スープ作家の有賀薫さんが、スープ好きのあなたに贈る連載が始まります。時間をかけてじっくりつくるスープと、気軽につくるスープのレシピを交互に紹介します。
スープといったら、どんなスープを思い浮かべますか?
コンソメ、ポタージュ、参鶏湯、ブイヤベース、ふかひれスープ、トムヤムクン、ミネストローネ、ボルシチ、スンドゥブ……。
誰もが名前を知っている定番スープですが、これらのスープを家でつくったことがあるか、と聞かれたら、どうでしょうか。
私はスープ作家として日々レシピを紹介していますが、こうした“名前のあるスープ”は、手間や時間や材料がかかりすぎるので、忙しい現代家庭ではあまりつくってもらえません。
スープは手近な材料と水を鍋に入れて煮込むだけで、誰もがつくれる簡単料理のはずです。
でも、長い時間や距離を経て私たちのもとに届き、レストランなどで商品として出されるようになったスープは、そのルーツからはかなり離れたものになってしまっているようにも思います。
港町で捨てるような魚をドラム缶に入れてつくっていたブイヤベースに、今や伊勢海老が鎮座しているように。
食べ継がれている定番スープはやっぱりおいしい料理でもありますし、多くの工夫がレシピの中には散りばめられています。
私は普段、日々の食事のために、手近な、あるいは家にある食材で“名もなきスープ”をつくっていますが、この連載の話がきたとき「誰もが名前を知っている定番スープをぜひつくらせてほしい」と頼みました。奇を衒わない、素直なレシピには、食材をおいしく食べる先人たちの知恵が詰まっているからです。
その一方で、オリジナルスープを日々研究している私としては、これらを再構築してつくりやすく変えたお手軽レシピも紹介したいと思います。クラシックなレシピを素直につくったスープと、忙しい日でもすぐにつくれるスープを合わせて紹介しますので、ふたつのレシピをぜひつくり比べてみてください。
――明日(「ポトフ」を1週間かけて丁寧につくる。)につづく。
文:有賀薫 写真:キッチンミノル