「インネパ食堂」で飲む!
商店街のインネパ食堂で"ネパールつまみ"を掘り下げる!──大山「ムグラン」後編

商店街のインネパ食堂で"ネパールつまみ"を掘り下げる!──大山「ムグラン」後編

ハッピーロード大山商店街のはずれにある、インネパ食堂。そこには、まだまだ酒が進むスパイス酒肴があった!──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第6回は、とりわけ酒との相性が抜群な“ネパールつまみ”をさらに掘り下げます。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

外観
大山「ムグラン」。
メニュー
テイクアウトメニューにも力を入れている。

訪れたのは、前回に引き続き東京・大山「ムグラン」。今回は、インネパ店のメニューの中でも酒との相性がピカイチな“ネパールつまみ”を堪能しながら、良いインネパ酒場を見つけるコツを小林さんに聞きました。

抗うことのできない“スパイス×肉”の威力

一見よくあるインネパ店に見えつつ、実はディープなネパールつまみもいろいろある、ここ「ムグラン」。いざ、それを頼んでみましょう!

まず登場したのが、スパイスでマリネした豚肉を炒めた“ポークフライ”。これがいきなり度肝を抜くうまさでした。ネパール山椒のエキゾチックな風味がくっきり立ち、それをネパールのトマトアチャール=ゴルベラコアチャールと共にいただくと、酸味が加わり一層華やかな味わいに。

ポークフライ
ポークフライ600円。
小林
ゴルベラコアチャールは、煮詰めるタイプと、火を入れないフレッシュタイプがありますが、こちらは後者ですね。それがまた、炒めた肉とよく合います
田嶋
もはやゴルベラコアチャールだけで十分、アテになります(笑)

続いては、焼いたマトンをスパイスでマリネした“マトンチョイラ”が登場。カリカリに焦がしたメティシードの独特のスモーキーさと、強烈な辛味と酸味、そしてマトンの絶妙な歯応えが相まって、これまた“最強の酒泥棒”という趣です。

マトンチョイラ
マトンチョイラ600円
小林
チョイラは酒との親和性が特に高いので、インネパ店のメニューにあれば、ぜひ頼みたいところです
編集M
それにしてもインネパ店って、最初は正直どこもだいたい同じだろうと思っていましたが、実際は店によってけっこう違いますね。たとえばここのようにネパールつまみが充実していたり、以前にこの連載で訪れた「サッカール」のように日本の居酒屋メニューに力を入れていたり
小林
そうなんですよ。一見どこもメニューがテンプレート化しているようでありつつ、個性の立った店もけっこうあります。あたりまえなんですが、結局は店主次第なんでしょうね
田嶋
カレーのメニューはそこまで差が出ないにしても、一品料理系のメニューに、店主の方向性が出やすい気がします

良いインネパ酒場は、メニューの“行間”から読み取れ!

小林
実はインネパ店のメニュー表には、その店がどんな方向性かを示す情報がいろいろ隠されています。たとえばインド料理ばかりがメニューに並ぶ中に、ぽつんとチョイラのような本格ネパール料理があれば、実はそういうメニューを作れるシェフがちゃんといて、頼めば他にもネパールつまみをいろいろ作ってくれるかもしれません
編集M
なるほど(笑)
小林
店名にもヒントがいろいろあります。たとえばインネパ店は「ナマステ」や「ヒマラヤ」「ガネーシャ」などのテンプレ化した単語を店名に付けることが多いのに対し、この店は“移住”の意味を持つ「ムグラン」という、他店では見られない独創的な名を付けています。その時点で、メニューも独創的で、ディープなネパールつまみを出す可能性が高いと考えられます
田嶋
店名やメニューの“行間”をも読み込むという。読書の“スローリーディング”にも通じるようで面白いです!
店頭
このメニューからも、いろいろな情報が読み取れる!?
店主
店主のスマンさん。Tシャツに刺繍された店名「muglan(ムグラン)」は、“移住者”や“外国人”の意を持つ。

話が盛り上がったところで、さらにつまみがもう1品到着。米を平たくつぶして乾燥させた“チウラ”とカレーがセットになった“マスチウラ”です。カレーはマトンをチョイス。マトンの旨味がしみ出たスパイシーカレーを、サクサクのチウラにかければ、至高のアテがまた一つ完成します。

マスチウラ
マスチウラ(マトン)750円。
編集M
これが普通の米だと、つまみとしては重すぎますが、軽やかなチウラと一緒に食べればちょうどいいつまみになります。もちろん、飲みの〆にもいいですね
田嶋
カレーは炭水化物と合わせてこそパーフェクトなおいしさになると常々思っています。だからこの、チウラと合わせる食べ方は、スパイスつまみとして一つの到達点ではないかと
小林
チウラはネパールだけでなく、“ポハ”などの名でインドでも広く食べられますが、日本ではあまり身近ではありません。ぜひこのすばらしさを、もっと知ってもらいたいです

次回は、さらにスパイスつまみを極めた“究極のインネパ居酒屋”を探訪します。

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

ムグラン
  • 【住所】東京都板橋区大山町24‐15
  • 【電話番号】03‐5926‐9977
  • 【営業時間】11:00~23:00
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】東武東上線「大山駅」より徒歩5分

文:田嶋章博 写真:小林真樹、田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。