刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
昆布、柚子風味をプラス。「脱水シート変わり干物」のススメ

昆布、柚子風味をプラス。「脱水シート変わり干物」のススメ

気温の高い日でも天気の悪い日でも、冷蔵庫で干物がつくれる便利な「脱水シート干し」。伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんに、今回は昆布や柚子で旨味や香りを加えるアレンジを教えてもらった。特に脱水シートで昆布〆にした干物は、驚きの美味に!!

鮮魚が余っても大丈夫。僕たちには干物という味方がいる!

魚屋やスーパーの鮮魚売り場で、アジや小鯛など特定の魚種が山盛りに売られていることがある。そのときによく獲れる、つまり旬の美味しい魚だ。値段も安くなっているので買わない手はない。

僕の場合は鮮魚をたくさん仕入れてさばいたときは、翌日ぐらいまでは刺身などで食べたり鮮魚部(近所の魚好きで結成)の部員にほぼ原価で分けたりしている。それでも残ることはあるが、心配ない。本連載で修得した干物をつくり、冷凍しておけばいいからだ!

我らが干物師匠・「島源商店」の内田清隆さんによれば、食べるときは解凍不要。グリルをチンチンに予熱しておき、凍ったままの干物を皮目を下にして入れるだけ。中火で8分ほどでホカホカで香ばしい手づくりおかずのできあがり。干物の焼き方にはついてはこちらを参照して欲しい。

干物を簡単に味変!好きな調味料をまぶす「脱水シート変わり干し」。

ただし、どんなに美味しくても同じものでは飽きがくる。内田さんが簡単にできる「変わり干物」を伝授してくれた。好きな調味料をまぶした干物だ。干した後に調味料を振って焼いてもいいけれど、味や香りをよりしっかりつける方法がある。我々がすでに学んだ脱水シート干しだ。

「アジの開きに昆布をのせてラップをして時間を置くのは、いわゆる昆布締めですね。ラップではなく脱水シートを使うとより水分を吸収し、昆布の旨味が強く感じられる干物ができあがるはずです」 大量生産には向かない脱水シートは内田さんにとっても未知の領域。今回、僕たちと一緒に実験に臨んでくれた。

「脱水シート昆布締め」の衝撃。商品化したくなるほどの旨さ!

頭を落として開いたアジに、酢で拭いた昆布をのせ、脱水シートで包む。そして冷蔵庫で8時間ほど寝かせてから取り出し、グリルで焼いた。こ、これは旨い!
昆布のみ、脱水シートのみの魚と比べて旨味の凝縮をより感じた。もちろん、昆布の風味も十分で、酒肴にもご飯のともにもぜひ!という仕上がりである。

「旨いですね~。商品化したいほど好きです。でも、脱水シート干しはコストも手間もかかるからなあ。卸売り用は無理なので、店頭売りの特別商品にしようかな」
商品化を検討し始める内田さん。脱水シートと昆布のダブル効果はそれほどすごいのだ。

昆布をのせる
脱水シートで包む
寝かす

口に入れた瞬間に香る!「脱水シート柚子干し」の楽しさ

次はゆず。削った皮をアジの開きの上にのせ、あとはいつもの脱水シート干しだ。
「おお、口に入れた瞬間にゆずの香りが広がりますね!」
嗅覚に優れたカメラマンの牧田さんがすぐに反応した。僕の鼻では「食べたところによっては香る」程度。削った皮が付着していた部分とそれ以外の部分に差があることがわかった。

ゆずの皮を削る
脱水シートで包む
寝かす

「均等にするために、ゆずの果汁を絞って漬け込んでも良かったかもしれません」
内田さんは再び商品化を検討中。どうやら脱水シート変わり干しの魅力に取りつかれたようだ。
干物を焼いてからゆずを絞りかけてもいいけれど、それでは香りが強すぎることがある。調味料や果物の味と香りを閉じ込めながら水分を抜くことで、魚の旨みと渾然一体となった風味ができあがるのだ。脱水シート干しの世界をさらに展開していきたくなった。

完成
アジの脱水シート昆布〆。見た目はわからないが、口にすれば一目瞭然。深い旨味が広がり、これは美味!
完成
こちらは柚子干し。水分を抜きながらじわじわと柚子の香りをつけていくので、自然で上品な仕上がりになっている。
【大宮冬洋の干物日記】嫌われがちなギマは、みりん干しにしたらめちゃ旨!
○月△日 
三河湾の最奥部に位置する愛知県蒲郡市。我が家の近所の漁港ではギマという魚が大量に揚がる時期がある。高級魚のカワハギをめちゃくちゃさばきにくくしたような魚だ。背中と腹に計3本の堅い棘があり、皮は分厚い布のように強靭で、包丁を入れていると粘液がダラダラと出てきてまとわりつく……。この小さな怪獣みたいな魚は漁港では不評で、野良猫も食べなかったりする。

がんばってさばけば、身だけでなく大きな肝も煮つけで楽しめるギマ。みりん干しも美味しいという情報を聞き、漁師からもらった大きめのギマ6匹を切り身にして試してみた。
本連載で習ったみりん干しは、浸けダレの量も浸け時間も少ないので楽に実践できる。

醤油大さじ6、砂糖大さじ3、みりん大さじ1でつくったタレに浸し、15分経ったら表面の水分を拭き取り、脱水シートで包んで冷蔵庫へ。頭や尻尾がないので、「ピチット」シート1枚で十分足りた。

これを焼いて宴会に出したら大好評! みりん干しにすることでギマの魚臭さと旨味が程よく引き出され、絶妙な酒肴となったのだ。地魚を手づくりで干物にしたので、話題に事欠かなかったのは言うまでもない。

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

島源商店
住所:静岡県伊東市松原本町4‐8
TEL:0557‐37‐2968
http://www.shimagen.com/index.html
※明治30年創業の干物店。卸が中心だが、店頭でも購入可能。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。