贅沢にたっぷりと干し貝柱を使ってつくる豪華な炒飯をつくってみませんか?丁寧に下ごしらえさえすれば、つくり方はシンプル。ふんわり、風味抜群の炒飯を紹介します。
炒飯といえば、“パラパラ”が命――そう信じ込んでいる方、存外に多いのではないだろうか。確かにごはんがベチャッとしていたり、固まっているのはもってのほかだが、パラパラしすぎてごはんがアルデンテ、というのも考えもの。
理想の炒飯とは、ごはん粒一つ一つが個々の存在を主張しつつも炒飯自体の仕上がりはあくまでしっとり。ひとさじ口に運べば、空気を含んでいるかのごときふんわりとした食感なら完璧だ。
たとえて言うなら、口に入れればハラリとほどける“名人の握り寿司”のようなイメージである。
そんな炒飯を食べたくなると訪れるのが、ここ「シェフス」。新宿御苑の外れに佇む隠れ家的ロケーションにもかかわらず、食通たちにはつとに知られた名店である。
冬場の上海蟹味噌炒飯が有名だが、何を隠そう通常のシンプルな炒飯にこそ、この店の実力が潜んでいる。干し貝柱がたっぷり入る定番の炒飯もまた然り。
まずはベースの卵炒飯を手際よくパラリと仕上げるのが肝要だ。鍋を返しながら、お玉の背でごはんを鍋肌に優しく広げるようにして炒めるのがコツ。押しつけるとつぶれて粘りが出るので気をつけよう。
卵とごはんが完全になじんだら、細かくほぐした干し貝柱を投入。この干し貝柱がごはんとまんべんなく混ざり合うことで、滋味あふれる味わいを醸し出している。
そして仕上げにかける丸鶏のスープ。これが、さらなる味の深みと、パラリとしながらもしっとりした食感を生む極意と知ろう。
ごはん | 145g(炊きたて) |
---|---|
干し貝柱 | 40g(日本酒でもどしたもの) |
長ねぎ | 15g(白い部分を細かいみじん切り) |
卵 | 2個 |
鶏スープ | 30ml |
ピーナッツ油 | 40ml |
塩 | 1.7g |
白胡椒 | 1g(細挽き) |
日本酒 | 適量 |
干し貝柱をボウルに入れ、日本酒をひたひたに注ぎ入れて一晩置いてもどす。ボウルにラップをかけて蒸籠(せいろ)で蒸す。量にもよるが沸騰後30分が目安。蒸し終わり、冷ましたら、貝柱についている白くて硬いところを取りのぞいて捨て、身をほぐす。
中華鍋を強火にかけ、ピーナッツ油を入れる。少し煙が出る程度まで熱したら卵を入れ、卵がふわっとなるようにかき混ぜる。
卵の上にごはんを入れる。お玉でごはんと卵を切るように、よくかき混ぜる。お玉の背を使って、ごはんをほぐすように広げて火を入れる。
時折鍋をあおって炒める。“お玉の背でごはんをほぐすように広げる”“鍋をあおりながら炒める”を5回ほど繰り返して水分を飛ばしていく。
貝柱、長ねぎ、塩、白胡椒を加えてよく混ぜ炒める。
鶏スープを鍋肌から注ぎ入れる。かき混ぜたら鍋をあおり、スープをごはんに含ませたらでき上がり。
――5月29日(「蜀郷香」の“四川炒飯”)につづく。
上海の名家に生まれた天性の料理人・王恵仁氏と20歳で出会い結婚。王氏亡き後も、「シェフス」のマダムとして、見かけだけではなく厳選した食材そのものの魅力を引き出す、夫の料理の美学を伝えている。
文:森脇慶子 写真:浜村多恵