湯島聖堂の料理帖~戦後の日本に伝わった“本当の中国料理”~
【筍の最高の食べ方】醤油をまぶすのが秘訣!「春筍の素揚げ」は、旬を極める湯島聖堂レシピの真骨頂

【筍の最高の食べ方】醤油をまぶすのが秘訣!「春筍の素揚げ」は、旬を極める湯島聖堂レシピの真骨頂

春筍をシンプルに味わうならこれ!14回目は、醤油をまぶした筍を高温でカラリと揚げた、春筍の素揚げ「乾炸春笋(ガンジャアチュンスン)」です。素材と旬を極める湯島聖堂レシピの真骨頂をご堪能あれ。

筍の食感を引き出す極意は、乾かすひと手間にあり

ガリッと香ばしく揚げた春筍。淡くまとわせた醤油の塩気が、筍の穏やかな甘みを際立たせ、口の中が馥郁(ふくいく)とした春の香りで満たされる。

筍を味わうなら、この湯島聖堂レシピが一番だと太鼓判を押す山本豊さん。

「中国清代に書かれた美食の名著『随園食単』で、著者の袁枚(えんばい)は料理の心得として“季節を知ること”を重んじています。同書をバイブルとしてきた中国料理研究部にとって、新鮮な若い筍をシンプルに素揚げしたこの料理は、まさにその教えにかなうと言えるでしょう」

袁枚の孫にあたる袁祖志(えんそし)が著した『随園瑣記(ずいえんさき)』には、袁枚の並々ならぬ旬への思い入れを示す逸話がある。筍は、土から頭を出していないもののほうが柔らかく美味なため、袁枚は太ったいい筍を見つけると、掘り出すまで土をかけておいたという。もちろん、掘ったら夜を越さずにすぐ料理するのが鉄則だ。

そこまで徹底することは難しいが、できるだけ掘りたてに近い新鮮なものを入手して、料理に取りかかりたい。

筍のアク抜きの時間はかかるが、あとは高温で手早く揚げるだけだ。「乾炸」は基本、下味をつけた後に粉をはたいて揚げることを指すが、この場合は下味だけで粉をまぶさなくていい。ただし、「筍に下味をつけたあと、しっかりと表面全体を乾かすこと」だけは守ってほしいと山本さん。このひと手間が、外側はガリッと、内側はほっくりとした歯ざわりの抑揚を生み出す。

一年に一度、この時期だけのご馳走。筍ごはんや若竹煮もいいけれど、このシンプルなレシピで、ぜひ筍の持つポテンシャルに目覚めてほしい。

春筍の素揚げのつくり方

材料材料 (つくりやすい分量)

春筍小1本
醤油小さじ2
紹興酒小さじ1
花椒塩適量(※)
パクチー適宜(なくても可)
★ アク抜き用
20g
唐辛子2本(半分に切って種を除く)

※花椒塩のつくり方は第3回を参照してください。

1アク抜きをする

筍の皮をむく。鍋に水、唐辛子と糠、筍を入れて火にかける。沸騰したら火を弱め、50分ほど柔らかくなるまでゆでる。筍が浮かないように落とし蓋をし、ゆで汁に一晩漬ける。

アク抜きをする
先を斜めに切り落とす。
アク抜きをする
先端部分の縦半分に浅く切り込みを入れる。
アク抜きをする
ささがきの要領で、筍を回しながら表面の皮を削ぎ落とす。皮がかたい場合は、何枚か手で剝いてから包丁を使う。
アク抜きをする
外側の茶色い皮がなくなればOK。
アク抜きをする
水からゆで、ゆで終わったらそのまま一晩ゆで汁に漬けて「湯止め」をするのが、しっかりアクを抜くコツ。

2筍を切る

糠を洗い落とし、姫皮をむく。根元のイボを削り落とす。根元は輪切りにしてから拍子切りにする。根元は竹串を刺してかたければ取り除き、小さく刻んでほかの料理に使うとよい。先は八等分に切る。

筍を切る
筍を切る
筍を切る
筍を切る
筍を切る
先と根元の長さは同じ長さに切り揃える。除いた姫皮は、刺身などほかの料理に。

3下味をつける

鍋に水、筍を入れて火にかけ、ひと煮立ちさせる。水を切ってボウルに移し、醤油、紹興酒を加えて軽く混ぜ合わせる。ザルにあげ、風通しのよいところで表面がしっかりと乾くまで10〜15分おく。

下味をつける
ゆでたての熱いうちに調味料を絡ませると、味がしみ込みやすくなる。
下味をつける
調味料は全体にさっと絡める程度でOK。
下味をつける
ザルの上に広げ、表面全体の水分をしっかり飛ばす。

4揚げる

中華鍋に油を入れて200~240℃の高温に熱し、こんがりときつね色になるまで揚げる。ザルにあげて油を切り、花椒塩を振る。器に盛り、パクチーを添える。

揚げる
均等に火が通るように、ヘラで手早くかき混ぜながら揚げる。
完成
「カリッとではなく、ガリッと強めの火を入れるんです。これが美味しいんですよ」と山本さんに力説され、食べてみたさにこの料理を取り上げることに。今までに味わったことのない、筍の甘み、香り、食感の三拍子を体感できた。

教える人

山本豊

山本豊

1949年高知県生まれ。68年、中国料理研究部に所属し、中国料理の道に進む。76年より中国料理研究部出身の故小笹六郎さんが開いた「知味斎」に勤務。87年、東京・吉祥寺に「知味 竹爐山房」をオープンし、旬の素材を取り入れた月替りのコース料理で中国料理界に新風を巻き起こした(2019年閉店)。著書『鮮 中国料理味づくりのコツ たまには花椒塩を添えて』、共著『野菜の中国料理』、『乾貨の中国料理』(すべて柴田書店)など携わった本は、中国料理を志す人にとって必携の書になっている。

文:澁川祐子 撮影:今清水隆宏 調理協力:藤本諭志(「シルクバレル」店主)

澁川 祐子

澁川 祐子 (ライター・編集者)

食と工芸を中心に編集、執筆。著書に『味なニッポン戦後史』(インターナショナル新書)、『オムライスの秘密 メロンパンの謎ー人気メニュー誕生ものがたり』(新潮文庫)、編集・構成した書籍に山本教行著『暮らしを手づくりするー鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)、山本彩香著『にちにいましーちょっといい明日をつくる琉球料理と沖縄の言葉』(文藝春秋)など。