
演劇の稽古でよく訪れる北新宿に、お気に入りの店があるという松尾さん。小さな店だが、さまざまな名店で働いた経験を持つ店主が切り盛りしていて――。
北新宿に、「新宿村スタジオ」という、ダンスやミュージカル、その他の演劇の稽古でよく使われるスタジオ群がある。演劇関係の人間には馴染みの深い場所だ。
そこへ向かうべく、大久保・新大久保界隈からぶらぶらと小滝橋通りを越えて、中野坂上方面へ新宿税務署通りに出てすぐの一角を裏路地へ入ると、「Spice barモンカリー」がある。戸の取っ手を手前に引いてしまいそうになるが、スライドドアである。
機嫌のいい女性が一人で切り盛りしている店だ。寒い季節ということもあるのか、温かいルイボスティー(?)がグラスで出される。冷えた手にありがたい温度が伝わる。
初めての訪問時はメニューにある数種類のカレーのうち、ポークカレーをお願いすることにした。はたして、登場したポークカレーは、その精度の高さに思わず唸ってしまった。個性がありつつも素晴らしいバランスのスパイス使いにやられたのだ。これは癖になる、きっと近々再訪してしまう、という確信が湧く。
さつまいもやじゃがいもなどの根菜を賽の目にしたアチャールの助演賞は決まりだ。エノキのピクルスなる物にはもう、オリジンかどうかは知らねど、よくこんなものを作ってくれましたとしか言いようがない美味さ。トッピングでつけてもらった玉子のアチャールにはしっかりと味がついていて、おつまみにもなりそうな濃厚さで、それでいて黄身はとろとろの心地よさだ。
ライタも塩梅がよく、緻密に計算されていると実感。
そして、ラッサムがまたすこぶる私好みで、意外なとろみとコクがしっかりとあり、旨味も強い。「これは野菜から出る旨味がとろみになっているのですか」とおそるおそる聞けば、それよりもトマトペーストによるところが大きいと教えてくれた。勉強になるなあ。そして、そのとろみのおかげで冷めにくく、一石二鳥ではないか。
先ほどのルイボスティーが入っていたグラスが空いたところに、ポットの冷水を勝手に入れて飲めるのも無駄がなくていい。
聞けば、エリックサウスやアジャンタなどの名店で働いたり、アチャカナで間借りをしたりというプロセスを経て現在の地に落ち着いたそうだ。
ここに来るようになって数回目、たまたま土曜日だったのだが、その日のメニューは「北東インドのプレート」なるもので、美味い豚と発酵させた筍のカレーだった。筍を噛み締めるたびに幸せと期待感がやってくる。これはこの先、あちらこちらで流行るのではないだろうか。
さらに、スパイシーな納豆のアチャールが美味い。味付けを聞けば、塩とニンニク、唐辛子とマスタードオイルのみだという。やはりシンプルには敵わない。添えられたダルカレーと温野菜で時たま舌をリセットしつつ、腹がいっぱいになるのだった。
文・撮影:松尾貴史