恵比寿にあるイタリアン「タクボ」では、薪で焼くからこそ味わえる羊の旨さが楽しめます。お好きなみなさんならご存じのように、羊はクサいとか、カタいとか、そんなのは昔の話。今や幅広いジャンルで、香り高く軽やかで、素晴らしくおいしい羊料理が食べられます。そんな羊がおいしい店をご紹介します!
カウンターに座ると、暖炉のような炎が見える。薪を燃やしている火だ。この店では、その熾火でメイン料理の肉を焼いている。
厚みのある骨付き仔羊を焼く時間は10分ちょっと。冷蔵庫から出した肉を常温に戻さず焼き始め、焼けた後も休ませない。今まで学んできた肉焼きの常識を覆す、独自の手法だ。
そうして出てきた肉にナイフを入れれば、表面はしっかりと焼き固められている。しかし、中は弾力があって想像以上にしっとり柔らかだ。口に入れると、脂身は良質なバターのようにミルキーで、肉の味を包み込む。優しく、きめ細かく、みずみずしくて、ああ、なんてピュアで美味しいんだろう……。
こんな味わいの羊の産地はどこなのかと、思わず田窪大祐シェフに問うと、ごく普通のオーストラリア産という。
「皆さん意外だとおっしゃいます。薪の効果で肉の印象が変わるんですよ」
聞けば、薪の熾火の火力は強く、肉の表面はカリッと焼ける。しかし炭と違い水分を含んだ火なので、中はしっとり火を通せる。短時間でグラマラスな焼き加減が実現されるのだ。そしてごく軽い燻香が、脂の臭みを消してミルキーさだけを感じさせてくれるそう。
恐るべき薪効果で、羊は最大限に可能性を開花させたのである。
文:浅妻千映子 写真:飯貝拓司
※この記事の内容はdancyu2018年6月号に掲載したものです。