「オステリア ジョイア」の畑とワインのこと。
なぜ「オステリア ジョイア」のワインリストには銘柄が記されていないのか。

なぜ「オステリア ジョイア」のワインリストには銘柄が記されていないのか。

鎌倉にあるイタリアン「オステリア ジョイア」のオーナーは農夫でもある。毎朝、自身の畑で野菜を収穫している。店に入れば、料理とのペアリングを提案するワインソムリエへと姿を変える。

決まりがないから新しいことにチャレンジできる。

「オステリア ジョイア」オーナーの飯田博之さんは高校卒業と同時に、ホテルオークラ出身の支配人とシェフが営むフレンチレストランに入店する。厨房に配属されたが、勉強のためにと支配人が薦めてくれたワインに興味を覚えて、早々にホール担当に転向した。
その後、ワインインポーターが営むフレンチレストランに移り、ホール業務だけでなく、ワインの買い付けも任されて、何度も渡仏した。

飯田博之さん
「オステリア ジョイア 」オーナーソムリエの飯田博之さんは1959年生まれ。店で出す野菜はすべて自身の畑で収穫したものだ。

26歳のとき、フランス滞在中に足を伸ばして訪れたイタリアで転機が訪れる。
「接してくれたイタリア人が、みんなフレンドリーで明るかったのを覚えています。料理やワインもシンプルだけど説得力のある魅力があって、だんだん惹かれていきました」
その経験がキッカケで、「イタリア好き」に改宗。
知れば知るほどイタリアのものは自分の肌に合っているように思え、日を追うごとにのめり込んでいった。
現地で知り合ったワイナリーで働かせてもらったこともある。知らないぶどう品種に出会うたび、心が震えた。

料理
素朴だが食材の魅力を活かしきるイタリア料理に飯田さんは感銘を受けた。

28歳でソムリエ資格を取得。
イタリアの文化は適当なところがあるんです。完璧さを求めてはいません。そのデタラメさ加減が余裕を生んでいるんだと思います。『ジョイア』も、イタリアのように大らかな店でありたいですね」
「オステリア ジョイア」の完璧ではないところはどこかと、飯田さんに尋ねると「完璧ではないところだらけ」という答えが返ってきた。
30年続けてきた野菜づくりは、新しい栽培法や珍しい品種があれば、それに合わせて畑仕事を変えてきたそうだ。
もちろん、失敗することもある。毎年、試行錯誤の連続だ。
「僕は決めごとが嫌いなんです。同じことをするよりも、いろいろなことにチャレンジして新しい結果と出会えるほうが面白いし、嬉しい。イタリア人っていい加減なんだけど、些細なことに熱い情熱を傾けるところもあって、そんなところに親近感を覚えたのかもしれないです」

ソムリエバッヂ
ワインソムリエ歴は37年。料理とのペアリングを意識して知識を蓄えてきた。

飯田さんのポリシーが色濃く反映されているのがワインリストだ。なんと銘柄がいっさい書かれていないのだ。

名前のないワインリスト。

飯田さんのポリシーが色濃く反映されているのが、ワインリストだ。なんと銘柄がいっさい書かれていないのだ。

「ジョイア」のワインリストには、価格帯と「キリッとしたシャープな味わい」や「自然派タイプ」「しっかりとした味わい上質なタイプ」といった味わいのカテゴリーしか記されていない。

ワインリスト
細かにジャンル分けしたワインリスト。銘柄は流動的に変化するので記載していないそうだ。

客はワインリストにあるカテゴリーの中から好みのタイプを選ぶ。それを聞いた飯田さんは、ふだん飲んでいるワインの銘柄や好みを尋ねる。
「お客様によって話しかける言葉が違います。会話をしながら、こんなワインが好きなのかなぁと想像して、お客様が選んだ価格の中から愉しく飲んでいただけそうなワインを提案しています」

ワイン
好みを伝えると、3種類ほどの銘柄を提案してくれる。

「ジョイア」では約200種類のワインを常時ストックしている。市場には出回りにくい、少量製造のワインを中心にインポーターへオーダーしているそうだ。その中から客が頼んだ料理との相性を考慮しながら、ソムリエの知識を巡らせる。
畑の野菜を使った料理とのペアリングを愉しませてもらうことにした。料理はディナーメニューの中から選んだ。

前菜の盛り合わせ
「前菜の盛り合わせ」1,600円。

前菜の盛り合わせをオーダー。「トリッパと畑の野菜の煮込み」「カリフローレと3種類のチーズのオーブン焼き」「葉物のサラダ 自家製鶏ハム」が盛られた皿がテーブルに運ばれてきた。
ワインは「1000円以内で、あまり辛くない白ワイン」と伝えた。

ワインラベル
トスカーナにあるワイナリー「テヌータ・ディ・ビッビアーノ」の「リストリチェ2017」。

飯田さんが選んだワインをひと口飲むと、口内にピリッとした刺激が走る。
「ワインだけを飲むとキレキレの辛口です。3種類のチーズと一緒に焼いたカリフローレを食べながらワインを飲んでみてください」
飯田さんにすすめられ、カリフローレを口に運ぶ。
「チーズを使った料理を食べるとワインが甘く感じられるので、あえて辛口の白ワインを合わせてもらうことにしました。3つの前菜にこのワインを合わせると、料理にもワインにも深みが出ると思います」

ソムリエの手
午前中は野菜を収穫していた手は、すっかりソムリエのそれになっていた。

今度はブロッコリー、あやめ雪蕪、ロマネスコと一緒に煮込んだトリッパにワインを合わせてみた。単体で飲むと辛口の白ワインが、摩訶不思議、まろやかになり、料理にも深みが感じられた。
「ペアリングの愉しさをお客様に知ってほしいんです。なのであえて希望されたカテゴリーと反対のワインを選ぶこともあります」

「オステリア ジョイア」外観
JR「鎌倉駅」から伸びる線路沿いに佇む「オステリア ジョイア」。
「オステリア ジョイア」店内
テーブル席は6つ。暖かい日はテラス席も利用できる。

――つづく。

店舗情報店舗情報

オステリア ジョイア
  • 【住所】神奈川県鎌倉市御成町13‐40ヒラソル鎌倉1A
  • 【電話番号】0467‐24‐6623
  • 【営業時間】11:30~14:30(L.O.)、18:00~21:30(L.O.)
  • 【定休日】水曜、第2・第3火曜
  • 【アクセス】JR・江ノ島電鉄「鎌倉駅」より3分

文:中島茂信 写真:湯浅亨