カルパッチョの真実~すべての皿には物語が隠されている~
パテとテリーヌの違い、ご存知ですか?|カルパッチョの真実⑰

パテとテリーヌの違い、ご存知ですか?|カルパッチョの真実⑰

今回のお題“パテ&テリーヌ”には、一体どんな真実が隠されているのでしょうか?私達が一度は食べたことのある、あんな料理やこんな料理には、隠された物語があることをご存知でしょうか?“知る”ことで、同じ料理が明日からちょっと美味しくなる連載をお届けします。

パイ生地で包むか、型に詰めるか

パテ

ビストロの定番「パテ・ド・カンパーニュ」を頼むと、たいてい1cmくらいの厚さにスライスされた四角いハンバーグのような料理が運ばれてくる。フランス料理通が一緒にいたら、「これはパテではない。テリーヌだ」と言うかも知れない。「パテ」と「テリーヌ」はなかなかややこしいのだ。

本来、「パテ」と呼ぶなら生地で包んでいなくてはいけないものであった。パイ生地のことをフランス語でパート(pate)といい、パテという名はそこから来ているといわれている。金属製の型にパートを敷き、具を詰めて上をパートで覆って焼く。詰める具材として一般的なものは肉をペースト状にしたもの、あるいは刻んだものである。生地と具のバランス、肉の挽き方をはじめ、詰める肉を包むための脂の具合、合わせる内臓の量、香り付けのアルコールの加減、蒸し焼きの火の通し方など、パテはシェフの力量が問われる料理だと評される。

では「テリーヌ」はというと、ベースはほぼ同じだが「型」に詰めることがポイントで、テリーヌ型といわれる金属製、陶製、磁器製の型に詰めなければならない。詰める食材は、先の肉のほかに、サーモンなど魚のすり身を使ったり、野菜を詰めてつなぎのゼリーを流して冷やし固めた冷製のテリーヌもあったりする。

パテとテリーヌも型に入れて固めたものをスライスして出すという点で同じだが、テリーヌのほうが生地で包んで焼かない分だけ手間がかからず広まりやすかったのかも知れない。パテの定義を飲み込んでしまって、今は単にパテというと、たいていテリーヌのことを指し、本来のパイ包みスタイルは「パテ・アンクルート」と呼んで区別しているケースが多い。そして、テリーヌはずっとテリーヌなのだ。

ところで、同じビストロの定番料理でパテと名がつくものに「レバー・パテ」がある。これはパイ包みでも四角いハンバーグ状でもなく、なめらかなペースト状である。パテ、テリーヌ問題がさらにややこしくなってくるのだが、ペーストをパテと呼ぶ理由は、パテの語源を知ると納得できる。パテの語源はラテン語の「pasta」であり、これはペーストを意味する。字を見ればおわかりのように、イタリアのパスタの語源でもある。

ラテン語―日本語の辞書にはこう書いてある。
【pasta】糊・練り粉

要は、練り物をさす「pasta」が料理の現場では小麦粉を水で練ったものをさし、フランスやイタリアでパイ生地であったり、パスタであったりと、それぞれの国の料理にアレンジされていったわけだ。ちなみにこのパテ、料理だけではなく接合剤のこともそう呼ぶ。補修パテの語源もラテン語のpasta。ラテンな人たちは工事現場に飛び交う言葉も、なんとなくおいしそうなのである。

ちなみに
パテやテリーヌと似たような料理に「リエット」がある。「豚肉の塊」という意味のフランス語で、豚肉にラードと塩を加え、肉がホロホロになる状態までじっくり煮込み、容器に入れて固める。これをパンに塗って食べる。

著者

土田美登世 編集者・ライター

土田 美登世 編集者・ライター

興味を持つとがむしゃらに取材したがる食ライター。フォアグラはポワレよりもテリーヌが好き。

文:土田美登世 写真:加藤新作 料理:田中優子 参考文献/『新ラルース料理大事典』(同朋舎メディアプラン)、『ロマンス語語源辞典』(朝日出版社)

※この記事はdancyu2018年2月号に掲載したものです。