今まで通りとはいかないけれど、ちょっと外で呑みたい気分の日、ありますよね?東京・恵比寿にある「きたぽん酒」は、おおらかな店主が迎えてくれる日本酒酒場です。ゆるりと呑みたい気分のときに、ぜひ立ち寄ってみてください。
カウンターのみ8席。現代の“方丈”と呼べそうな小さな空間が、日本酒熱で上気している。壁面の冷蔵庫いっぱい、頭上の棚にも一升瓶がびっしり。その数、実に500本以上。作家ものの酒器コレクション。カウンターの天板は吉野杉。「酒造りと一番関係の深い木材なので」というのが、その理由。愛だけじゃない。リスペクトがある。
この日本酒密度の濃さに浸りながら飲む燗酒が、また格別だ。店主の北尾秀仁さんが料理に合う酒を選び、50℃、60℃、90℃の台の酒燗器を器用に操りながら、燗をつけてくれる。
スペシャリテは、熟成の旨味がのった生ハムの盛り合わせ。イタリア製のスライサーでフワフワの極薄切りにしたグアンチャーレ(豚頬肉の塩漬け)を一片、ひらりとつまんで口に入れ熱めの燗酒を啜る。じゅんわり溶け出す脂の甘さ。燗をまた一口。止まらない無言のループ。「この相性を伝えたくて店を開いたようなもの」という北尾さんの言葉にうなずくばかり。
生ハムを含む料理4品、酒約2合の“おまかせ”は、6600円。またはアラカルトでも、どちらにしても幸せな夜が待っている。
文:堀越典子 写真:平松唯加子
※この記事の内容はdancyu2019年7月号に掲載したものです。