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下北沢「カレーの店・八月」で、心も華やぐ野菜カレーを食す──「ライスカレー シン・名店」~おかわり②

下北沢「カレーの店・八月」で、心も華やぐ野菜カレーを食す──「ライスカレー シン・名店」~おかわり②

下北沢の駅を降りて、古着屋が並ぶ商店街を下る。いつの日だって「カレーの店・八月」は、自然体で迎えてくれる──dancyu9月号カレー特集「ライスカレー シン・名店」で取材した4店舗の、誌面で紹介しきれなかった“もう一つの”絶品カレーを紹介するおかわり企画。今回は、日常に根ざしたカレー店の、やさしさにあふれた野菜カレーをどうぞ!

下北沢の街角、その風景に溶け込んだ小さなカレー屋さん「カレーの店・八月」。この店のカレーは決して、特別な日のご馳走カレーではない。むしろふと帰りたくなる、安心して帰ってこれる日常のようなカレーである。

オーナーはミュージシャンの曽我部恵一さん。彼がこの場所でカレー屋をはじめたのには、ちゃんとした理由がある。

外観
「カレーの店・八月」は、2020年4月にオープン。オーナーはサニーデイ・サービスのギター、ボーカルとしても活躍する曽我部恵一さん。同じ建物の3階には、「PINK MOON RECORDS」というレコードショップも併設している。

70年代のニューヨークで活躍したアーティスト、ゴードン・マッタ=クラーク。彼は「生活に沿った食事」を現代アートの表現として捉え、レストラン「FOOD」をオープンした。そのことに感銘を受け、曽我部さんは「自分もいつか、街の暮らしに沿った定食屋さんをやりたい」と思ったのが、「八月」をはじめるきっかけとなった。

「カレーの店・八月」に徹底された日常感。その軸は、開店から2年経った今も変わらない。

調理を担当する店長の尾関太一さんは、イタリア料理店出身。彼の料理人としての技術と矜恃は、日常の暮らしに寄り添う「八月」のカレーにじんわりとした喜びを加えている。

店長の尾関太一さん
イタリア料理の経験をもつ、店長の尾関太一さん。曽我部さんがオーナーを務める「CITY COUTRY CITY」の料理長を経て、この店の店長を歴任。
Tシャツ
曽我部さんが描いたイラストのTシャツなど、オリジナルグッズも販売している。

たとえば、彩り豊かな「季節野菜のカレー」。10種の野菜の内容は時季によって変わるが、魅力はそれだけではない。茄子であれば素揚げ、パプリカなら強火で炒め、ズッキーニは塩茹でにしたり、と。個々の野菜を、旬の美味しさを活かす調理法で別々に仕込んでいるのだ。さらに素揚げをするにしても、野菜の種類によって揚げ時間を変えるなど、実に細かい手間をかけている。

カレー
目にも美しい季節野菜のカレー1,380円に、あいがけキーマ200円をトッピング。それぞれの野菜の食感や味わいを生かした細やかな調理が嬉しい。

「八月」で提供されるすべてのメニューの元となるグレービーは、旨味を重視し、鶏ガラ、丸鶏、モミジ、豚骨に加え、豚のゲンコツと背ガラを10時間じっくり煮込んだスープでつくる。この、ただでさえ手間暇をかけたカレーに、食後感が油っこくならないよう、さらに手間暇をかけた野菜が加わることで、季節の移り変わり、同じ様な日常が少しづつ変わっていく「気づき」が生まれてくる。

いつでも帰ってこれる、街の日常とその安心感。季節の移ろいにあわせ、少しづつ変化する日常とその喜び。シモキタ界隈のミュージシャンが、学生が、劇団員が、近所のショップ店員が、ふらりと立ち寄っては、笑顔で帰ってゆくカレー屋さん。まさに、ゴードン・マッタ=クラークが掲げた「カルチャーとしての食」がここにはある。

ちなみに曽我部さん、尾関さんともに好きなカレー店は「モンスナック」だという。60年近くもの間、新宿で愛され続けるカレーライス屋さん。これまたものすごい納得感ではないか。

看板
日々の暮らしに「カレーの店・八月」がある安心感。この街に、この味が、すっかり馴染んでいる。

店舗情報店舗情報

カレーの店・八月
  • 【住所】東京都世田谷区北沢2‐14‐19 グラバービル1階
  • 【電話番号】03‐5787‐6304
  • 【営業時間】11:00~21:30(L.O.)
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】小田急線・京王井の頭線「下北沢駅」より5分
dancyu2022年9月号
dancyu2022年9月号
特集:美しいカレー

A4変型判(160頁)
2022年8月05日発売/ 980円(税込)

文:松 宏彰 写真:長谷川 潤

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