うだるような暑い夏は、つるりと鯔背に蕎麦で涼をとりたいもの。そんな時、せいろやぶっかけに並んで激推ししたいのが“冷かけ蕎麦”。dancyu2021年9月号「夏は蕎麦。」特集、「楚々として冷かけ」では、ここ数年でバリエーションがグッと広がった、冷かけ蕎麦の世界を紹介しています。実は本誌で取材した店には、他にも食べ逃せない名物冷かけがあるんです!今回は「一杯の冷かけそば」。東銀座の直球の美味をご賞味ください。
具はなし、薬味もなし。その潔いビジュアルに、まずはっとする。冷かけの元祖といわれる一軒、「銀座 蕎麦 流石」の味を受け継ぎ、料理長の新井大琳さんが独自に磨き上げてきたのが、「sasuga琳」の“冷かけ”だ。
蕎麦とつゆのみで完結し、つゆを最後の一滴まで“飲み干せる”のがスタイル。蕎麦は細打ちの十割、つゆはその淡い風味を殺さぬよう、鰹節だけでひくだしがベースだ。飲み干した後に喉が渇かず、かつ冷たい状態で最初の一口から物足りなさを感じないつゆづくりは、針穴に糸を通すかのような仕事。昆布や塩気に頼ることなく、旨味を底上げするために、新井さんが考えた方法が二つ。
一つは、だしにわずかな味醂を加えること。もう一つは、つゆを真空状態にして味を“まとめる”こと。「十年、二十年経っても古びない形に、時代ごとの技法を尽くす。それが“暖簾を守る”仕事」と、新井さん。梅入りの大根おろしが別に添えてあるが、なくとも味は完結する。粗と見せかけて高貴、ベーシックにして究極の一杯なのだ。(本誌2021年9月号では“冷やしじゅんさい蕎麦”を紹介しています。ぜひ、ご覧ください)。
文:佐々木ケイ 写真:土居麻紀子