スープ作家の有賀薫さんが披露するのは、うす切り肉でつくるかんたんビーフシチューのレシピ。具材を切って、鍋の中に重ねて火をつければでき上がり。思いたったら40分で、食べごたえのあるビーフシチューが食べられます。
ビーフシチューが日本にやってきたのは明治時代。1871年の明治4年には東京にある洋食屋のチラシに「シチウ(牛、鳥うまに)二匁五文五厘」の記述が、翌明治5年に仮名垣魯文の記した『西洋料理通』にはスチューという言葉が出てきます。
1900年代、明治後期になるとビーフシチューは洋食屋のメニューとしてすっかり定着していたようです。
調理法以前に、食材が手に入りにくかった時代です。牛肉、ワイン、香辛料はもちろん、現代ではありふれた食材である玉ねぎやにんじんもポピュラーではありませんでした。当時使われていたであろうと考えられるのは、西洋料理から普及したじゃがいもぐらいのものです。
ビーフシチューといえど、現代でいう肉じゃがのようなものだったのかもしれません。
食べたこともなく、食材も見たことないものばかり。明治初期の日本人がどんなシチューをつくったのか、タイムトリップして食べてみたいですよね。明治の食文化に想いを馳せつつ、今日はうす切り肉を使った肉じゃが風のビーフシチューをつくりましょう。
手間を最小限にするために重ね煮方式で、油を使わずにつくります。切った材料を鍋の中にどんどん重ねて、デミグラスソースとトマトジュースを注いで、蓋をして蒸し煮するだけ。
焦げやすいデミグラスソースを食材の上にのせて火にかけるので、煮るうちに徐々に食材へ味がしみわたり、途中で混ぜる必要もないのです。
蓋がぴったりしまる鍋でつくるのがポイント。鍋の大きさによって蒸発量が違うので、ときどき蓋を開けて、水分が減りすぎていないか確かめましょう。焦げ付きそうなら少し水を加えます。
ソースづくりは缶詰のデミグラスソースを少し使うとクラシックレシピの味にグッと近づきます。最近では使いきりの小分けパックも売られているようです。
余談ですが、私はデミグラスソース缶が余ったら、大さじ3ぐらいずつラップに包んで小分けして冷凍しています。スパゲティをつくるときにナポリタンやミートソースにこれを使うと、簡単に洋食店の味に変わりますので、試してみてください。
牛肉 | 250g(うす切り) |
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にんじん | 1/2本(120g) |
玉ねぎ | 1個 |
じゃがいも | 2個 |
しめじ | 1/2パック |
トマトジュース | 1パック(200ml) |
デミグラスソース | 120g(缶詰のもの) |
小麦粉 | 大さじ1 |
醤油 | 大さじ1 |
塩 | 小さじ1と1/3 |
胡椒 | 適量 |
牛肉に小麦粉をまぶす。にんじん、玉ねぎは7~8mmのうす切り、じゃがいもは、半分に切って1.5cmほどの厚さに切る。しめじはいしづきを取り、ほぐしておく。
にんじん、玉ねぎ、しめじ、じゃがいも、肉の順に鍋の中に重ねて置き、塩を振りかける。中央にデミグラスソース、最後にトマトジュースを流し入れて蓋をする。
鍋を中火にかけて、湯気が吹き出してきたら、弱火にして30分ほど煮る。途中、焦げ付きそうであれば、水を200mlほど加える。じゃがいもに箸がスッと刺るようになったら、醤油と胡椒で味を整えてでき上がり。
文:有賀薫 写真:キッチンミノル