東京町焼肉最前線!
【神楽坂・焼肉ランチの新星】ランチとは思えぬカット厚!国産牛ハラミ1,500円の衝撃「焼肉かぐつち」

【神楽坂・焼肉ランチの新星】ランチとは思えぬカット厚!国産牛ハラミ1,500円の衝撃「焼肉かぐつち」

進化を続ける東京の町焼肉。今回ご紹介するのは、2025年9月に神楽坂の路地裏に現れた新店――昼は国産牛ハラミ1,500円、夜は無凍結の厚切りタンや飲み放題まで楽しめる、いま注目の一軒「焼肉かぐつち」です。

ハラミもタンも厚切りが嬉しい!焼肉好きは神楽坂へ急げ

ランチ焼肉は立地が9割と言っていい。仕事の合間に限られた時間で肉を焼き、ライスをかっこむ。だけど立地で焼肉店を選ぶと、どうしても「それなり」になってしまう。友人を連れて行くことのできる、胸を張って「いい!」と思えるランチ営業店は少ない。

そう思っていたところ、神楽坂にランチの新星が現れた。昼の肉からすべて国産で、ハラミランチやレバーホルモンランチに1,500円でありつける。最初に訪れた時、ハラミランチを肉増し1,800円にするか迷った揚げ句、つい「ハラミランチにレバーホルモン単品追加」を相談してしまった(そして快く注文を受けて頂いた)。

そのハラミが期待を超えてきた。

肉

お得にもほどがある。注文後に切り出した国産牛のハラミにキムチ、生卵、スープ、ライスまでが標準装備。ごはん中250グラムはいまどきの牛丼店の並盛りより盛りがいい。にもかかわらず、それより肉の存在感が断然大きいのだ。

しかもランチとは思えぬカット厚。食感も楽しみたいハラミは薄切りで枚数を稼がれると寂しい。この厚さに切り出してくれるのは焼肉への愛と理解の深さが感じられる。

ロースターは「内装屋さんのお薦めもあって」サンタ(石川県金沢市)のロースター。通常のシンプルなガスロースターよりも、全体に熱が回る設計になっていて焼きのハードルが低い。何より圧電点火装置つきだから、火を消してしまっても自力で再着火できる。こまめな火力調整をしながら焼きたい僕などにとっては、店に気を使わずに済むとてもありがたい仕組みだ。

まずは少し押さえた火力で、ハラミの半分をロースターに放つ。しばらくいじらずに焼き目をつけながらじんわり熱を加えていく。焼き目がついたら、返して内部から跳ね返すような弾力が生まれるのを待つ。焼き上げたら盛り皿に残ったタレに浸し、もう一度ロースターで表裏を炙って、溶き卵をまとわせたらごはんの上にダイブさせる。がっとかっこめばハラミと米の弾力が徐々に境界線を失い、やわらかな食感と豊かな甘味・旨味が持ち上がってくる。

ああ、至福……。

肉
肉
肉

米は秋田直送のあきたこまち。週に1度精米したてを直送してもらい、硬くも柔らかくもないもっちりした食感に炊き上げる。ちなみにごはん小150グラム、大は350グラム(!)だ。

店長の星翔平さんは恵比寿の「焼肉トラジ」に10年勤めた後、同店OBが立ち上げた焼肉チェーンでも4年間の焼肉修業をした。厨房仕事はもちろん、店舗運営含め、さまざまな角度から焼肉を見てきただけに、仕入れにも工夫と気合いが伺える。赤身系は足立区鹿浜の食肉専門卸、内臓は大阪の卸、さらに内臓に強いちゃんこ専門店に芝浦の内蔵卸を紹介してもらったという。

スタッフ
野球好きなら誰もが反応したくなる「星」「翔平」さん。後ろに映り込んでいるのは、居合わせたワインのインポーターの田中さん。

だからレバーホルモンランチの内臓肉もピカピカだ。シマチョウは縞模様がクッキリとしていて張りがあり、コプチャンはプリッとしたツヤがある。どちらも美白にほのかに紅が差したような透明感が眩しい。コリコリ(大動脈)は珍しい脂つき。敢えて脂を残して味に奥行きを持たせる。味わい深いレバーまで盛り込まれた一皿は思わず歓喜してしまうパーフェクトホルモンセットだ。

肉
肉

ここまでランチが充実していたら、当然夜にも訪れたくなる。そして夜の心意気がまた嬉しい。すべての単品メニューに生ビールを含めた飲み放題2,800円がつけられる。飲み放題以外でも、虎マッコリボトル2,480円、山崎や白州が880円(!)という左党垂涎の破格ぶり。スターターで注文したいネギキムチは実は東上野の「共栄」のオモニの手作り。並の魅力を再発見した東上野の「富士吉」と同じもの。シャクシャクとした食感が楽しく、辛味も味わいも深い。

ネギキムチ

しかしこの店は、夜もやっぱり肉なのだ。国産牛のチルド(無凍結)の贅沢タン盛り2,500円は角柱に切り出された厚切りタン、タン元、タン中が美しく盛られている。

肉

厚切りをじっくり焼きながら、薄切りのタンを炙る。厚切りに赤銅色の焼き色をまとわせながら、薄切りにも、きっちり焼き色がつくまで焼く。タンが自らの脂で揚がるかのように泡立っているのに、焼き切っても硬くならない。流通上、内臓肉は牛の品種ごとに分けられないが、この柔らかさはもしかして黒タン……? 口に運べばバリッとした口当たりに、ザクッとした噛み応え。肉の繊維と上質な脂が口内に広がっていく。

肉

数量限定の厚切り特上ハラミ3,000円は厚さもさることながら、判が大きい。

肉

「修業先のトラジスタイルのカットです。当時、高日峰(コ・イルボン)総料理長から『とにかく判を大きく!』と教えてもらったことが身にしみついています(笑)」と言うだけあって、ロースターに4枚乗せると網の上が渋滞の様相を呈してしまう嬉しいサイズ(しかも厚い)。表面に焼き目の層を重ねながら、内部をミディアムに仕上げる工程のなんと楽しいことよ。

肉
肉
肉

今日の締めは日替わりの赤身盛り(200g)3,300円。この日はザブトン、ランプ、イチボ、ササニクが美しく盛り合わせられている。

肉

この暴力的な組み合わせには抗えない。少し乱暴でもいい。網の上でジャーッと高揚する音を立て、白いごはんとともにもりもりとかっこむ。いい肉を、少しだけ荒々しく焼いて、白飯とともにざばざばと頬張る。

ランチに惹かれて夜にハマる。ここには昼にも夜にも味わえる、焼肉の喜びがある。

肉

店舗情報店舗情報

焼肉かぐつち
  • 【住所】東京都新宿区神楽坂3‐2‐9 ナカノビル 2階
  • 【電話番号】03‐6280‐8603
  • 【営業時間】11:30~14:00(L.O.)、17:00~21:00(L.O.)ドリンクは~21:30(L.O.)
  • 【定休日】月曜
  • 【アクセス】東京メトロ「飯田橋駅」より3分

文・写真:松浦達也

松浦 達也

松浦 達也 (ライター/編集者)

東京都武蔵野市生まれ。家庭の食卓から外食の厨房、生産の現場まで「食」のまわりのあらゆる場所を徘徊する。食べる、つくるに加えて徹底的に調べるのが得意技。著書に『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)、『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(共にマガジンハウス)ほか、共著に『東京最高のレストラン』(ぴあ)なども。主な興味、関心の先は「大衆食文化」「調理の仕組みと科学」など。そのほか、最近では「生産者と消費者の分断」「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター。