
今回は応用編。連載の担当カメラマン・牧田さんが、自ら釣ったシロアマダイを持ってきてくれた。干物づくりを教えてくれるのは、伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さん。シロアマダイは割烹などでも出される高級魚、いざ、干物にしてみたら――!
干物の基本は修得したとみなして、様々な魚をさばいて干して食べる「応用編」に突入している僕。自由で美味しくて勉強になって仕事にもなるのだから最高の気分だ。引き続き指導してくれているのは我らが干物師匠・「島源商店」の内田清隆さん。真面目な内田さんは「伊豆らしい旬の魚」もしくは「消費者になじみのある大衆魚」を教えようと準備に心を砕いてくれているが、僕は高級魚や珍魚にも挑戦したいし食べたい。
そんな僕に心強い味方がいる。本連載の撮影を担当してくれているカメラマンの牧田健太郎さんだ。彼は仲間と一緒に釣り船を保有してクエを狙うほどの釣師。ちゃんと処理して保存して知り合いの飲食店に贈呈し、代わりに飲み代を安くしてもらうこともあるらしい。人生を楽しんでいるな……。牧田さん、本連載にも釣果を分けて下さい!
「いいですよ。シラカワ(シロアマダイ)の小さいやつがたくさん釣れたので冷凍してあります。今度の取材のときに持って行きますね」
国産の釣りシロアマダイ!割烹料理で使われる超高級魚じゃないですか。ぜひお願いします。
「(静岡県)御前崎沖の水深40メートルぐらいのところで釣れました。エサはオキアミです。本当はもっと浅瀬にいる大型のやつを狙っていたのですが、この日は食わなかったんです」
ちょっと恥ずかしそうにシロアマダイを見せてくれる牧田さん。いえいえ、丸ごと干物にするにはこれぐらいがちょうどいいですよ。内田さんも嬉しそうにさばきを教えてくれた。可愛い頭はそのまま残して背開きする「小田原開き」だ。
「シロアマダイは焼くと美味しい鱗は残してさばきます。ただし、背開きにするために背ビレの脇の鱗は取り除いておいたほうがいいでしょう」
そんなシロアマダイを干物用にさばく手順は以下の通り。
首(頭のつけ根)の後ろから尾までガイドラインとなる切り目を入れる。
包丁を中骨に当てて滑らせて、魚を手で広げながら背骨の向こう側まで切り込む。このときに包丁を途中から少し立てて腹骨も切ると、内臓を取り出しやすくなる。
えらを手でちぎって前に引き内臓ごと除去する。
内臓を取り除いたら、すぐに血や汚れを洗い流す。放置しておくと、せっかくの美しい白身に血が浸み付いてしまうからだ。
「シロアマダイは身質が柔らかくて塩が入りやすいので、塩水に浸けすぎないようにしましょう」
牧田さんの釣果を前に真剣な表情を崩さない内田さん。塩分濃度は8%で浸ける時間は10分間と決定。
このシロアマダイは小ぶりで、解凍したものであることも判断に影響したのだと思う。身質がしっかりしている大きな魚を新鮮な状態で干物にしようとすると、同じ濃度の塩水に1時間浸けても塩味がつかないこともあるらしい。
浸け終わったシロアマダイは水気をよく拭き取り、尾から頭の方向に表面を手でなでて光沢を出してから干す。
指で押してベタつかず、指紋がつく程度に干し上がったら完成だ。
「焼くときは鱗が焦げやすいので慎重に。ただし、ちょっと焦がしたぐらいのほうが美味しいと僕は思います」
内田さんが焼いてくれたシロアマダイの干物。身にしっかりと味があって、上品なのにパワフル。これはめちゃ旨い!
「干物!っていう感じがするのは塩がちゃんと効いて旨味を引き出しているからだと思います。フワッとした食感を楽しむ塩焼きとは別物ですね」
担当編集の藤岡さんは日本酒を飲みたそうな顔で塩焼きとの違いを分析する。
確かに、干物をつくって食べていると塩の大事さを再認識することが多い。水分を抜くだけでなく、魚の味を引き立たせるのに必須アイテムなのだ。そして、干物はやっぱり焼きたてが極上。
「いいですね~。塩がちゃんと入って、甘味が引き立っています。この魚は味が濃いなあ」
牧田さんも大満足の様子。これだけ美味しく食べられたら、釣られたシロアマダイも成仏してくれたと思う。
1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。
島源商店
住所:静岡県伊東市松原本町4‐8
TEL:0557‐37‐2968
http://www.shimagen.com/index.html
※明治30年創業の干物店。卸が中心だが、店頭でも購入可能。
文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎