
ゲンバメシを司る、新たな神降臨。ゲンバメシパワー健在。「シン・ウルトラマン」、「シン・ゴジラ」など数々の日本映画を監督してきた樋口真嗣さんの、仕事現場で出会った“ゲンバメシ”の思い出を回想します。今回で最終回、読者の皆様またどこかでお会いしましょう。
実際の新幹線を取材し、それに照らし合わせてお話をつくり、そんなこと本当にあるとしたらどうなるか?という確認を重ねて脚本が形をあらわしていきます。
Netflix映画「新幹線大爆破」はJR東日本の特別協力を得て、主役になる新幹線は新青森発東京行きのはやぶさ号になりました。
次の段階は脚本に合わせてどうやって撮影できるのかを検証します。実在する車両で可能なのか、可能でなければどうやって実現させるのか?様々な可能性の中からコストパフォーマンスの高い方法を選びます。いろいろ大変なことが起きるとしても、非日常になる前の日常を積み重ねておかねばなりませんから、そこは実際に走行する列車の中で撮影となります。
もちろん映画の内容もちゃんと考えていますが、気になるのは仕事の合間の食事です。取材の時に食べたあの数々の東北の味が撮影中も味わえるではありませんか。と、小躍りしたのはヌカ喜びで、新幹線車内の撮影用に貸切った臨時列車の外に出ての食事が全く許されません。朝ですら上野発の臨時列車に機材を搬入したらすぐに撮影準備しないと撮りきれないので、朝食は各自食べてから集合します。
上野から新青森までの走行中に撮影を行い、昼には新青森に到着します。駅で停車している時にしか許されない休憩時間には、予め停車駅で調達していた地元の駅弁が車内販売の補給と同じ動線で車内に搬入され、車内で昼食を取り、そのまま上野へ戻る車内で再び撮影をして、夜の帳が降りた東京の北の玄関口で解散です。つまり上野から乗って東北らしさを味わえたのは昼のお弁当で、だけでした。
前回紹介した「津軽めんこい懐石弁当ひとくちだらけ」の調整元、つがる惣菜の「津軽の幕の内弁当」「比内地鶏飯」「お魚だらけ」に始まり、幸福の寿し本舗の「イカとホタテと鶏めしの弁当」「津軽づくし弁当」八戸駅吉田屋の「花づつみ幕の内弁」「スタミナ源たれ 牛肉と豚肉弁」、これに加えて劇中で乗客が購入して持ち込んだ設定の駅弁が十数種。おそらく映画界きっての駅弁好きを自認する私に相応しいぐらいの東北駅弁まつり。旅行で行ってるわけじゃないから昼飯だけで十分感謝なんですけどね。
それでも車内の撮影が終わった後の駅構内や沿線からの視点の撮影となれば、現地宿泊になるから期待は広がります。朝や昼は製作部の仕切りでお弁当が手配されます。第10回で紹介したポパイはさすがに青森まで運んで来てはくれませんから、地元の弁当屋さんで手配します。最近は地元のフィルムコミッションが連携して手配してくれるし、ネットで調べれば大概のことはできる世の中だから楽をしようと思えばいくらでもできるじゃありませんか。毎日しんどいだろうから時々美味しいものが出るぐらいでいいや、と心の準備をしているにもかかわらず、その諦めを裏切るぐらいに毎日出てくる弁当がまためちゃくちゃ美味いわけですよ。青森、盛岡、宮城……食材が悪いわけがないけど、それでもこの人数をこのクオリティで、すげえなあと感心してたら、弁当を全部取り仕切っているのは制作部の河崎さん。
私もコロナ禍以降初めての現場、その数年の間に現場スタッフもすっかり代替わり、というか世代交代が知らない間に完了していて、私も気づけばロートルです。そんな世代交代で入れ替わった現場の最前線で頑張ってる制作部の一人で、今回初めましてなんだけども、まあどこでそんなに集めてきたのかってくらいの物量のリスト(これは先輩たちから受け継がれたものもあるらしい)と、自分の舌で味を確かめた上で(ちょっと無理目の)お願いをして注文してくる行動力。ロケになると場所が限られるのでなかなかケータリングってわけにもいかず、弁当になりがちだけど、それでもその土地でしか食べらんないものを足で稼いで探し出してくれるんですよ。せめて何かをってカセットコンロで作った温かい汁物も心に沁みます。制作部の皆さん、毎日美味しいゲンバメシをありがとうね〜。
さて、Netflix映画「新幹線大爆破」いよいよ2025年4月に配信開始だというのに肝心の映画の中身の話をせずにメシの話ばかりでした。でも映画づくりとは切っても切れないのがゲンバメシ。メシを喰わねば映画は出来上がらないのです。
それでもまだまだ語っていない綺羅星の如き現場メシの数々。
調布の日活撮影所に入っていた「食堂松喜」。選ばれしスタッフしか入れないエリアと下々の定食エリアのカースト。生まれて初めて食べた茄子の入ったカレーの味……とか。東宝ビルト近くにある出前が異常に早い超能力蕎麦屋対、東映大泉撮影所の食堂の超能力レジ打ちおばちゃんとか、ガメラを撮った大映調布撮影所に程近い地獄のカレー屋のせいで、演出部午後全滅!!に続いて地獄の蕎麦屋で演出部午後全滅!!。近所にある競輪場の開催日にしか味わえない勝利者のチキンとか。香港映画の撮影で食べた夜食の汁そばの有り難さとか……。
まだまだ話題はいっぱいありますが、どの店もほとんど営業していない実用性のない話題ばかり。どんどん狭くて深くて出口のない底なし沼にはまり込んでキリがないのでそろそろこの辺で。またどこかでお会いしましょう。
文・イラスト:樋口真嗣 撮影:河崎実果
実際の新幹線を取材し、それに照らし合わせてお話をつくり、そんなこと本当にあるとしたらどうなるか?という確認を重ねて脚本が形をあらわしていきます。
Netflix映画「新幹線大爆破」はJR東日本の特別協力を得て、主役になる新幹線は新青森発東京行きのはやぶさ号になりました。
次の段階は脚本に合わせてどうやって撮影できるのかを検証します。実在する車両で可能なのか、可能でなければどうやって実現させるのか?様々な可能性の中からコストパフォーマンスの高い方法を選びます。いろいろ大変なことが起きるとしても、非日常になる前の日常を積み重ねておかねばなりませんから、そこは実際に走行する列車の中で撮影となります。
もちろん映画の内容もちゃんと考えていますが、気になるのは仕事の合間の食事です。取材の時に食べたあの数々の東北の味が撮影中も味わえるではありませんか。と、小躍りしたのはヌカ喜びで、新幹線車内の撮影用に貸切った臨時列車の外に出ての食事が全く許されません。朝ですら上野発の臨時列車に機材を搬入したらすぐに撮影準備しないと撮りきれないので、朝食は各自食べてから集合します。
上野から新青森までの走行中に撮影を行い、昼には新青森に到着します。駅で停車している時にしか許されない休憩時間には、予め停車駅で調達していた地元の駅弁が車内販売の補給と同じ動線で車内に搬入され、車内で昼食を取り、そのまま上野へ戻る車内で再び撮影をして、夜の帳が降りた東京の北の玄関口で解散です。つまり上野から乗って東北らしさを味わえたのは昼のお弁当で、だけでした。
前回紹介した「津軽めんこい懐石弁当ひとくちだらけ」の調整元、つがる惣菜の「津軽の幕の内弁当」「比内地鶏飯」「お魚だらけ」に始まり、幸福の寿し本舗の「イカとホタテと鶏めしの弁当」「津軽づくし弁当」八戸駅吉田屋の「花づつみ幕の内弁」「スタミナ源たれ 牛肉と豚肉弁」、これに加えて劇中で乗客が購入して持ち込んだ設定の駅弁が十数種。おそらく映画界きっての駅弁好きを自認する私に相応しいぐらいの東北駅弁まつり。旅行で行ってるわけじゃないから昼飯だけで十分感謝なんですけどね。
それでも車内の撮影が終わった後の駅構内や沿線からの視点の撮影となれば、現地宿泊になるから期待は広がります。朝や昼は製作部の仕切りでお弁当が手配されます。第10回で紹介したポパイはさすがに青森まで運んで来てはくれませんから、地元の弁当屋さんで手配します。最近は地元のフィルムコミッションが連携して手配してくれるし、ネットで調べれば大概のことはできる世の中だから楽をしようと思えばいくらでもできるじゃありませんか。毎日しんどいだろうから時々美味しいものが出るぐらいでいいや、と心の準備をしているにもかかわらず、その諦めを裏切るぐらいに毎日出てくる弁当がまためちゃくちゃ美味いわけですよ。青森、盛岡、宮城……食材が悪いわけがないけど、それでもこの人数をこのクオリティで、すげえなあと感心してたら、弁当を全部取り仕切っているのは制作部の河崎さん。
私もコロナ禍以降初めての現場、その数年の間に現場スタッフもすっかり代替わり、というか世代交代が知らない間に完了していて、私も気づけばロートルです。そんな世代交代で入れ替わった現場の最前線で頑張ってる制作部の一人で、今回初めましてなんだけども、まあどこでそんなに集めてきたのかってくらいの物量のリスト(これは先輩たちから受け継がれたものもあるらしい)と、自分の舌で味を確かめた上で(ちょっと無理目の)お願いをして注文してくる行動力。ロケになると場所が限られるのでなかなかケータリングってわけにもいかず、弁当になりがちだけど、それでもその土地でしか食べらんないものを足で稼いで探し出してくれるんですよ。せめて何かをってカセットコンロで作った温かい汁物も心に沁みます。制作部の皆さん、毎日美味しいゲンバメシをありがとうね〜。
さて、Netflix映画「新幹線大爆破」いよいよ2025年4月に配信開始だというのに肝心の映画の中身の話をせずにメシの話ばかりでした。でも映画づくりとは切っても切れないのがゲンバメシ。メシを喰わねば映画は出来上がらないのです。
それでもまだまだ語っていない綺羅星の如き現場メシの数々。
調布の日活撮影所に入っていた「食堂松喜」。選ばれしスタッフしか入れないエリアと下々の定食エリアのカースト。生まれて初めて食べた茄子の入ったカレーの味……とか。東宝ビルト近くにある出前が異常に早い超能力蕎麦屋対、東映大泉撮影所の食堂の超能力レジ打ちおばちゃんとか、ガメラを撮った大映調布撮影所に程近い地獄のカレー屋のせいで、演出部午後全滅!!に続いて地獄の蕎麦屋で演出部午後全滅!!。近所にある競輪場の開催日にしか味わえない勝利者のチキンとか。香港映画の撮影で食べた夜食の汁そばの有り難さとか……。
まだまだ話題はいっぱいありますが、どの店もほとんど営業していない実用性のない話題ばかり。どんどん狭くて深くて出口のない底なし沼にはまり込んでキリがないのでそろそろこの辺で。またどこかでお会いしましょう。
文・イラスト:樋口真嗣 撮影:河崎実果