来月Netflixで公開になる「新幹線大爆破」の撮影中も、もちろんゲンバメシを続行していた樋口監督。ある日、撮影現場の掟を守らなければいけない事態が……。「シン・ウルトラマン」、「シン・ゴジラ」など数々の日本映画を監督してきた樋口真嗣さんの、仕事現場で出会った“ゲンバメシ”の思い出を回想します。
で、そろそろ新作のことを書かないと、昔話に明け暮れる耄碌ジジイの仲間入りになっちゃうので、最新情報。
Netflixで2025年春に配信が始まる「新幹線大爆破」を監督しました。1975年に公開された同名映画を元に、新たなストーリーをつくりました。とはいえ、タイトルにある「新幹線」が「大爆破」は要素として欠かせませんから大変です。設定した速度を下回るとスイッチが入る爆弾が仕掛けられた新幹線は一度走り出したら最後、止まれなくなるからさあ大変です。
オリジナル版は1975年ですから、東海道新幹線が博多まで延伸したのがその年の3月、つまり東京博多間を走る当時最速の新幹線ひかり号が狙われました。
今回はどれにするか?
50年の間に南に北に路線はとんでもなく増えました。
けれども、この記事が出る頃はまだ発表になっていないので口が裂けても言えないのです。
だけど、撮影のために新幹線の車両1.5両分を作ったことぐらいは、どの路線の車両だか謂わなれけば良いでしょう。
つくるだけでもとんでもない労苦の果てに成し遂げた大偉業なんだけども、今度はつくったはいいけど車両がデカすぎて(今はどうかわからんけど)、東洋一の大きさを誇る東宝の特大ステージに入りきれないことが発覚。
私の初監督映画「ローレライ」の舞台になる第二次大戦中の潜水艦を建てたのもこのステージだったし、我々が入る前に撮影していたNetflixシリーズの「今際の国のアリス」に登場する電車のセットはステージに収まっていたのにとボヤいたら、新幹線はでかいんですよ!関西の私鉄とは線路の幅からして違うんです!と怒られちゃった。
車両が入ればいいわけでもなく、窓外を流れる景色を投射するためのLEDパネルが車両の両側にずらりと並び、窓外から差し込む太陽光線を周期的に遮る架線柱の影を再現するための回転シャッター、車両を擬似的に動かす……と言っても、微振動や、ちょっとした衝撃に至るまで、今回の物語に則した挙動を再現するための仕掛けが車両の周りを埋め尽くすのです。しかも、ただ走ってるだけではないので、通常の旅客営業時ではあり得ないようなあんな事こんな事が当然の如く起こりますから、それに合わせて色々セットアップを変えなければならないわけで、その条件を満たすには東洋一の特大ステージでも小さすぎるのです。
そこで、千葉県は木更津市にある倉庫であれば新幹線1.5両分はなんとか納めることはできそうとのこと。木更津というと遠そうだけど、実は東京湾横断道路アクアラインのおかげで都内から通える時間で、撮影場所としても現実的になってきたのです。
そもそも千葉県は房総半島、林業がたいそう盛んだったそうで、山から切り出した木を一時的に待機させる倉庫が木更津にたくさんございました。
ところが2011年の東日本大震災で結構な揺れに襲われ、沿岸の倉庫群は地盤の液状化によって貯木場として維持できなくなったのです。しかし、その設備を転用して何かできないか――ということで、撮影用のスタジオになった訳です。
Amazon映画の「沈黙の艦隊」に登場する原子力潜水艦シーバット改めやまとの艦内のセットがつくられたり、大型案件を長期にわたって受け入れる物件としては東京近郊では最大級。そこでどの路線を走るどの形式の車両かはまだ言えない新幹線車両をつくって撮影したのであります。
イオンモール木更津が地図上では隣接してるんだけど、歩いたら優に二十分かかるので食事は基本ケータリングになります。
私が映画の世界に入ってから大きく変わったのは、食事は弁当からケータリングが増えて、温かいものが食べられるようになった事でしょうか。
従来の弁当ではなかなかラインナップできないメニューのバリエーションも増え、特に今のような寒い時期は、温かい食事が本当に嬉しいです。
もちろんケータリングのためには、食事をつくり、提供してみんなが食べられる場所を確保しなければならないので、どこでもできる訳ではありません。でも木更津の倉庫は隣接した倉庫を食事場所として常時キープできたので、ほぼ連日ケータリングでした。
そんな毎日に慣れてしまったのか、一度やらかしてしまったことがありました。
いつものように朝7時に新宿西口郵便局前集合で木更津へ向かう筈だったのに、目が覚めたら6時55分。ヤバい。今から出たらどう考えても間に合わない……。
大遅刻です。
すると5分前に俺だけ来てないのを不審に思ったプロデューサーから電話が。
プロデューサーの車で迎えに来てもらって、新宿に向かわずにそのまま木更津へ。
ギリギリ開始時間には間に合いましたが、寝坊したことは周知の事実として全スタッフに知れ渡ってました。面目丸潰れです。
こういう時はスタッフキャスト全員に何かしらの差し入れをしなければならない掟がありまして、そのぐらいのペナルティがないと示しがつきません。
スタッフキャストといっても毎日150人ぐらいいる大所帯なので、なかなかの大打撃。
まあ寝坊した僕が悪いんですけども。
そんな皆さんへの差し入れは、木更津を代表するこの弁当一択です。
毎日ケータリングもいいけどたまには弁当もいいでしょ?
文・イラスト 樋口真嗣
で、そろそろ新作のことを書かないと、昔話に明け暮れる耄碌ジジイの仲間入りになっちゃうので、最新情報。
Netflixで2025年春に配信が始まる「新幹線大爆破」を監督しました。1975年に公開された同名映画を元に、新たなストーリーをつくりました。とはいえ、タイトルにある「新幹線」が「大爆破」は要素として欠かせませんから大変です。設定した速度を下回るとスイッチが入る爆弾が仕掛けられた新幹線は一度走り出したら最後、止まれなくなるからさあ大変です。
オリジナル版は1975年ですから、東海道新幹線が博多まで延伸したのがその年の3月、つまり東京博多間を走る当時最速の新幹線ひかり号が狙われました。
今回はどれにするか?
50年の間に南に北に路線はとんでもなく増えました。
けれども、この記事が出る頃はまだ発表になっていないので口が裂けても言えないのです。
だけど、撮影のために新幹線の車両1.5両分を作ったことぐらいは、どの路線の車両だか謂わなれけば良いでしょう。
つくるだけでもとんでもない労苦の果てに成し遂げた大偉業なんだけども、今度はつくったはいいけど車両がデカすぎて(今はどうかわからんけど)、東洋一の大きさを誇る東宝の特大ステージに入りきれないことが発覚。
私の初監督映画「ローレライ」の舞台になる第二次大戦中の潜水艦を建てたのもこのステージだったし、我々が入る前に撮影していたNetflixシリーズの「今際の国のアリス」に登場する電車のセットはステージに収まっていたのにとボヤいたら、新幹線はでかいんですよ!関西の私鉄とは線路の幅からして違うんです!と怒られちゃった。
車両が入ればいいわけでもなく、窓外を流れる景色を投射するためのLEDパネルが車両の両側にずらりと並び、窓外から差し込む太陽光線を周期的に遮る架線柱の影を再現するための回転シャッター、車両を擬似的に動かす……と言っても、微振動や、ちょっとした衝撃に至るまで、今回の物語に則した挙動を再現するための仕掛けが車両の周りを埋め尽くすのです。しかも、ただ走ってるだけではないので、通常の旅客営業時ではあり得ないようなあんな事こんな事が当然の如く起こりますから、それに合わせて色々セットアップを変えなければならないわけで、その条件を満たすには東洋一の特大ステージでも小さすぎるのです。
そこで、千葉県は木更津市にある倉庫であれば新幹線1.5両分はなんとか納めることはできそうとのこと。木更津というと遠そうだけど、実は東京湾横断道路アクアラインのおかげで都内から通える時間で、撮影場所としても現実的になってきたのです。
そもそも千葉県は房総半島、林業がたいそう盛んだったそうで、山から切り出した木を一時的に待機させる倉庫が木更津にたくさんございました。
ところが2011年の東日本大震災で結構な揺れに襲われ、沿岸の倉庫群は地盤の液状化によって貯木場として維持できなくなったのです。しかし、その設備を転用して何かできないか――ということで、撮影用のスタジオになった訳です。
Amazon映画の「沈黙の艦隊」に登場する原子力潜水艦シーバット改めやまとの艦内のセットがつくられたり、大型案件を長期にわたって受け入れる物件としては東京近郊では最大級。そこでどの路線を走るどの形式の車両かはまだ言えない新幹線車両をつくって撮影したのであります。
イオンモール木更津が地図上では隣接してるんだけど、歩いたら優に二十分かかるので食事は基本ケータリングになります。
私が映画の世界に入ってから大きく変わったのは、食事は弁当からケータリングが増えて、温かいものが食べられるようになった事でしょうか。
従来の弁当ではなかなかラインナップできないメニューのバリエーションも増え、特に今のような寒い時期は、温かい食事が本当に嬉しいです。
もちろんケータリングのためには、食事をつくり、提供してみんなが食べられる場所を確保しなければならないので、どこでもできる訳ではありません。でも木更津の倉庫は隣接した倉庫を食事場所として常時キープできたので、ほぼ連日ケータリングでした。
そんな毎日に慣れてしまったのか、一度やらかしてしまったことがありました。
いつものように朝7時に新宿西口郵便局前集合で木更津へ向かう筈だったのに、目が覚めたら6時55分。ヤバい。今から出たらどう考えても間に合わない……。
大遅刻です。
すると5分前に俺だけ来てないのを不審に思ったプロデューサーから電話が。
プロデューサーの車で迎えに来てもらって、新宿に向かわずにそのまま木更津へ。
ギリギリ開始時間には間に合いましたが、寝坊したことは周知の事実として全スタッフに知れ渡ってました。面目丸潰れです。
こういう時はスタッフキャスト全員に何かしらの差し入れをしなければならない掟がありまして、そのぐらいのペナルティがないと示しがつきません。
スタッフキャストといっても毎日150人ぐらいいる大所帯なので、なかなかの大打撃。
まあ寝坊した僕が悪いんですけども。
そんな皆さんへの差し入れは、木更津を代表するこの弁当一択です。
毎日ケータリングもいいけどたまには弁当もいいでしょ?
文・イラスト 樋口真嗣