いよいよ食欲の秋本番!第3回は濃厚な旨味を持つ牛ハラミに日本の根菜を組み合わせた、ワインにも合う筑前煮。EU×和食を見事に融合させた“パーフェクトマッチ”なレシピを、人気和食店「鈴なり」の村田明彦さんに教えていただきました。
「身近なEU食材は?」と聞かれてまず思い浮かぶのは、ワインやチーズ、オリーブオイルだろう。だが、実は肉、シャルキュトリー、鮮魚、果物、調味料、穀物、スパイス、製菓材料など、幅広いジャンルのEU食材が私たちの食生活を豊かに彩っている。
品質の高さやおいしさはもちろん、日本で長く支持されてきた理由の一つに、世界でもっとも厳格といわれている生産基準がある。地球環境や動物福祉を重視した飼育方法、殺虫剤や化学物質の使用には厳しい規制があり、トレーサビリティなど情報開示にも積極的だ。安全性と持続可能性を追求した生産者の真摯な取り組みに、多くの人が賛同しているからに他ならない。
東京・荒木町にある「鈴なり」は、伝統をベースに、枠にはまらないユニークな発想や技法を盛り込んだ日本料理が話題。店主・村田明彦さんはEU食材も普段から取り入れているそう。和食にヨーロッパの食材?と疑問を投げかけると、
「和食には、余計なものを削ぎ落として、素材そのもののおいしさに迫るという側面があります。本質的な旨さを持つEU食材とは、もともと感性や考え方が似ているんですね。それぞれの持ち味を重ね合わせても違和感がなく、旨みがより豊かに膨らみます」と村田さん。
今回教えていただいたレシピは、いずれも我々が食べ慣れている和の定番おかず。EU食材を巧みにあやつる村田流マジックで、思いがけないおいしさが生まれることに驚いた。
「和食=(イコール)シンプルなだけじゃつまらない。EU食材を取り入れることで、旨みや複雑味が加わりつつも、全体がきれいにまとまる。お酒にも合うでしょう?」と茶目っ気たっぷりの村田さん。世界を魅了してきたEU食材の本領発揮!自由でのびやかな和食の世界をぜひ楽しんでほしい。
濃厚な旨味とほどよい弾力のある肉質、あっさりとした脂が人気の牛ハラミ(横隔膜)。一頭から取れる量が少なく、熱狂的なファンが多い稀少部位でもある。ポーランドはヨーロッパが誇る牛肉の一大生産地。広大な自然のなか、放牧と有機肥料を基本に、持続可能性を重視したさまざまな取り組みが質の高さにつながっている。
青りんごや緑色のバナナを思わせる爽やかな香りとサラリとした口当たりが持ち味のPDO(原産地名称保護)オリーブオイル。収穫後にコールドプレス(低温圧搾)、ノンフィルター製法で抽出し、さらに低温コンテナで輸送して品質を管理。フレッシュな風味と栄養成分が余すところなく味わえる。和食との相性も抜群だ。
女帝マリア・テレジアが愛したワインとして、ヨーロッパでも一目置かれるスロバキア産の赤。コンポートにしたブラックベリーやプラムを思わせる豊かな果実味とタンニン、まろやかな酸のバランスが見事で、冷涼地であるスロバキアでもフルボディのワインが作れることを見事に証明している。肉料理はもちろん深みのある煮込み料理にもぴったり。
「牛ハラミは焼いて食べるのが一般的なイメージですが、このハラミは煮込んでも旨味が抜けず、ジューシーで驚きました」と村田さん。赤身らしい野性的な旨味は、土の香りを持つ和の根菜と好相性。合わせるのは、しっかりとした骨格と豊かな果実味を湛えるスロバキア産の赤ワイン。筑前煮との意外で絶妙なマリアージュを楽しませてくれる。
ポーランド産牛ハラミ | 200g |
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ごぼう | 50g |
にんじん | 40g |
大根 | 10cm |
さやいんげん | 4本 |
こんにゃく | 1/2丁 |
スロバキア産フルボディの赤ワイン | 大さじ2 |
ポルトガル産リバテージョオリーブオイル(PDO) | 大さじ2 |
A | |
・ 鰹昆布だし | 3カップ |
・ 醤油 | 40ml |
・ みりん | 40ml |
・ 砂糖 | 10g |
ごぼう、にんじん、大根は一口大の乱切りにする。さやいんげんは幅3cmにカットする。こんにゃくは一口大にちぎる。
鍋に①の材料とかぶるくらいの水を入れて中火にかける。5分ほどゆでたらザルに上げて水気を切る。
牛ハラミのドリップをキッチンペーパーで拭き取り、一口大にカットする。フライパンにオリーブオイルをひいて中火で熱し、牛ハラミを炒める。さやいんげん以外の②の野菜を入れてさらに炒める。
赤ワインを振り入れる。約1分間、沸騰させてアルコール分を飛ばしたらAを加えて煮る。
野菜が柔らかくなったら、仕上げにさやいんげんを入れる。
老舗日本料理店「なだ万」で13年間研鑽を積んだ後、2005年「鈴なり」を開店。本格的な和食に独自の発想を加えたオリジナリティあふれる料理は和食初心者から食通まで幅広いファンをつかんでいる。プロの技をわかりやすく楽しく伝えるトークに定評があり、雑誌やWeb、テレビでも活躍中。農林水産省和食文化の振興プロジェクトの「和食給食応援団」メンバー、「チーム・シェフ」の活動にも参加。著書に『ムズカシイことぬき!きほんの和食。』(講談社)などがある。
原産地呼称保護(PDO)および地理的表示保護(PGI)は、特定の地域で生産され、特定の伝統的な生産工程を経た製品の名称を保護するものです。ただし、この2つには違いがあり、主に原材料のどれだけがその地域で生産されているか、あるいは生産工程のどれだけが特定の地域で行われているかに関連しています。ヨーロッパの食品と飲料は、欧州大陸の文化的多様性と豊かな土地を反映しています。
3つ目の、EUオーガニック認証「グリーンリーフ」は、有機農産物に関するEUの厳格なガイドラインを遵守していると認められた製品に付けられます。各工程の95%以上がEU規制当局により「オーガニック」と認められた製品にのみ「グリーンリーフ」ラベルが表示されています。
文:鈴木美和 撮影:海老原俊之