![撮影現場の掟|樋口真嗣の](/images/mmm9454.jpg)
ロケ地のシナハンに出た樋口監督。そこで出会った弁当とは――?「シン・ウルトラマン」、「シン・ゴジラ」など数々の日本映画を監督してきた樋口真嗣さんの、仕事現場で出会った“ゲンバメシ”の思い出を回想します。
さて、ようやく発表になりました。
とはいっても今回の舞台となる新幹線は何色か?ってことぐらいなんですが、配信開始までまだ時間があるので何もかも詳らかにするのではなく、じわじわと小出しにしていく焦らし作戦でしょうか。とはいえ何色か分かっただけでもかなりのヒントです。
常盤グリーンと飛雲ホワイトの真ん中には、はやてピンクの帯。東北新幹線はやぶさ号であります。東京から真北へ新青森、さらに津軽海峡の海底を貫く新青函トンネル、北海道は函館新北斗まで862.5キロを最高時速320キロでぶっ飛ばします。しかも昭和につくられた映画では、その危険な内容から当時の国鉄から一切の撮影協力を拒絶されましたが、時代は変わりました。鉄道会社も民営化して、なんとJR東日本様が特別協力です。我が耳を疑うようなことが起きて、大手を振ってシナハン(シナリオづくりのための取材)が始まります。
事実関係の確認や絵になる場所探し、もありますがどうやってこの街を、この沿線の景色を好きになっていくか、そんな心の準備も兼ねるのです。
とりあえず北の果てまで行ってみたけど、函館新北斗駅は近い将来開通するであろう札幌までの北海道新幹線の中間駅なので、駅前には見事に何もありません……。
代わりに白くてブヨっと丸っこい得体の知れない生き物が駅前広場に点在してます。
ずーしーほっきー。
北斗市の名物がホッキ貝らしく、それにちなんだゆるキャラらしいのですが、このデザインでホッキ貝を食べたくなるのか、よくわかりません。私はホッキ貝大好きだし、こいつの虚ろな目は大好きですけどね。
想像していた以上に函館感が乏しく、修学旅行のルートとしてはちょっと弱いのではないかという意見だけでなく、函館新北斗から新青森までの区間はJR北海道が運用を担当していて、新青森でJR東日本の乗務員に交代するのがルールです。
ということは新幹線に仕掛ける爆弾――時速100キロ以上に達したところで起動し、その後100キロ以内に減速すると起爆する仕掛けが働いたら、JR北海道の乗務員が交代できずずっと乗り続けることになっちゃいます。これはいかん。全面協力するのにその列車の乗務員は他社の運転士や車掌では色々良くないです。
やはりスタートはJR東日本管内の新青森駅にしようということになったのですが、その日の宿は函館市内。今回の映画では来ることもなくなってしまった北の玄関口。イカそうめんやラッキーピエロのハンバーガーと別れを惜しんで翌日には新青森駅に向かいます。
新青森も東北新幹線に合わせて新設した駅で、これまた駅前に何もありません。そもそも青森駅は青函連絡船に列車ごと運び込む岸壁に直結した行き止まり駅で、それを新幹線の駅に転用するのはルート的になかなか難しそうだから新駅になったのでしょう。
それでも青森の玄関口だから駅ナカに色々なお店もあり、特に東京にいると見慣れぬ青森独自の駅弁群がずらりと揃っています。そもそも東京駅には日本の名駅弁が集結するキングオブ駅弁屋、その名も駅弁屋、「祭」。
有名どころの駅弁はどんなに離れていても東京近郊のセントラルキッチンで調理して、朝から店頭に並びますが、そこまで知られていない、あるいは知る人ぞ知る駅弁たちは地元でつくったものを始発電車で運ばれてきます。
だから朝イチに手に入らない弁当が結構あってその中でも群を抜いて入荷が遅かったのは、青森県五所川原の「津軽めんこい懐石弁当ひとくちだらけ」でした。今はかなり早くなって昼過ぎに店頭に並ぶこともあるけど、昔は夕方に数も少なく、その味を忘れられない者たちによる争奪戦が起きていました。
戦いに勝って手に入れたその大きめの箱を開けると4段×6列の24マスに区切られたトレイに24種類のみちのくの味が詰まっています。
当然のことながら酒のアテとして完璧です。そんなひとくちだらけに代表される青森の名弁がコンコース内の駅弁屋にずらりと並んでいます。
しかも東京駅や京王百貨店の駅弁大会ではなかなか見かけない地域密着型のラインナップが充実しているではありませんか。特に八戸駅の三八弁当。三沢の昼イカを軽く炙ったのと酢で締めた八戸の鯖が乗ったご飯なんだけど、味付けがイカのワタでできたソースでこれがまた酒泥棒!仕事中にこんなもの食べさせないでーってうれしい悲鳴です。この鮮度は絶対に東京に輸送できないでしょう。
いかん。冷静にロケ場所を判断しなければならないのに、みんな青森の味にやられてしまっています。そこから東京目指して沿線の駅を飛び石伝いに上っていきますが八戸、盛岡、仙台。
どの街も美味しいものばかり。それまで西に、もしくは北の果てへ向かうことが多かった私にとっては東北地方は未踏のフロンティアだったのです。
そして準備が進み、撮影が始まると、制作部の仕切りで朝、昼とお弁当が手配されます。スタジオ撮影ではないのでケータリングを配膳し、食べるスペースを確保するのが難しいので自ずと弁当になるのです。その弁当がこれまた!
次回に続きますがNetflix映画「新幹線大爆破」いよいよ2025年4月に配信開始です。
文・イラスト 樋口真嗣
さて、ようやく発表になりました。
とはいっても今回の舞台となる新幹線は何色か?ってことぐらいなんですが、配信開始までまだ時間があるので何もかも詳らかにするのではなく、じわじわと小出しにしていく焦らし作戦でしょうか。とはいえ何色か分かっただけでもかなりのヒントです。
常盤グリーンと飛雲ホワイトの真ん中には、はやてピンクの帯。東北新幹線はやぶさ号であります。東京から真北へ新青森、さらに津軽海峡の海底を貫く新青函トンネル、北海道は函館新北斗まで862.5キロを最高時速320キロでぶっ飛ばします。しかも昭和につくられた映画では、その危険な内容から当時の国鉄から一切の撮影協力を拒絶されましたが、時代は変わりました。鉄道会社も民営化して、なんとJR東日本様が特別協力です。我が耳を疑うようなことが起きて、大手を振ってシナハン(シナリオづくりのための取材)が始まります。
事実関係の確認や絵になる場所探し、もありますがどうやってこの街を、この沿線の景色を好きになっていくか、そんな心の準備も兼ねるのです。
とりあえず北の果てまで行ってみたけど、函館新北斗駅は近い将来開通するであろう札幌までの北海道新幹線の中間駅なので、駅前には見事に何もありません……。
代わりに白くてブヨっと丸っこい得体の知れない生き物が駅前広場に点在してます。
ずーしーほっきー。
北斗市の名物がホッキ貝らしく、それにちなんだゆるキャラらしいのですが、このデザインでホッキ貝を食べたくなるのか、よくわかりません。私はホッキ貝大好きだし、こいつの虚ろな目は大好きですけどね。
想像していた以上に函館感が乏しく、修学旅行のルートとしてはちょっと弱いのではないかという意見だけでなく、函館新北斗から新青森までの区間はJR北海道が運用を担当していて、新青森でJR東日本の乗務員に交代するのがルールです。
ということは新幹線に仕掛ける爆弾――時速100キロ以上に達したところで起動し、その後100キロ以内に減速すると起爆する仕掛けが働いたら、JR北海道の乗務員が交代できずずっと乗り続けることになっちゃいます。これはいかん。全面協力するのにその列車の乗務員は他社の運転士や車掌では色々良くないです。
やはりスタートはJR東日本管内の新青森駅にしようということになったのですが、その日の宿は函館市内。今回の映画では来ることもなくなってしまった北の玄関口。イカそうめんやラッキーピエロのハンバーガーと別れを惜しんで翌日には新青森駅に向かいます。
新青森も東北新幹線に合わせて新設した駅で、これまた駅前に何もありません。そもそも青森駅は青函連絡船に列車ごと運び込む岸壁に直結した行き止まり駅で、それを新幹線の駅に転用するのはルート的になかなか難しそうだから新駅になったのでしょう。
それでも青森の玄関口だから駅ナカに色々なお店もあり、特に東京にいると見慣れぬ青森独自の駅弁群がずらりと揃っています。そもそも東京駅には日本の名駅弁が集結するキングオブ駅弁屋、その名も駅弁屋、「祭」。
有名どころの駅弁はどんなに離れていても東京近郊のセントラルキッチンで調理して、朝から店頭に並びますが、そこまで知られていない、あるいは知る人ぞ知る駅弁たちは地元でつくったものを始発電車で運ばれてきます。
だから朝イチに手に入らない弁当が結構あってその中でも群を抜いて入荷が遅かったのは、青森県五所川原の「津軽めんこい懐石弁当ひとくちだらけ」でした。今はかなり早くなって昼過ぎに店頭に並ぶこともあるけど、昔は夕方に数も少なく、その味を忘れられない者たちによる争奪戦が起きていました。
戦いに勝って手に入れたその大きめの箱を開けると4段×6列の24マスに区切られたトレイに24種類のみちのくの味が詰まっています。
当然のことながら酒のアテとして完璧です。そんなひとくちだらけに代表される青森の名弁がコンコース内の駅弁屋にずらりと並んでいます。
しかも東京駅や京王百貨店の駅弁大会ではなかなか見かけない地域密着型のラインナップが充実しているではありませんか。特に八戸駅の三八弁当。三沢の昼イカを軽く炙ったのと酢で締めた八戸の鯖が乗ったご飯なんだけど、味付けがイカのワタでできたソースでこれがまた酒泥棒!仕事中にこんなもの食べさせないでーってうれしい悲鳴です。この鮮度は絶対に東京に輸送できないでしょう。
いかん。冷静にロケ場所を判断しなければならないのに、みんな青森の味にやられてしまっています。そこから東京目指して沿線の駅を飛び石伝いに上っていきますが八戸、盛岡、仙台。
どの街も美味しいものばかり。それまで西に、もしくは北の果てへ向かうことが多かった私にとっては東北地方は未踏のフロンティアだったのです。
そして準備が進み、撮影が始まると、制作部の仕切りで朝、昼とお弁当が手配されます。スタジオ撮影ではないのでケータリングを配膳し、食べるスペースを確保するのが難しいので自ずと弁当になるのです。その弁当がこれまた!
次回に続きますがNetflix映画「新幹線大爆破」いよいよ2025年4月に配信開始です。
文・イラスト 樋口真嗣