カルパッチョの真実~すべての皿には物語が隠されている~
シーザーサラダ発祥の地|カルパッチョの真実⑮

シーザーサラダ発祥の地|カルパッチョの真実⑮

今回のお題“シーザーサラダ”には、一体どんな真実が隠されているのでしょうか?私達が一度は食べたことのある、あんな料理やこんな料理には、隠された物語があることをご存知でしょうか?“知る”ことで、同じ料理が明日からちょっと美味しくなる連載をお届けします。

機転の利く男が生んだサラダ

シーザーサラダの名はローマ帝国の名将、あのジュリアス・シーザーに由来すると信じている人たちは少なくない。だがそれは間違いで、シーザー・カルディーニ氏という人物の名からきている。アメリカとの国境に位置するメキシコの町にある「シーザーズ・ブレイス」という店のオーナーだ。

1924年、アメリカの独立記念日である7月4日、その店には祝日を祝うために、大勢のアメリカ人の客が国境を越えて押し掛けた。時は禁酒法時代、アメリカでは飲めない酒がここでは飲めるということもあって、飲むわ、食うわの大騒ぎ。ついに店の食材がほとんどなくなってしまう。そこに残っていたのはレタス。シーザー氏は客席でサラダショーを演じてみせた。

ボウルににんにく、レモン汁、オリーブオイル、塩、胡椒、半熟卵の黄身だけを入れて混ぜ合わせ、隠し味にはウスターソースを少々。ゆるいマヨネーズのように程よく乳化したところに、冷やしておいたシャキシャキのレタスをちぎらずに入れ、おろしたばかりのパルミジャーノチーズを加えてさらに混ぜ合わせた。そこに、あらかじめカリッカリに焼いておいたにんにく風味の大きめのクルトンを添えた。

元祖シーザーサラダは、ロメインレタスでつくられたので、白い茎を外側に向けるように盛りつけた。手でつまんでフィンガーフードのように食べられ、パーティーにも映えるサラダ、その名もシーザー・カルディーニのサラダ「シーザーサラダ」の出来上がりというわけだ。

ハリウッドが近いこともあって、大物俳優たちがこのサラダのためだけに訪れるようになるほど大人気に。その後、世界中に知られることとなる。

シーザーサラダといえば、まずはレタスとクルトンという認識は正しい。アンチョビの有無に関しては諸説あるようだが、カリカリベーコンはオリジナルには入っていない。そして客の目の前で調理するのが本来のやり方だ。

日本では、結球タイプの玉レタスがポピュラーだが、元祖シーザーサラダは結球しないロメインレタスを使う。

ところで、このロメインレタスのような細長いレタスは、古代エジプト時代から壁画に描かれ、神話にも出てくる。その神話ではレタスは滋養強壮、ならびに精力増強の薬草とされている。セトという軍神(頭がワニみたいで体は人間)はレタスが大好物で自分でも育て、毎日食べていたそうだ。その流れはローマ帝国時代にも受け継がれ、ローマ兵は宿営地にレタスの種を蒔いて食用にしていた。だから歴史研究家は、ローマ軍の進軍ルートを探すときは野生化したレタスが生えているところを探すという。

この話を知ると、やっぱりシーザーサラダはジュリアス・シーザーに由来すると思いたくなるのはわかる。

甘鯛の若狭焼
ちなみに
シーザーサラダが日本に伝わったのは1949年とされる。戦後、進駐軍の将校用宿舎としてアメリカに接収されていた帝国ホテルでのクリスマスパーティーでつくられたものが最初だという。また、日本ではキユーピーが日本記念日協会を通して7月4日を「シーザーサラダの日」と制定した。

著者

土田美登世 編集者・ライター

土田 美登世 編集者・ライター

ねちっこい取材をウリにする食ライター。イタリアで「サラーダ」と言って注文。「インサラータ」と訂正されて恥をかく。

文:土田美登世 写真:加藤新作 料理:田中優子 参考資料/杉 勇・屋形禎亮共訳『エジプト神話集成』(ちくま学芸文庫)、FOOD HISTORY

※この記事はdancyu2017年9月号に掲載したものです。