東京・青山にある「アクアパッツァ」シェフの川合大輔さんに、まるでクリーミーレモンスカッシュのような“帆立のレモンクリームパスタ”を教わりました。
イタリア料理は“自由な料理”ということを思い出した瞬間だった。
それは春のある日、日本のイタリア料理を牽引してきたリストランテ「アクアパッツァ」でのこと。メニューのパスタ料理を眺めながら何の気なしにつぶやいた「初めて食べたレモンクリームパスタの衝撃、忘れられないなあ~」。この一言にサービス係が「つくりましょうか?」と応えてくれたのだ。
「えっ、つくれるの?メニューに載っていませんけど?」
生クリームはある。国産レモンも帆立も厨房にあった。だからつくれるはず、シェフに聞いてきましょう、と。
こういった融通が利くのは、王道「アクアパッツァ」の懐の深さであり、席数の多い、コースもアラカルトも備えたレストランだから。だってコース料理一本の店や小さなレストランでは余分な食材を置かないだろう。レストランは大きいほど小回りが利くのだ。
思い起こせば昭和という時代、レストランの料理の主役はほとんどの客が注文するコース料理だった。そんな中、慣れた食べ手はアラカルト、つまりメニューから単品料理を選択し、マイコースを組み立てて楽しんだ。「アクアパッツァ」もそういう客で賑わい、オープン当初は客と会話をしながら料理を決めていたという。
平成に入ると、値段一律のプリフィクス、その後はシェフのつくり出す単一コース料理の時代に突入。「うちはコース店と思われているようですが……」とオーナーシェフの日髙良実さんは残念そうに言う。「鮨屋って、旬の食材や腹具合なんかを考えながら、自分の食べたいものを食べたいだけ注文しますよね。『アクアパッツァ』もそんな感じになるといいなと。コース需要にも応えますが、前菜一皿だけでも、パスタだけでもOKです。なんていったって、イタリア料理は“自由な料理”なんですから」。
レモンクリームパスタは、日髙シェフがイタリアで食べた味が元になっている。場所は南イタリアのソレント半島。有名なレモン産地で、街にはレモンがあふれているに違いない。だからパスタにもレモンを使うのだ。
「アクアパッツァ」のレモンクリームパスタは、濃厚なのに爽やか、酸っぱくなく香りがいい。この絶妙のバランスは、生クリーム使いが要だ。「生クリームは一度煮詰めた後、水を加えて濃度を戻します。無駄にも思えるこの工程が重要」とシェフ。強いレモンの風味を受け止めるのに、加熱することで生まれるコクとナッツのような香りが不可欠らしい。しかも生クリームのみだから、レモン汁を加えても、そう簡単に分離はしないという。
ソースの乳白、パスタの淡黄、レモンピールの黄金。南イタリアの太陽のように輝くこのパスタは、自由な料理の象徴として記憶に深く刻まれた。
スパゲッティーニ | 80g |
---|---|
帆立貝柱 | 2個(刺身用) |
レモン | 1/2個(国産) |
★ レモンの切り口の種は取り除いておく。 | |
生クリーム | 100ml(乳脂肪分47%くらい) |
粉チーズ | 20g(パルミジャーノ) |
オリーブオイル | 小さじ1/2 |
塩 | 適量 |
鍋に2lの湯を沸かし、塩20gを入れてスパゲッティーニを投入。ゆで汁の塩は1%と少なめ。食材の味わいを生かすため、パスタの味を締めるギリギリの量という。ゆで時間は袋の表示通りにし、硬さを確認しながらゆでる。
帆立の両面に塩少々をふる。フライパンを中火で熱し、オリーブオイルを入れる。帆立を入れて焼き、両面に軽く焼き色がついたら、取り出して厚みを約7㎜に切る。
フライパンに生クリームを入れ、弱火にかける。ゴムベラで鍋底から混ぜながら、ややとろみがつくまで1、2分煮る。塩少々を加えて調味する。
スパゲッティーニがゆで上がったら水気をきり、3のソースに加える。2の帆立も加え、ゴムベラを使って鍋底から混ぜ合わせる。水分が少なく、ソースが硬いようなら、水大さじ1~2を加える。
ソースがねっとりとした状態になり、帆立に程よく火が通ったら、レモンの果汁を搾り入れる。
粉チーズも加え、手早く混ぜ合わせる。器に盛り、レモンの皮をおろし金でおろしながらふりかけたら、完成!
「アクアパッツァ」シェフ。建築家志望から一転、料理の世界へ飛び込み、和食も経験。新しい料理を東京から発信したいと情熱を燃やす。
dancyu6月号ではこのほかにも、新しいパスタの楽しみ方をレシピと共にご紹介しています。ぜひご覧ください!
文:藤井美夫 写真:宮濱祐美子