「インネパ食堂」で飲む!
芝浦直送!本格もつ焼き&煮込みがうまいインネパ店──新川崎「ラスクス」前編

芝浦直送!本格もつ焼き&煮込みがうまいインネパ店──新川崎「ラスクス」前編

インネパ店でありながら、看板メニューは煮込みともつ焼き!──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第23回目は、「ネパール料理 meets もつ焼き」という、他では得がたいインネパ飲みを堪能してきました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

今回は、何やら一風変わったインネパ店があるとの噂を聞きつけ、新川崎「ラスクス」訪れました。

ガチなもつ焼きメニューを全品100円で提供

JR新川崎駅からバスで7~8分、徒歩だと15分ほどのマンション1階にある、小さなアーケード。その中ほどに、この稀有なインネパ店は忽然と現れます。店頭には、なんと「やきとり」の文字が書かれた赤ちょうちんが。これが本当にインネパ店?

アーケード
東西に伸びる小ぢんまりとしたアーケードの一角に……。
外観
2022年3月に開店した「ラスクス」。店の目の前に「南加瀬住宅前」バス停があります。

店に入ってメニューを見てみると、本格的なネパール料理とあわせ、やっぱりねぎま、つくね、そしてシロ、チレ、ガツといったガチなもつ焼きメニューが並びます。それも全品100円! さらには「煮込みあります」の文字も。もしやここは、ネパール料理ともつ料理が混在する、夢のようなインネパ店かもしれない……。

ひとまずは、おつかれさまの生ビール。お通しは、インドやネパールの豆せんべい“パパル(パパド)”です。スパイシーで塩気もきまり、これだけでビールがみるみる減っていく~。

メニュー
串焼きは全品100円!
生ビール
生ビールとパパル(パパド)で取り急ぎ乾杯!

続いて、気になる“もつ煮込み”がやってきました。 果たしてそのお味は。

もつ煮込み
もつ煮込み390円。取り皿がカトリなのもかわいい。
田嶋
あ、うまい。味噌系ではありますが、すっきりした味わいでやさしい……。具材から溶け出した上品なコクもあって、どんどん飲めちゃいます
編集M
もつ肉はシロやフワなど数種の部位を使っていますが、下処理がきちんとされていて臭みがない。もつの鮮度の良さもわかりますね。ふっくらトロトロに煮込まれていて、おいしいです
小林
あっさり味なだけに、パパルを散らして食べてもオツです
もつ煮込み
こんな感じで、パパルをトッピングしてみるのもインネパ飲みならでは。

ちなみに、ネパールにも、こういったもつ煮込みはあるのでしょうか。

小林
ネパールでも水牛を中心にもつ(内蔵)肉は一般的に食べられ、特にもつをよく食べるネワール族の間では、日本と同じように内蔵の部位ごとに名前が付いてます。ただ、炒め物や焼き物が基本で、日本の煮込みのようなジョルタイプの(汁気のある)もつ料理は見たことがありません
編集M
僕はもつ煮込みに目がなくて。もつ焼き店を取材することも多いんですが、もつ煮込みって何度も下ゆでが必要だったりと、ものすごく手間がかかる料理なんです。だからこそ煮込みがおいしい店は、仕事が丁寧で行き届いている証。ほかの料理にも期待が持てます

もつ焼きの旨さの秘密は“バイト先”にあった!?

それにしても、なぜインネパ店でおいしい煮込みが出せるのでしょう。その秘密は、ネパール人店主・ビカスマーラさんの“アルバイト先”にありました。

ビカスマーラさん
私はこの店と並行して、品川の中央卸売食肉市場でも働いていて、肉はそこで仕入れています。平日は毎日8時から13時まで市場で働いて、それから店に戻って仕込みをして、16時に開店するという毎日を送っているんです。実は品川の食肉市場には、他にもネパール人がたくさん働いていて、全部で200人くらいいるんですよ
ビカスマーラさん
店主のビカスマーラさん。
小林
そういえば、よく夏場にネパール人たちがバーベキュー大会を開いていて。僕も何度か合流させてもらいましたが、やはり食肉市場で働く人が多いので、調達される肉はさすがのハイクオリティでした(笑)
田嶋
市場で働いているから、食材となる肉を手頃に、新鮮な状態で手に入れられる。「ラスクス」も、巷のもつ焼き店や焼肉店がウリにする“芝浦直送”なわけですね!

そんな話をしていたら、無性に焼き鳥が食べたくなりました。早速いろいろと注文します。店主のビカスマーラさん自ら焼き台に立ち、丁寧に火を入れていきます。

焼き鳥
焼き鳥

塩でお願いしたのは、かしら、ハラミ、つくねなど。どれも臭みがなく、フレッシュなおいしさです。中でも、プリッとした肉を噛み込むほどにとジューシーな肉汁があふれてくるハラミが印象的でした。

一方タレではシロ、つくね、チレなどを。タレの味わいはすっきり上品で、日本酒や焼酎をちびちびやりながら飲むのにぴったり。特にチレは、ハツのような弾力とレバーのようなコクを持ち合わせ、これぞ珍味という酒肴ぶり。塩・タレともに、味付けと焼き加減もバッチリで、これをネパールの方がつくっていることにあらためて驚かされます。

1本100円とは思えないうまさと食べ応え!
ビカスマーラさん
実はこの店を始める前の数年間、東京のいくつかのもつ焼き店で働いて、仕込み方や焼き方を学びました。また煮込みのつくり方は、食肉市場で働く日本人のお兄さんたちから教わりました。おかげさまでうちの店には、インドカレーやネパール料理だけではなく、もつ料理を目的に来られるお客さんも結構いるんですよ

もつ肉を使うのは、煮込みや串焼きだけではありません。そこで、数種の豚もつ肉をスパイシーに炒めたネパール料理、“ポークブトゥン”を注文。

ポークブトゥン
ポークブトゥン550円。
小林
スパイスと塩気がしっかり効き、これぞネパールの味。もつ肉の独特のクセのある旨味や歯応えも、いい具合のアクセントとなっていますね
田嶋
おかげでハイボールやレモンサワーをガブガブいきたくなります

日本とネパールを行き来しながら、もつ料理を味わっている間にも、近隣に住むと思われる子どもがおつかいにやってきて、焼き鳥をテイクアウトしていきました。ネパール人の店舗がコミュニティにユニークな形でなじんでいるようで、なんだかいい光景です。

後編では、なぜインネパ店にしてこのユニークなスタイルを志したのかを、解き明かして参ります!

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

ラスクス
  • 【住所】神奈川県川崎市幸区南加瀬2‐20‐1
  • 【電話番号】044‐589‐8557
  • 【営業時間】16:00~22:00 土日 11:00~15:00、16:00~22:00
  • 【定休日】火曜
  • 【アクセス】JR「新川崎駅」より徒歩15分、川崎市営バスほか「南加瀬住宅前停留所」そば

文:田嶋章博 写真:田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。