
進化を続ける東京の町焼肉。ご紹介するのは、神保町・新御茶ノ水・小川町からアクセス抜群の神田駿河台にある「焼肉アポロン 神田駿河台」。肉・量・仕事の三拍子が揃う、町焼肉の名店です。
友人から「都心で普通に予約ができて、さほど高くない、おいしい焼肉店を教えて」なんて聞かれるとたいてい神保町の「焼肉アポロン」をリストに入れる。そして大変喜ばれる。
そんなことを考えながらアポロンに向かっていたら、店頭にこんな張り紙が掲出されていた。
実はこの夏から隣というか裏手の物件に移転したという。席数はほぼ変わらないが、以前の物件は1階、2階で分かれていたのが、1フロアになって使い勝手がよくなった。
さて何がいいってこの店は肉、量、仕事の三拍子が揃っていてお値打ちで、その上気合いが入っている。焼肉店で「肉、量、仕事」はもちろん大切だが、その条件を揃えるには気合い、言い換えれば熱量が必要なのだ。
アポロンにはその熱量がふんだんにある。「紅虎餃子房」などの際コーポレーショングループの店舗だが、内情を聞くといわゆるチェーン店の運用とはほど遠い。
際コーポレーションには、社内に食肉調達担当者がいる。芝浦市場などで各店舗からの発注に応じて買い付けた肉を分配するが、なかでも熱心にリクエストをしているのが「焼肉アポロン」だ。ほとんど二人三脚レベルで密にやり取りをして必要な部位を店に入れてもらい、ほかは他店で使ってもらう。焼肉ほど部位の違いが客の満足度に大きく関わる業態はない。焼肉びいきとしては、ぜひそうあってほしいところではある。
ほかに焼肉業態がないから、焼肉適性の高い部位が取りやすい。しかも、一般的に他業態のシェフは圧倒的にロース肉を使いたがる。一頭単位で購入して、必要な部分を必要な店へ。肉の仕入れについては、個人店とグループ店のいいとこ取りをしていると言っていい。風通しのいい共同購入システムがアポロンの肉質を支えている。
神保町アポロンの焼肉の考え方は以下の通り。
共感できる話ばかり。そして、こんな話を日常から調達担当者に耳打ちし、仕入れた肉へのフィードバックを密にやり取りする。すると自然と店の考える、焼肉適性の高い肉が仕入れられるようになる。
そうして仕入れた肉を活かすのがタレだ。アポロンにはベースとなるタレが3種類ある。
という3種類のタレをベースに肉の状態や厚さを見極めながら、適宜ブレンドし、もみ込み加減を変える。
「実は僕の祖母がキムチ店を営んでいて、父が焼肉のタレをつくって販売していたんです。もうキムチ店は廃業してしまったんですが、おいしいタレだったので再現して使わせてもらっています」(李さん)
焼肉が好きな友人にアポロンを薦めるとき、必ず添える一言がある。「量が食べられるならおまかせコース一択。そして好みの肉をお店に相談して」と。質量ともに「おまかせコース」6,800円はお値打ちなのだ。しかも仕入れ次第で「このお肉食べたい」などの相談に乗ってくれて(もちろん限度はある)、好みに応じてカスタマイズしてくれる。ざっと全体の流れとしては以下の通り。写真はすべて2人前。
ほとんど肉のみという潔い構成!この内容で6,800円(税込)がいかにお値打ちかは焼肉が好きな人ほどおわかりになるはずだが、これでも足りない方は別注でライスやカレーも注文できる。ちなみに盛りは同じに思える「小・中・大」でも夜は昼より白飯の盛りがいいので、ご注意あれ。夜のみの「特大」など注文したらキロ単位のカレーがやってくる。
知るほどに食べるほどに気っぷの良さがうかがえる。この店の肉を食べていると、つくづく飲食店で大切なのは「気」だということがよくわかる。いい気が漂う、気合の入った、人気(ひとけ)のある店が僕らは大好きで、そういう店が人気(にんき)になる。
文・写真:松浦達也