁川祐子 撮影:今清水隆宏 調理協力:藤本諭志(「シルクバレル」店主)

澁川 祐子

澁川 祐子 (ライター・編集者)

食と工芸を中心に編集、執筆。著書に『味なニッポン戦後史』(インターナショナル新書)、『オムライスの秘密 メロンパンの謎ー人気メニュー誕生ものがたり』(新潮文庫)、編集・構成した書籍に山本教行著『暮らしを手づくりするー鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)、山本彩香著『にちにいましーちょっといい明日をつくる琉球料理と沖縄の言葉』(文藝春秋)など。