牛すね肉とたっぷりの野菜を煮込んだ「ポトフ」。食材を丁寧に煮込むレシピには、スープづくりの基本と、食材の旨味をおいしく食べる工夫が詰まっています。
ポトフは、「火にかけた鍋」という意味のフランス語で、塊肉と大ぶりの野菜を水で煮込んだ家庭料理……ということは料理好きの方ならご存じかと思います。
実は、フランス料理のベースに使われるブイヨンは、ポトフと同じつくり方。牛肉と野菜を鍋で煮て、具材を取り除いたスープです。
ポトフから取り分けたブイヨンが、ソースに使われるフォンなどに派生して、フランス料理を発展させていったのです。
調理士専門学校などを運営する辻調グループの創設者、辻静雄さんは『フランス料理の学び方』(中公文庫)の中で、「フランス人の最大の発明はブイヨンを考案したことだ」と述べています。
いままで鍋の中に肉も野菜も一緒に入れて煮て、一緒に食べていたのを、汁と中に入っているものとを別々に食べることを思いついた。
家庭料理だから厳密なルールはないけれど、牛肉の塊、にんじん、蕪、ねぎ、セロリなどの具材が基本。豚肉でつくるのはポテ、鶏肉でつくるとプール・オ・ポとも呼ばれたりもします。
今回のポトフには、牛すね肉を使いました。
塩、胡椒をして1週間ほど冷蔵庫でねかせると、肉が凝縮感のある味になり、長時間煮込んでも、味が抜けきらなくなります。
手に入りやすい豚肉でもいいと思います。最低500gは使いたいですね。野菜は、にんじん、蕪、セロリ、長ねぎ、キャベツ、いんげんといった定番の野菜です。フランスだと、長ねぎではなく、リーキという太くて大きいねぎ属の野菜を入れたりもします。長ねぎを玉ねぎに、蕪はじゃがいもにしてもOKです。
ポトフは全部の食材を一緒に煮るものですが、肉と同じ時間だけ野菜を煮てしまうと形がぐずぐずになってしまうし、野菜の甘みがスープに出すぎます。
まずは、牛肉と香味野菜と言われる玉ねぎやセロリの葉といった香りの高い野菜だけで煮込みます。ある程度煮えたところで香味野菜は取り出し、ほかの野菜を時間差で加えて煮込む。こうすると、牛肉も野菜も、そしてスープもおいしく食べられます。
牛すね肉 | 800g |
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玉ねぎ | 1個 |
セロリの葉 | 1/2本分 |
ローリエ | 2枚 |
にんじん | 2本 |
蕪 | 2個 |
セロリの茎 | 1本 |
長ねぎ | 1本 |
キャベツ | 1/2個 |
いんげん | 8本 |
A 粗塩 | 24g |
A 砂糖 | 12g |
A 粒黒胡椒 | 5g |
牛肉にAの調味料をすり込む。キッチンペーパーで包んで、ビニール袋に入れ、冷蔵庫で1週間ねかせる。牛肉から水分が出るので、包んでいるキッチンペーパーを1日ごとに新しいものに替える。
牛肉、セロリの葉とローリエを縛るためのたこ糸を用意する。冷蔵庫から取り出した牛肉の水気をふき取り、煮崩れしないように縛る。セロリの葉とローリエをひと括りにする。
直径18cm以上の鍋に、縛った牛肉と皮を剥いた玉ねぎ、括ったセロリの葉とローリエを入れる。具材が浸る程度の水(分量外)を入れて、中火にかける。沸騰すると、牛肉からアクが出てくるのでお玉で取り除き、90分煮込む。煮込んでいる最中、水が2/3ほどの量になったら、蒸発した分の水を足すようにする。
90分後、玉ねぎ、セロリの葉、ローリエを取り出す。
キャベツを串切りにして、皮を剥いたにんじんと蕪、長ねぎ、セロリ、キャベツ、いんげんを5cmほどの大きさに切り分けて、鍋に加える。30分中火で煮れば、でき上がり。
告白してしまうと、ポトフはつくるのは簡単だけれど、つまるところ「肉と野菜の水煮」で、具材はすべてスープを出したあとの“だしがら”です。味わいは、素朴で単調と感じる方もいるかもしれません。だから、食べ方は少し工夫してみましょう。
マスタードや塩を添えて味を補うのは基本。ピクルスなど酸味の強いものを合いの手に食べると、絶妙です。
野菜のエキスが溶け出したスープはやや甘めなので、マスタードの辛味やピクルスの酸味で、うまくバランスがとれるのです。
クラシックな食べ方とは言えないけれど、案外マヨネーズが合うことにも気がつきました。野菜の甘みが苦手な人はぜひ、試してみてください。
ポトフは、今回のように一皿に盛り付けるほか、肉と野菜で一皿、そしてスープを小さな器によそって、別々に食べる方法もあります。こうすると、メイン、付け合わせ、スープが一気にできて、パンを添えればパーフェクトな定食です。野菜は柔らかくなっているので、丁寧に取り出してあげてくださいね。
――明日(「かんたんポトフ」は20分でつくれます。)につづく。
文:有賀薫 写真:キッチンミノル