山形の在来作物「温海カブ」を知る。穫る。食べる。
甘酢漬けでしか食べられてこなかった山形の「温海カブ」を料理する。

甘酢漬けでしか食べられてこなかった山形の「温海カブ」を料理する。

400年前から続く焼畑農法でつくられる山形の在来種「温海カブ」。冬空の下、森の斜面でたんまりと収穫したら、いざキッチンへ!

温海カブ=甘酢漬け。たしかに完成されたおいしさである。

山形県の在来種である「温海カブ」。畑で育てられるものもあるが、いにしえより伝わる自然農法にして、林業と一体となった栽培方法「焼畑」で育てられるものは、「焼畑あつみかぶ」として地元で流通している。

温海カブ
山の急斜面で収穫されたばかりの温海カブ。
料理家のマツーラユタカさんも収穫しました!

「地元では99%甘酢漬けになるんですよ」
温海町森林組合の忠鉢春香さんが言う。
なんとまあ。鮮やかなピンク色のカブは、ほぼすべてが甘酢漬けにされると聞いて驚く。

甘酢漬け
「こんな感じでね」と忠鉢春香さんが差し出してくれた甘酢漬け。ピンク色がきれいです。

地元では馴染みの味だが、あらためて試食させていただくと、コリコリ、パリパリとして旨い。止まらない。ついつい、もうひと切れと手が動く。

コリッとした食感、甘酸っぱさの奥にほのかな辛味。塩、酢、砂糖のシンプルな材料で漬けた温海カブは、中まできれいなピンク色に。雪に閉ざされる冬の鶴岡、晴れる日がほとんどないグレイスカイな土地にあって、この温海カブの紅色は、食卓に灯ったあたたかな光だったのだ。
風土に溶け込んだ、完成されたレシピだなぁと、深く深く噛みしめる(ダブルミーニング)。

ほぼすべての温海カブは甘酢漬けになる。それゆえの問題も……。

おいしくて、保存が効く。温海カブの甘酢漬けは、この地域の冬の食卓にはなくてはならないもの。でも用途が限られることで、問題もあるという。忠鉢さんの話に耳を傾ける。

「温海カブのほぼすべてが甘酢漬けになるので、出荷先はほとんどが漬物メーカーさんです。それゆえに規格が厳格なんです」

続いて、今回の温海カブの案内人にして、山形の食材でつくるピクルスブランド「beni.」を手がける松本のりこさんが漬物メーカーの事情について教えてくれる。
「漬物屋さんでは、とっても大きな樽に温海カブをぎっしり並べて、漬物を漬けるんです。形や大きさにバラつきがあると、漬けムラが出てしまいます。だから買い取る側としては、同じ大きさのカブを求めます。直径8cmぐらいの偏平型、これが温海カブの理想的な大きさや形とされるのですが、漬物屋さんが買い求めるのもこのサイズのみ。規格がすごくすごく厳しいんです」

在来種の図
山形県の在来カブは、ひょろ長いもの、赤いものなど約13種にも上るという。

温海カブは、もともと種を採って繋いでいく在来種。同じ大きさに育つように品種改良された種を買って育てるF1種とは異なり、大きさや形もバラつきが出てしまうもの。つまりロスが多くなってしまうのだ。
温海町森林組合では、漬物用途以外の販路を確保したり、レシピブックを制作して、新たなる料理法を啓蒙し、食材の可能性を広げる活動も行ってきた。

さて、在来カブをどう料理しよう。

鶴岡の冬の風物詩とも言える焼畑育ちの「焼畑あつみかぶ」収穫に立ち会った。
甘酢漬としてのおいしさが、あまりにも完成されていることはまぎれもない事実だが、料理法が固定化されすぎているのは、もったいない。
食材としての可能性を楽しんでみるべく、キッチンへ持ち帰ってみる。

マツーラさん夫妻
鶴岡にて、マツーラさんが妻のミスミノリコさんと共に営むカフェ&セレクトショップ「manoma」。

ちょうど同じタイミングで友人の農家である五十嵐大輔さんが、同じく鶴岡の在来種である「宝谷(ほうや)かぶ」を持ってきてくれた。
こちらも林業が盛んだった宝谷地区でいにしえから続いてきた在来作物。時代の変遷とともに種採りする農家さんも1軒だけ、という存亡の危機にもあったが、在来作物を見直す様々なムーブメントの中で、種を譲り受け、宝谷かぶを育てる農家の輪が少しずつ広がってきた。五十嵐さんも宝谷かぶの生産に名乗りをあげた農家のひとりで、森ではないが、自分の畑の傾斜地をわざわざ焼畑して育てるというこだわりようだ。

さて2種類のカブ、どう料理しようか。

かぶ
左の細い大根のようにも見えるのが「宝谷かぶ」で、煮物や漬物で食べられてきた。右の赤く丸っこいのが「温海カブ」。

温海カブは、生で食べるとパリっとした歯ごたえで、みずみずしさの中に辛味と旨味が広がる。
宝谷かぶも生で食べると甘味と辛味のバランスがいいが、辛味の方が若干優勢。すりおろすとその辛さが強調されて薬味にぴったりだ。
どちらも辛味が特徴的なかぶだから、きっと火入れしてあげると印象が変わるのではないかというアイデアのもと、オーブン焼きにしてみることにした。温海カブの皮を細かく切ったものを、ドレッシングに加えたらきれいなピンク色を楽しめるはず。宝谷カブの葉もワイルド系のおいしさなので、ぜひ一緒に食したい。
そして甘酢漬けではない漬物の方向性も探ってみたく、塩麹を使ったエスニック風の漬物をつくってみることにしよう。

「温海カブ」と「宝谷かぶ」のロースト&カブの葉肉巻きローストのつくり方

「焼畑あつみかぶ」と「宝谷かぶ」のロースト&カブの葉肉巻きロースト
豚バラ肉の脂がしみ出て、甘酢漬けでは捨てられてしまう葉っぱもおいしく食べられます!

材料 材料 (3~4人分)

温海カブ 3~4個
宝谷かぶ 4~5本(カブの葉も半量ほど活用)
豚バラ肉 3枚(スライス)
こしょう 適量(粗挽き)
ガラムマサラ 少々(なければカレー粉)
オリーブオイル 適量
★ ドレッシング(つくりやすい量)
・ 玉ねぎ 100g(中サイズで約1/2個)
・ 温海カブの皮 適量
・ にんにく 1/2片
・ 酢 150ml
・ 油 100ml
・ 塩 10g
・ 砂糖 10g

1材料を切り、下準備をする

温海カブは8等分のくし切りに、宝谷かぶは乱切りにして、ボウルに入れ、オリーブオイルを加えて全体に馴染ませる。豚バラ肉をボウルに広げ、塩、こしょう、ガラムマサラを振り、宝谷かぶの葉のまわりに巻きつける。

2オーブンで焼く

オーブンは200度に余熱をする。オーブンシートなどを敷いた天板に1のカブを並べて、上から塩、こしょうをふる。空いたところに宝谷かぶの葉の豚バラ巻きも置き、15分ほど加熱する。

オーブンで焼く

3ドレッシングをつくる

オーブンで焼いている間にドレッシングをつくる。耐熱皿にスライスした玉ねぎ、にんにく、温海カブの皮を入れて、ラップをして、600Wの電子レンジで1分ほど加熱する。それらをボウルに入れ、残りの材料とともに、ミキサーやブレンダーで攪拌する。

4器に盛って仕上げる

2が焼けたら器に盛り、ドレッシングをかける。

「温海カブ」の浅漬け インドの香草風味のつくり方

「焼畑あつみかぶ」の浅漬け インドの香草風味
甘酢漬けじゃない漬物を探った一品。材料はシンプルだが、新鮮な味わいに。

材料 材料

温海カブ 200g(小ぶりなもので約3個)
塩麹 大さじ2
カスリメティ 適量(なければカレーリーフ)

1カブを切って、揉み込む

温海カブを8等分に切り、保存袋に入れ、塩麹とカスリメティを加えてよく揉み込む。

2漬ける

1を冷蔵庫に入れて、6時間以上漬け込む。

おいしいから繋いでいく。続いていく。

オーブン焼きは、火入れすることでカブの辛味がコクの深い旨味になっていく味わいの変化を楽しめた。宝谷かぶは火の入りが早く、中がとろっとした食感になるのもおもしろい。
カブの葉の豚バラ巻きは、豚バラの脂の旨味をカブの葉が見事に受け止める。風味漬けで使ったガラムマサラの効果もあり、宝谷かぶの葉の持つワイルドな味わいが、より強調されたようなおいしさになった。
浅漬けの方は、香草の風味で大人のエスニック味に仕上がったと思う。

若い世代の台所離れが叫ばれてひさしいが、長い年月をかけて守り育てられてきた在来野菜も、地元の若い世代が手に取らなくなってしまったら先は厳しい。
だから家庭でも、もっと自由に料理して、野菜の可能性をみんなで楽しんでいく。そんな輪を広げていくこともまた大切だと思った。

料理
「manoma」のある日の「季節のごはん」1,310円。カブをはじめ、多地の野菜を多彩に使った料理を提供している。

伝統的な焼畑農法をいまの農業や林業の仕組みの中できちんと続けられるよう模索する、温海町森林組合のような「造り手」側の努力も大切。
そして自分たちのような「食べ手」ができることもまだまだありそうだ

まったく個人的で楽天的な予測になるのだけど、「焼畑あつみかぶ」の未来は明るい。森の中で噛り付いたカブのおいしさが忘れられない。そして料理してみたら、生のときとはまた違う魅力がいくつもあった。

おいしいからこそ、続いていく。
おいしいからこそ、繋げられる。
カブを通して出会った人たちの顔を思い浮かべては、感慨に浸るのでありました。

文:マツーラユタカ 写真:萬田康文

甘酢漬けでしか食べられてこなかった山形の「温海カブ」を料理する。

マツーラユタカ(物書き料理家)

昨年20年以上続けた東京ライフに区切りをつけ、故郷である山形県鶴岡市にUターン。出羽三山信仰、山伏の文化が息づき、多種多様な在来野菜や保存食、発酵食と、食文化豊かな土地で「manoma(マノマ)」というカフェを営む。二十四節気の暦にあわせて、庄内の野菜を主役にした季節のごはんを提供している。東京時代は、金子健一さんともにフードユニット「つむぎや」として活動しながら、個人ではライター稼業も。つむぎやとしての著書に、『お昼が一番楽しみになるお弁当』(すばる舎)などがある。