料理人やスタッフの元気の源まかない。東京・六本木にあるイタリアン「オステリア・ナカムラ」のまかないは、2020年4月から仲間に加わった新人の実践の場。ときに愛のある檄が飛ぶ厨房を覗いてみました。
週のうち、4、5回。大半のまかないを作るのは、前本健太朗さんだ。この4月から社会人。初めての職場「オステリア・ナカムラ」にやってきた、正真正銘の新人である。
「4月に入ったと言っても、コロナの影響ですぐに店は休業に。5月後半に再開するまでお休みだったから、本当にまだ仕事を始めたばかりなんですよ」
とマダムの中村幸子さんが言う。
たとえば、卵が固まりきって形の整わないオムライス。そんな初々しい、絵に描いたような新人が作ったまかないを、ときどき中村直行シェフが写真に撮ってフェイスブックにアップする。すると常連さんから笑いや励ましの言葉が届く、といった具合なのだが、さてその進歩やいかに。
「今日のメニューは、鶏胸肉のサラダと目玉焼きのパスタです」
張り切って、まずはサラダにとりかかる前本クン。仕込み中に仕込んだという鶏胸肉は、沸騰させない湯の中でゆっくりと火を通したという。薄切りにして、きれいにお皿に並べる。
「ほーらほら、もっとスピーディーに」
シェフとマダムが横でじっと見ている。もちろん、そこにあるのは、厳しくも愛情に満ちた眼差しだ。
ルッコラは、オリーブオイルと赤ワインビネガー、塩、胡椒というシンプルな配合の店のドレッシングであえる。鶏と同じお皿に盛れば一品完成。
次はパスタだ。スパゲティを茹でている間に、目玉焼きの準備。大きなフライパンで6ついっぺんに焼く。茹で汁を入れ、キッチンタイマーをかけて30秒だけ蓋をするなど、かなり神経を使って焼いている。その後も適宜茹で汁を加え、しっとりと仕上げることに懸命である。
6つのうち3つをお皿に取り分け、残りを崩しながら茹で上がったパスタを入れ、オリーブオイルとパルミジャーノチーズと共にフライパンを振りながらあえるのだが、フライパンが重そうで、若干苦戦。
「まだ腰を使えないんです。腕だけで振るからかなり辛いんだと思う。じきにできるようになるはず」
とマダム。出来上がったまかないは3人揃ってカウンターで横並びになって食べるのがお約束だ。
3度目の挑戦というこのパスタ。
「初回のは卵がガチガチで、“う~、喉に詰まる~、私たちを殺す気か~”って思いましたよ笑」
とマダム。
「今日のは卵の塩梅がいい」
とシェフ。
「こんなのがささっと作れたら、女の子にモテるわよ」
マダムとシェフが言い合う。どうやら合格。前本クンも満足そうに食べている。
「鶏はもう少し塩。でもしっとりはできている。最後に黒胡椒も欲しい。レモンやビネガーがあってもいいんじゃない?」
そんなことを言い合いながら、メキメキと音を立てるように成長を感じられるまかないを、楽しそうに食べる3人であった。
文:浅妻千映子 写真:青谷慶