明日、どこに食べに行こう?
揚げ方が最高!「のもと家」|個性が光る東京のとんかつ①

揚げ方が最高!「のもと家」|個性が光る東京のとんかつ①

午後に備えるランチタイムに、仕事上がりの労いに、いいことがあったときのご褒美に。旨いとんかつ店を知っていれば、人生は最高になる。東京・大門にある「のもと家」は、ほかでは見たことがないほどサクッと立った衣に包まれた、ジューシーなとんかつが食べられるお店です。

とんかつの変態!いや、天才がいます

「おっ、今日は良い顔してるな」。店主の岩井三さん、厨房で肉とひたすら会話中。「脂のコクが飛び抜けて旨い。こんなとびきりいい肉を扱えて幸せです」と鹿児島産六白黒豚にとことん惚れ込み、電話番号も「6809(ロッパク)」(笑)。うん……この人、変態だな(注:褒め言葉です)。

看板は特選ロースかつ定食160g。理想は“薄くてサクサクの衣”。淡いきつね色、ピンと立った美しい衣が軽やかで心地よい食感を生む。上品で華やかな香り、柔らかな脂をむぎゅっと噛みしめる快感。噛むほどに濃い旨味がわき出る。脂の主張はしっかりあるのに、喉の奥にするする吸い込まれていく不思議。自分史上最高の“ご褒美とんかつ”に、思わず目を閉じた。

とんかつ
「特選ロースかつ定食(160g)」ご飯、漬物、小鉢、黒豚の豚汁が付いて2,300円。六白黒豚の持ち味を感じるべく、まずはそのままでどうぞ。豊かな香り、品のあるコクにたちまち夢中になるはず。

唯一無二の美味しさの理由は数限りない。揚げ油は昼なら軽めに、夜なら食べごたえがあるように種のラードの配合を適宜変える。肉をふわりと包む生パン粉は、しっとり感をキープするため挽き目を指定、肉の甘さを引き立てるよう糖度を下げた特注品だ。愛しの六白黒豚160gは肩に近いリブロースを採用し、くどさは感じず、肉と脂の絶妙なバランスを堪能できる厚さになるよう心を砕く。揚げ油と客の顔をつぶさに見ながら、配膳に要する2分を計算して調理するのは当たり前。「鍋の中から肉が『もっと美味しさの精度を上げろ!』って指示してくるんです」(思いっきり真剣な目で)。その深い愛ゆえに、“良い顔”の肉をどんどん提供する。納得する肉が手に入らない日には店を閉めたこともある。「肉だけは絶対に嘘つきたくないから」。豚肉にどこまでも誠実なのだ。

六白黒豚
肉と脂のバランスが程よいリブロ ースは、艶やかな桜色。藻塩と白胡椒をふって半日ねかせ旨味をじ っくり引き出す。

美味しいとんかつのための工夫はまだまだある。藻塩と海塩のブレンド塩、茎わさびと鹿児島醤油、肉の旨味を殺さないよう酸味を抑えた自家製ソースなど、六白黒豚のポテンシャルを目いっぱい楽しめる仕様。さらに脇役も盤石の布陣で、具だくさんの黒豚豚汁も鹿児島で精米する艶々の白米も自家製漬物もハッとする美味しさ。まさに全方位隙なし、お見事。「目指すは“とんかつ定食の水戸黄門”(笑)。素晴らしく良くできた一話完結のとんかつ定食で、同世代の中高年に元気になってもらいたい。年を重ねても楽しめるメニューを考えて、とんかつと一緒に年を取っていきたいです」。とんかつの変態、もとい天才の目は輝いていた。

とんかつ
塩、茎わさびと醤油、ソースなど楽しみ方無限大。
店主の岩井三博(みつひろ)さん。
「衣が立っているでしょ!?」と店主の岩井三博(みつひろ)さん。

ここに技あり!

生パン粉
軽やかな食感は、しっとりとした特注生パン粉が決め手。
揚げ油
揚げ油はラードに、温度上昇が早い油と、コクと香りのある油をブレンドする。サクサク感を残すため、油の中で衣が寝ないよう絶えずガスの火を調整し、こまやかに気を配る。
店内
2014年6月開店。予約不可のため早めの来店がベター。

店舗情報店舗情報

のもと家
  • 【住所】東京都港区芝公園2-3-7 玉川ビル2階
  • 【電話番号】03-6809-1529
  • 【営業時間】11:30~14:00(L.O.) 17:30~20:00 (L.O.) (売り切れ仕舞い)
  • 【定休日】水曜と土曜の夜、日曜、祝日
  • 【アクセス】都営線「大門駅」、JR「浜松町駅」より各3分

文:森本亮子 写真:本野克佳

※この記事の内容はdancyu2018年10月号に掲載したものです。

森本 亮子

森本 亮子 (編集者・ライター)

1980年兵庫生まれ、東京・錦糸町界隈に生息。出版社の雑誌編集を経てフリー9年目。肉(偏愛部位はハラミとクリ)、酒、下町酒場、イタリア、盆栽が好き。