刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
しっとり、絶品!「白身魚の切り身」の冷蔵庫干し

しっとり、絶品!「白身魚の切り身」の冷蔵庫干し

天日干しではなく、脱水シートで魚を包んで冷蔵庫で干物にする「脱水シート干し」。特に、「白身の切り身はしっとりして絶品になりますよ」とは、伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さん。柚子、昆布などの味変も抜群の味わいに!

切り身で気軽に脱水シート干し。しっとり仕上がる白身魚がお薦め

丸魚を買ってさばいて半身は刺身、半身は塩焼きにして、頭と骨で潮汁をつくる――。お得で楽しい休日の過ごし方だと思う。でも、時間や気持ちに余裕がないときはパックに入った切り身やサクに頼りたい。煮ても焼いてもいいけれど、我らが干物師匠、「島源商店」の内田清隆さんによれば、白身魚の切り身でつくる干物は絶品だ。特に脱水シートと冷蔵庫を使う(脱水シート式干物のつくり方はこちら)と、よりしっとり仕上がると教えてくれた。

「身質や脂の量で味が大きく変わるのでいろいろ試してみてください。ただし、カレイなどは水分量が多すぎて脱水シートでは吸収しきれないかもしれません。そこだけ注意してください」

今回選んだ魚はサゴシ。サワラの稚魚だ。サバ科の魚だけど、味は青魚というよりも白身魚と言っていいと思う。食品スーパーでも年間を通して切り身でよく売っている。値段も手頃だ。

サゴシ

柚子の皮を散らしたり、昆布をのせたり。脱水シート干しは味変にも向く

皮や骨がついたままの開きとは違い、切り身は身の断面が多く露出している。塩が入り過ぎないように調整が必要だ。今回は、濃度8%の塩水に、7分間程度と短めに浸けた。濃い味が好きな方は長めに、薄味が好きな方は短くするなど好みで調整を。

塩水につける

漬け終わったら余分な塩を取り除くために軽くすすぐ。水気をよく拭いて脱水シートで包み、冷蔵庫に入れて10時間ほど待つだけ。調味料などを足して簡単に味変できるのも脱水シート干しのいいところ。天日干しに比べると、調味料が魚に深く浸透する。

水気をよく拭く

プレーンな干物に加えて、柚子の皮を散らしたものと酢で拭いた昆布をのせたものをつくってみよう。この「変わり干物」の旨さと楽しさはアジの開きで実証済み(記事はこちら)だけど、サゴシの切り身でもぜひ試したい。

柚子の皮を散らしたもの
酢で拭いた昆布をのせたもの

グリルで焼き、まずはプレーンから食べてみた。塩気よりもサゴシの上品な旨味を先に感じる。そして身は普通の塩焼きと比べて引き締まっている。ご飯にも合うけれど、酒肴に出たら嬉しい味だ。お好みで塩を足したりスダチを搾っても良いと思う。

グリルで焼いたプレーン

温かいご飯と食べると柚子の香りが鼻から抜けていく。柚子干し、すごい!

次に柚子干し。柚子の皮を外してから焼いた段階ではほのかに香る程度だけど、温かいご飯と一緒に口の中に入れると柚子の香りが鼻から抜けていく。そして、プレーン干物よりも旨味を強く感じた。こんなおかずを自分でつくれるなんて幸せだな。

柚子の皮を散らしたもの
柚子の皮は焼く前に箸で取り除こう

干物づくりをしていると自己肯定感が高まると思う。脱水シート式の場合は冷蔵庫を開けるたびに「スタンバイ中」の干物が見られて、オレは普通の食材に一工夫を加えちゃっているぜ、と嬉しくなるのだ。自炊全般に言えることかもしれないけれど、生きていくことへの自信が深まるのを感じる。お金を稼いで使うだけでは得られない種類の自信だ。
つい大げさな話になってしまった。

最後に、サゴシ切り身の脱水シート昆布締めを試食。おお~、昆布と脱水シートのダブル吸水効果で身がギュッと締まっている。凝縮された魚の旨味の中に新たに昆布の旨味も加わり、プレーンな干物との違いは明らかだ。

水分が適度に抜けた干物は冷凍しても味がほとんど落ちない。安売りの切り身をまとめ買いして変わり干しをつくっておき、いつでも簡単に美味しい自炊料理を楽しめるようにしたい。

完成
未利用魚ボックス
【大宮冬洋の干物日記】三河湾の「未利用魚ボックス」が届いた!大きなハモにびっくり
○月△日 
漁では狙った魚種だけを獲ることは不可能なので、市場価値が低い魚もたくさん船の上にやってくる。釣りならばリリースもできるけれど、網で引き上げると弱ってしまうので大量の魚が廃棄されてしまっている。

そういう魚たちをまとめて個人などに販売する「未利用魚ボックス」の試みが全国の漁港に広がっているようだ。知人宅のホームパーティーでは北海道羅臼町の刺し網漁師から送られてきたボックスでの魚三昧を体験。ホテイウオ(ゴッコ)やアオゾイといった耳慣れない魚に混じって、タラやホッケといった一般的な魚も入っていたのが意外だった。説明書きによれば、「獲れすぎて供給過剰になって価格が落ちてしまった」「獲れても数がまとまらず規格に満たない」などの場合も未利用魚になってしまうという。

僕が住んでいる三河湾岸沿いの漁師も同じような課題を抱えているかもしれない。若手の底引き網漁師にお願いして、「お任せ5000円セット」を届けてもらうことにした。ある日の中身は以下の通り。

・小海老(クマエビ、ヨシエビ)100匹弱
・バイ貝30匹
・小さなコウイカ10匹
・ワタリガニ5匹
・ハモ2匹
・黒鯛3匹

ご近所10世帯ほどで魚を分ける「鮮魚部」があるので食べ切れない量ではないが、1メートルを優に超すハモ(漁師が活〆してくれていました)が入っていたのには驚いた。でも、お任せなので「さばけないのでハモは入れないで」とは言えない。動画などを見ながら必死におろして下手ながらも骨切り。小さいものは湯引きで大きなものは唐揚げ、あらは雑炊で美味しく食べられた。未利用魚のお任せセットは資源の有効活用にもなるし自炊力の向上にもつながると思った。

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

島源商店
住所:静岡県伊東市松原本町4‐8
TEL:0557‐37‐2968
http://www.shimagen.com/index.html
※明治30年創業の干物店。卸が中心だが、店頭でも購入可能。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。