松尾貴史さんは、お気に入りの町の一つ、恵比寿を散策中に気になる名前の蕎麦屋を見つけました。入ってみると「白いカレーうどん」というこれまた気になるメニューを発見。さてそのお味は?
若い頃住んでいた恵比寿には今でも親しみを感じていて、ここから代官山あたりを散策するのが好きだ。恵比寿は、そのめでたい地名から「さぞや昔から栄えていたのだろう」と思っていたが、実はビール会社の工場ができたことでその商標が駅名になったほど、他に何もない閑静な場所だったのだそうだ。うろつきつつ、「へえ、こんな店が」という発見が多いのも楽しみのひとつだ。
最近見つけて気になっていた「初代」という蕎麦屋がある。「初代」とは、二代目以降の時代になって初めて使われる言葉だと思うのだが、店名の由来を聞いてみたいところだ。
たまたま、いつもできている行列がなかったので、ふらりと入ってカウンターで汁蕎麦を食べていると、隣の客のもとへ白い物が入ったどんぶりが運ばれてきた。置かれている別メニューを見ると、どうやら白いカレーうどんらしい。ぬかった、知っていればそれを選んだのに、という未練を残して蕎麦を手繰り(といっても、蕎麦も美味かったが)、再訪することにした。
数日後、私の前にも白いカレーうどんが登場した。白く優しいうねりのようなものが表面を覆っている。その上にちらほらと点在するのは黒胡椒だろうか。箸を突き刺してまさぐってみれば、下からは弾力のあるうどんと共に馴染みのあるカレーの色合いが登場した。上の白いものは ジャガイモで仕立てられたムースのようで、出汁の味と馴染んでまろやかな口当たりが心地いい。
カレーうどんは真っ当なスパイスの風味で、それがうまく白いムースに絡んでバランスよく馴染む。ミルクでまろやかに仕上げる老舗のカレーうどん店もいいが、この形は新鮮だ。これから影響を受ける店も多いのではないだろうか。単なる「インスタグラム映え」ではなかったことにも納得。
うどんをたぐり終えたら、カットトマトとフライドオニオンが乗った小さめのご飯を投入して食べる説明があったが、残ったカレーのつゆが多めだったので、蓮華でご飯の方にかけていただくことにした。量の按配もよく、これはまた食べたくなる味わいだ。この近所を職場にしている人が羨ましくなった。
はたして、お店の方々は常に忙しそうなので、店名の由来を聞きそびれてしまった。
文・写真:松尾貴史