東京・新大久保「イスラム横丁」をゆく。
タンドールがなくても、タンドール料理はできる!

タンドールがなくても、タンドール料理はできる!

シリーズ『東京・新大久保「イスラム横丁」をゆく。』。最終回は大使館御用達のパキスタン料理店「ナワブ」で、ラムと魚を使ったタンドール料理のつくり方を教わります。オーブンとデジタルスケールを使って、パキスタンの高級ホテル直伝のレシピを再現しよう!

タンドールで焼くのはチキンだけじゃない。

インド料理店で見かけるタンドールは、パキスタンでもおなじみの調理窯。チキンだけでなくラムや魚も串刺しにして、タンドールの中で焼き上げられる。
「うちの店のレシピはラホール式だけど、パキスタン全土で食べられているよ。家庭にはタンドールがないので、レストランで。テイクアウトして家で食べたりするね」と、東京は日本橋のパキスタン料理店「ナワブ」オーナーの成塚シャキル・カーンさんは教えてくれた。

パキスタン・イスラム共和国大使館の参事官が絶賛する“タンドリーフィッシュ”は、ほかではなかなか食べられない「ナワブ」イチ押しのメニューだ。
“バサ”という魚をご存じだろうか。おもに東南アジアの川に生息するナマズの一種で、“パンガシウス”とも呼ばれる。日本の大手スーパーや業務用食品店では、フライやムニエル用として生身や冷凍で売られている。イスラム横丁近くの中華食材店でも、冷凍物が入手可能だ。冷凍は身に塩分を含むが、生身を使う場合は塩を少し多めに加えるとよい。手に入らなければ、“スズキ”で代用してもOK!

バサ
タンドールで焼かれる前の、金串に刺された“バサ”。

“バサ”はゼラチン質を多く含むやわらかい身が特徴で、焼いても固くなりにくいため、タンドリーで焼くのにぴったりの食材だ。焼きたてをひとくち味わうと、身がふっくらしていてジューシー。川魚特有の臭みはなく、脂っこくないのでいくらでも食べられる。

「ナワブ」のタンドール料理はカラチの高級ホテル「パールコンチネンタルホテル」直伝で、レシピは実に繊細。少量のスパイスを使うので、デジタルスケールで計量するのがおすすめです!

タンドリーフィッシュ

タンドリーフィッシュ
手前に添えられるソースはミントの葉をたっぷり使った“ミントチャトニ”。後ほど、こちらのレシピも紹介します!

材料材料 (つくりやすい分量)

・ バサ500g(半分の長さに切る)
・ にんにく小さじ1(すりおろす)
・ 生姜小さじ1(すりおろす)
・ ターメリック4g
・ レッドチリペッパー4g
・ コリアンダーパウダー3g
・ クミンパウダー3g
・ 黒胡椒2g(粗挽き)
・ アジョワンシード1g
・ 塩1g
・ サラダ油大さじ2 1/2
・ レモン汁小さじ2

1 スパイスをもみ込む

ボウルにすべての材料を入れ、手でよくもみ込む。保存容器に移し、ラップを密着させるようにかけて、冷蔵庫で1日ねかせる。

スパイスをもみ込む
魚の身が崩れないよう気をつけながら、丁寧にもみ込む。
スパイスをもみ込む
にんにくと生姜は、全体に混ざるように細かくすりおろすのがポイント。

2 オーブンで焼く

オーブンを180度にあたためる。オーブンペーパーを敷いたトレイに魚を並べ、オーブンで15分ほど焼く。身から水分が抜けてパサパサになるため、焼きすぎに注意する。

キウイの力でラムがやわらかに!

魚に続いて、タンドールで焼き上げるのは、ラム。“タンドリーラムチョップ”は肉をやわらかく仕上げるのが最大のポイント。マリネする前にミートハンマーなどでたたき、繊維質を壊すことで、味とスパイスの香りが中までしっかり浸透する。
さらなる秘策は、マリネ液に加えたキウイフルーツ。「キウイの酵素の働きで、お肉がやわらかくなります。インドでは青いパパイヤを使いますが、パキスタンではキウイ」とカーンさんは言う。
加える分量はわずかだが、その効果たるや絶大だ。

串刺しのラムチョップ
串刺しのラムチョップ。盛りつけからは想像がつかないほど迫力がある。

熱々のラムチョップを頬張ると、たしかに肉がやわらかい。そして、スパイスの刺激をまとった肉の旨味が口の中を支配する。
「インドの“タンドリーチキン”ほどマリネ液を塗って焼きません。パキスタンでは素材の旨味を生かすことが大事なんです」

どちらのレシピにも欠かせないスパイスが“アジョワンシード”。インド原産のセリ科の1年草“アジョワン”の種子を乾燥させたものだ。ほんの少ししか使わないが、爽やかなアジョワンシードが魚と肉にいい仕事をする。
何度もしつこいようだが、こちらも新大久保のイスラム横丁で安く買えるので、ぜひ揃えてほしい!

金串ごと吊るして休ませる
タンドールで焼かれた後は、金串ごと吊るして休ませる。焼いた肉や魚を串から抜くのは技術と経験が必要な作業だ。

タンドリーラムチョップ

タンドリーラムチョップ
「ナワブ」ではタンドールで焼いたあと、カンカンに熱した鉄板に乗せて提供する。

材料材料 (つくりやすい分量)

・ ラムチョップ1kg
・ キウイフルーツ1/4個(みじん切り)
・ にんにく小さじ1(すりおろす)
・ 生姜小さじ1(すりおろす)
・ 塩大さじ1
・ レッドチリペッパー4g
・ ターメリック4g
・ アジョワンシード2g
・ クミンパウダー4g
・ コリアンダーパウダー4g
・ ガラムマサラ5g
・ レモン汁小さじ2
・ 穀物酢小さじ2
・ プレーンヨーグルト100g

1 肉をたたく

ラムチョップの肉の部分をミートハンマーなどでたたく。

肉をたたく
「ナワブ」では金槌で肉をたたいていた。ワイルド!

2 スパイスをもみ込む

ボウルにすべての材料を入れ、手でよくもみ込む。保存容器に移し、ラップを密着させるようにかけて、冷蔵庫で1日ねかせる。

スパイスをもみ込む
たたいてやわらかくなった肉の部分に、丁寧にもみ込む。
スパイスをもみ込む
“タンドリーフィッシュ”“タンドリーラムチョップ”ともに、ジップ付きバッグに入れてねかせてもよい。

3 オーブンで焼く

オーブンを180度にあたためる。オーブンペーパーを敷いたトレイに肉を並べ、オーブンで焼き色がつくまで20~25分ほど焼く。

爽やかなミントのソース。

“タンドリーフィッシュ”に添えられていた“ミントチャトニ”は、“タンドリーラムチョップ”との相性も抜群。魚やラムにつけて味を変化させたり、口の中をリフレッシュさせたりする。
「料理がおいしければ、チャトニはいらないんだけどね~」とカーンさんは笑うが、チャトニそのものはとてもおいしいレシピなので、つくって損はないですよ!

ミントチャトニ

材料材料 (つくりやすい分量)

・ ミントの葉250g
・ パクチー250g
・ 青唐辛子5本(半分の長さに切る)
・ 塩小さじ1
・ プレーンヨーグルト250g

1 材料を混ぜる

すべての材料をミキサーに入れて撹拌する。ミント、パクチー、青唐辛子が細かくなり、全体がとろりとしたらでき上がり。少量つくるときは、乳鉢もしくはハンドブレンダーを使うとよい。

教える人

成塚シャキル・カーン

成塚シャキル・カーン

パキスタンの北部、パンジャーブ州の都市バハーワルプル生まれ。約30年前に来日。宝石商などの仕事を経た後、レストラン経営を始める。現在は「ナワブ日本橋店」などレストラン6店舗のオーナー。上野公園で毎年開催されるパキスタンと日本の交流イベント「パキスタン&ジャパンフレンドシップフェスティバル」の主催者も務める。

店舗情報店舗情報

ナワブ 日本橋店
  • 【住所】東京都中央区日本橋小網町18-9 司ビル2階
  • 【電話番号】03‐5640‐0507
  • 【営業時間】11:00~15:00、17:00~22:30(L.O.)
  • 【定休日】1月1日
  • 【アクセス】東京メトロ「人形町」駅から3分

『東京・新大久保「イスラム横丁」をゆく。』はこれにて終了です。築地が閉鎖され市場が少し遠くなってしまった今、ぜひ新大久保・イスラム横丁まで足を伸ばして、新たな食の楽しさを体感してみてください。ありがとうございました!

文:佐々木香織 写真:本野克佳 協力:パキスタン・イスラム共和国大使館

佐々木 香織

佐々木 香織 (ライター)

福島出身の父と宮城出身の母から生まれ、東北の血が流れる初老の編集ライター。墨田区在住。食べることと飲むことが好き。お酒は何でも飲むが、とくに日本酒と焼酎ラヴァー。おもな仕事は新聞やウェブでの連載、雑誌や書籍の編集・取材・執筆。テーマは食べもの、お酒、着物など。