湯島聖堂の料理帖~戦後の日本に伝わった“本当の中国料理”~
【バターにも似た濃厚な味わい】海老の甘さを油で引き立てる「海老のトースト揚げ」(麺包蝦仁)は、"聖堂料理"を代表する昭和の名菜

【バターにも似た濃厚な味わい】海老の甘さを油で引き立てる「海老のトースト揚げ」(麺包蝦仁)は、"聖堂料理"を代表する昭和の名菜

油のコクに包まれた、トーストと風味豊かな海老の味わい。15回目は、ちょっとクラシカルな海老トースト揚げ「麺包蝦仁(ミエヌパシャオレヌ)」です。身近な材料も“揚げ”のマジックで、華やかな一皿に早変わり!

低温からスタート、最後は高温でカラリとフィニッシュ

サクサクとした軽いトーストに、濃厚な海老の甘さと油のコクとが重なり合う。気軽につまめる海老のトースト揚げ「麺包蝦仁(ミエヌパシャオレヌ)」は、湯島聖堂のケータリングに必携の料理だったと山本豊さんは語る。

「今日は200人のパーティーだよ、となったときは、麺包蝦仁の出番です。揚げる手前まで聖堂の調理場で仕込んでバットに入れ、それを5、6段重ねて新聞紙でくるむ。昭和40年代前半の当時は、まだラップがそれほど普及していなかった時代ですから。それらを、ずれないように紐をかけて車に積み込み、会場に着いたら、どでかい中華鍋で一気に揚げるんです。大人数の催しのときには重宝しました」

中国料理研究部の講座でも、この料理がたびたび紹介された。講師を務め、のちに中国料理研究会を主宰する木村春子も、レシピ集で繰り返し取り上げている。まさに、湯島聖堂の中国料理研究部を代表するレシピと言ってよい。

つくり方のコツは、パンがカラリと揚がるように、あらかじめトーストして水分を抜いておくこと。さらにすり身が剥がれないように、トーストに片栗粉をまぶすこと、揚げるときは低温で先にすり身側から火を通すことだ。揚げているうちにだんだんと油の温度が上がり、最後は高温でカラリと仕上げる。

ちょっとしたコツをおさえれば、手に入りやすい材料で簡単につくれる。子どもから大人まで幅広く好まれる味わいで、食べやすく、食卓も華やぐ。もてなし料理のレパートリーに加えたい一品だ。

海老トースト揚げのつくり方

材料材料 (4人分)

芝海老むき身200g
食パン2枚(8枚切)
大さじ2(約50g)(みじん切り)
干し椎茸大さじ2(約25g)(水で戻したもの、みじん切り)
小さじ1
小さじ2/3
片栗粉適量
パセリ適量
揚げ油適量

1海老の下ごしらえをする

海老は背ワタを取る。ボウルに海老、片栗粉(分量外)、水を適量入れてもみ込み、表面の汚れや臭みを片栗粉に付着させて取り除く。水で洗い流し、キッチンペーパーで水分をしっかり取り除く。

海老の下ごしらえをする
片栗粉を先にまぶしてなじませてから、水を少量加えてもみ込む。

2具をつくる

包丁の腹を使って海老を平らに叩き、粗く刻む。ボウルに海老、酒、塩を加えてよく練り混ぜる。筍、椎茸を入れ、均一に混ぜ合わせる。

具をつくる
包丁の腹で、海老の身を叩いて潰す。
具をつくる
粗く刻んで、海老の食感を残す。
具をつくる
海老に調味料を加えて練ってから、筍、椎茸を混加える。

3トーストを準備する

食パンはトースターで1分ほど焼き、水分を飛ばしてカリッとさせる。耳を切り落とし、4等分に切り分ける。トーストの片面に片栗粉を軽くまぶす。

トーストを準備する
食パンはトーストしてから、切り分ける。
トーストを準備する
片栗粉を指に軽くつけ、トーストの片面にポンポンとはたいてまぶす。

4具をのせる

8等分にして丸めた2をトーストにのせる。ヘラで中心から外側へならすようにして塗り広げ、中心にパセリをちらす。

具をのせる
丸めた海老のすり身をトーストの中心におく。
具をのせる
中心を盛り上げるようにして、端までしっかりすり身を塗る。
具をのせる
中心に刻んだパセリをあしらう。

5揚げる

中華鍋に油を入れて120~130℃に熱し、すり身を塗った側を下にして静かに入れる。色づいたら裏返し、トーストがカリッと黄金色に色づくまで揚げる。再び返し、海老のすり身側もきつね色になるまで揚げる。ジャーレンなどですくって油をきる。

揚げる
長ねぎの切れ端を入れ、小さな泡がふつふつ生じる程度が温度の目安。ねぎは取り出す。
揚げる
すり身を塗った側を下にして入れ、先にすり身を熱で固める。
揚げる
軽く色づいたら返して、トーストを揚げる。
揚げる
トーストがこんがりときつね色になったら、再び返し、すり身側もきつね色になるまで火を通す。
揚げる
形が崩れないように、海老のすり身側を上にしてすくう。
完成
揚げることで海老の風味と旨味が引き出され、バターにも似た濃厚な味わいが口の中に広がる。トーストのサクッと軽い食感とあいまって、もうひとつと手を伸ばしたくなる美味しさだ。

dancyu2026年夏号に掲載中の「湯島聖堂の料理帖」では、揚げ物がぐんと香りよく仕上がる油の処理方法など、揚げ方の基本テクニックを紹介しています。ぜひそちらもご覧ください。

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教える人

山本豊

山本豊

1949年高知県生まれ。68年、中国料理研究部に所属し、中国料理の道に進む。76年より中国料理研究部出身の故小笹六郎さんが開いた「知味斎」に勤務。87年、東京・吉祥寺に「知味 竹爐山房」をオープンし、旬の素材を取り入れた月替りのコース料理で中国料理界に新風を巻き起こした(2019年閉店)。著書『鮮 中国料理味づくりのコツ たまには花椒塩を添えて』、共著『野菜の中国料理』、『乾貨の中国料理』(すべて柴田書店)など携わった本は、中国料理を志す人にとって必携の書になっている。

文:澁川祐子 撮影:今清水隆宏 調理協力:藤本諭志(「シルクバレル」店主)

澁川 祐子

澁川 祐子 (ライター・編集者)

食と工芸を中心に編集、執筆。著書に『味なニッポン戦後史』(インターナショナル新書)、『オムライスの秘密 メロンパンの謎ー人気メニュー誕生ものがたり』(新潮文庫)、編集・構成した書籍に山本教行著『暮らしを手づくりするー鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)、山本彩香著『にちにいましーちょっといい明日をつくる琉球料理と沖縄の言葉』(文藝春秋)など。