湯島聖堂の料理帖~戦後の日本に伝わった“本当の中国料理”~
【えっ、噛むと鈴の音が聞こえる!?】シャリシャリッと小気味よい音を立てて崩れ、旨味たっぷりの肉餡と混ざり合う粋な杭州名菜「湯葉包み揚げ」(炸響鈴)

【えっ、噛むと鈴の音が聞こえる!?】シャリシャリッと小気味よい音を立てて崩れ、旨味たっぷりの肉餡と混ざり合う粋な杭州名菜「湯葉包み揚げ」(炸響鈴)

鈴の音のようなシャリシャリとした軽やかな音と歯ざわり。15回目は、湯葉包み揚げ「炸響鈴(ヂァシャンリン)」です。揚げ湯葉の味と食感を楽しむ“音を食べる料理”で揚げのテクニックを学ぼう。

湯葉はゆるく巻かないと、肝心のいい音が出ない 揚げ方だけじゃない。巻き方にもコツがあった!

カラリと揚がった湯葉が、口の中でシャリシャリッと小気味よい音を立てて崩れ、肉餡の旨味と混ざり合う。杭州名菜として知られる湯葉包み揚げ「炸響鈴(ヂァシャンリン)」。「炸」は「揚げる」を意味し、その軽やかな歯音を鈴の響きになぞられている。

山本豊さんが湯島聖堂で働きはじめた頃、中国料理研究部を率いていた中山時子に、この料理をつくって厳しく叱られた記憶がある。

「食べたときにあまり音がしなかったんでしょうね。『山本くん、これ、シャリシャリじゃないわよ。こんな音では炸響鈴とは言いません』と怒られました」

失敗の原因は、湯葉をきつく巻き過ぎたことだった。ぴしっと巻けば見た目はきれいに仕上がるが、肉餡の水分が湯葉にしみ込み、肝心の食感が損なわれてしまう。「7分くらいの緩さで巻くのがポイントです」と山本さん。

揚げ方にもコツがある。最初に高温の油で皮に熱を加えて火ぶくれさせ、次に油の温度を下げてじっくり中まで火を通す。二度揚げすることで、湯葉特有のシャリシャリとした歯ざわりを存分に引き出す。

なぜこの料理に、この名がついているのか――。そう考えれば、自ずと咀嚼するときの音こそが、この料理の核心だとわかる。原点に忠実だった湯島聖堂の姿勢が伝わる一品だ。ぜひ、その軽やかな響きごと味わってほしい。

湯葉包み揚げのつくり方

材料材料 (4~5人分)

豆腐皮3枚(冷凍の半乾燥湯葉)
豚ひき肉200g
干し椎茸3枚(水で戻す、みじん切り)
筍水煮45g(みじん切り)
長ねぎ60g(みじん切り)
生姜10g(みじん切り)
1/2個(溶いておく)
醤油大さじ1
大さじ1/2
胡麻油大さじ1/2
小さじ1/2
小麦粉大さじ3(大さじ2強の水で溶いておく)
揚げ油適量

1下ごしらえをする

豆腐皮は解凍し、約15×20cmの長方形に切る。乾燥しないように、濡れ布巾で挟んでおく。

下ごしらえをする
冷凍した状態で販売されている。冷蔵庫で自然解凍するか、もしくは袋に入ったまま流水にさらして解凍する。

2肉あんをつくる

ボウルに豚ひき肉、醤油、酒、塩を入れ、粘りが出るまでよく練る。卵を加えて混ぜ、混ざったら椎茸、筍、ねぎ、生姜を加えてさらに混ぜる。最後に胡麻油を入れて混ぜ合わせる。

肉あんをつくる
最初にひき肉と調味料を合わせ、握り潰すようによく練る。
肉あんをつくる
粘りが出たら、卵を加える。先に卵を加えると、粘りが出ず、ジューシーな肉餡にならない。

3あんを豆腐皮で包む

豆腐皮を広げ、6等分した2を、両端を空けて手前にのせる。肉をのせていない三方の端に、水で溶いた小麦粉の糊を塗る。具のほうから軽く巻き、巻き終わりを下にして、両端を押さえて、しっかり閉じる。

あんを湯葉で包む
手前に、肉餡を円筒状に均一にのせる。
あんを湯葉で包む
三方に、端まできっちりと糊を塗る。
あんを湯葉で包む
両手でふんわりと緩く巻いていく。
あんを湯葉で包む
巻き終わりを下にして、両端を親指のつけ根でぐっと押さえ、剥がれないようにしっかりとくっつける。

4揚げる

中華鍋に油を入れ、200℃〜240℃の高温に熱し、温度が下がらないように、【3】を2本ずつ滑り入れて揚げる。豆腐皮がバリバリとふくれ、色づいたらいったん取り出す。6本とも揚げたら中火にし、冷たい油を1/3量加え、揚げ油の温度を120℃くらいまで下げる。肉あんに火が通るように、転がしながら5分くらいじっくりと揚げ、最後は強火にし、濃いきつね色になったらジャーレンなどですくって油をきる。端を切り落としてから4等分に切り、器に盛る。

揚げる
長ねぎの切れ端を入れ、パチパチと弾けたら高温になった証拠。ねぎは取り出す。
揚げる
転がしながら油をかけ、均一に火を通す。
揚げる
きつね色になったら、いったん取り出す。
揚げる
油温を120℃に下げたら鍋に戻し、時折返しながら、じっくりと火を通す。
揚げる
こんがりと茶色く色づいたら、揚げ上がり。
揚げる
包丁をすとんと垂直に下ろして、一気に切る。
完成
シャリシャリとした揚げ湯葉と、柔らかくジューシーな肉餡の名コンビ。食べごたえのある一品は、もてなしにもぴったりだ。

dancyu2026年夏号に掲載中の「湯島聖堂の料理帖」では、揚げ物がぐんと香りよく仕上がる油の処理方法など、揚げ方の基本テクニックを紹介しています。ぜひそちらもご覧ください。

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教える人

山本豊

山本豊

1949年高知県生まれ。68年、中国料理研究部に所属し、中国料理の道に進む。76年より中国料理研究部出身の故小笹六郎さんが開いた「知味斎」に勤務。87年、東京・吉祥寺に「知味 竹爐山房」をオープンし、旬の素材を取り入れた月替りのコース料理で中国料理界に新風を巻き起こした(2019年閉店)。著書『鮮 中国料理味づくりのコツ たまには花椒塩を添えて』、共著『野菜の中国料理』、『乾貨の中国料理』(すべて柴田書店)など携わった本は、中国料理を志す人にとって必携の書になっている。

文:澁川祐子 撮影:今清水隆宏 調理協力:藤本諭志(「シルクバレル」店主)

澁川 祐子

澁川 祐子 (ライター・編集者)

食と工芸を中心に編集、執筆。著書に『味なニッポン戦後史』(インターナショナル新書)、『オムライスの秘密 メロンパンの謎ー人気メニュー誕生ものがたり』(新潮文庫)、編集・構成した書籍に山本教行著『暮らしを手づくりするー鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)、山本彩香著『にちにいましーちょっといい明日をつくる琉球料理と沖縄の言葉』(文藝春秋)など。