新連載「スペシャリテとまかない」の第二回目はレストランのまかないを覗き見します。シェフやスタッフの胃袋を支えるレストランのまかないってどんな料理か気になりますよね?渋谷のイタリア料理店「トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ」のまかないは12人前!ざっくりと、でも丁寧に手際よく出来上がるまかないのお話を聞きました。
ドンチッチョのまかないは、キッチン5人、ホール6人にシェフを入れた12人が、青空のもと外のテーブルで揃って食べる。まるでお誕生会のようだ。もちろん、全体を眺められる誕生日席に座るのは石川勉シェフ。「ボナペティート」の号令をかけてスタートする。
パスタと、野菜のつけ合わせのついたメインという2皿構成が常である。まずはパスタが運ばれる。それが終わるとメインの皿が運ばれるという、きちんとしたコース形式なのだから驚く。しかも、客に出すのと変わりなく美しく盛りつけた皿が出てくるのだ。石川シェフが言う。
「サーブするのはサービス担当者。うちのまかないは、全ての練習を兼ねているんです。料理を均等に取り分け、きれいに盛りつけること、きちんとワインを注ぐこと。ワインボトルに入っているのは、実は水です。でも、ワインと思って、ワイングラスにきちんと注がせています」
その日のまかない担当者は大変だ。パスタを誰よりも早く食べ終え、厨房へと走る。肉を切って大皿にのせて運び、サービスに手渡す。サービスはそれを手早く盛りつける。パスタとメインの間にあまり長くみんなを待たせてはいけないし、火入れがきちんとしていなければ、容赦なくシェフからお咎めの言葉がある。そもそも、12人分のパスタを一つの巨大なフライパンで作ること自体が重労働である。いろいろな意味で「鍛えられるまかない」である。
まかないは交代で作るが、仕切っているのは杉山卓也さんだ。
「12人いるので、残り物だけで作ることはなく、決まった予算内でメニューを決めて、まかない用に食材を仕入れています。最初は大変でしたが、これをやって5、6年。慣れてきました。パスタがトマトソースの日が多いのは、シェフの好物だからです笑」
ちなみに前日は、お誕生日のスタッフが一人いて、スプマンテを開けたそうだ。南イタリアを感じさせるまかない時間は、とても楽しそう。店の賑わいと重なって見える。
文:浅妻千映子 写真:青谷 慶