ボルドーワインがサステナビリティに挑戦する理由。
ワイン造りと地球の未来。

ワイン造りと地球の未来。

サステナビリティは、近年様々な分野で注目されている仕組みのひとつ。ワイン造りでも未来への持続可能な道を模索している。ぶどう畑を自分たちの子供、孫に受け継いでいけるかという問題に挑戦するボルドーのこと。

果たしてなにから始めればいいのか。

あるワイン生産者が自らも持続可能な農業に挑戦してみたい、と望んだとする。
化学合成農薬は使い続けたり、取り扱いをまちがえれば、畑が活力を失うだけでなく生産者自身もまた病気や事故に見舞われるリスクがある。よく知られているとおり、一部の化学合成農薬はべトナム戦争で使用された枯葉剤がもとになっている。
さらに自分の子供や地球の未来を考えたとき、少しずつでもいいから、やれることからやってみたいと望む人は、ワイン生産者のなかにも決して少なくないだろう。
その瞬間、ひとつの壁が出現する。持続可能な農業のためには、果たしてなにから始めればいいのか、と。

ぶどう畑を次の世代へ受け継ぐために、ワイン造りの現場は変わりつつある。

大量生産、大量消費の幕開けとともに、化学合成された農薬や肥料が盛んに使われ始めたのは、20世紀中頃のこと。それは当初、農家にとっては魔法のひと振りに等しかったと言われる。あれほど格闘した雑草や害虫が、またたく間に姿を消す。肥料を与えれば、ぶどうは見事なまでのたわわな実をつける。
けれどそれが、実はぶどうの生命力そのものを根本的に衰弱させる結末を招くことになろうとは、当時の人々は誰も予想できなかった。

ボルドーでは伝統的に225Lの樽「バリック」で醸造が行われている。

現在のワイン生産者は、すでにもの心ついたときから、化学合成農薬や肥料があたり前に使われていた世代。それゆえ、いざやめたいと思ってもどうやってぶどう栽培をすればいいのか、その手法がわからずに、はたと立往生してしまうのだ。
そういった生産者たちに向けて、2010年にボルドーワイン委員会がまず立ち上げたのは、環境への取り組みを支援するSME(Systeme de Management Environnemental)という組織だった。
そのSMEの指導のもと、生産者は殺虫剤の使用量、温室効果ガスの排出量、水の消費量、廃棄物の削減などに取り組んでいく。そうして変換プロセスが順調に進むと、生産者はやがてHVE(Haute Valeur Environnemental) というフランス農業・食料省の環境認証を取得することができる。これはぶどうにかぎらず、農作物全体に与えられるものだ。

HVEを取得しているシャトー・ジョバントの畑。下草を生やし、水の使用量や温室効果ガス排出の削減などに取り組む。

ワイン造りとサステナビリティ。

HVEの認証を持つ、ボルドーのシャトー・ジョバントの栽培醸造責任者はこう話した。
「HVEはレベルが1~3まであります。取り組むべき項目リストがあって、それをクリアすると加点される仕組みです。畑を一気にビオにすると多くのリスクが伴います。でも、サステイナビリティのプロセスを踏むことで、いつかビオを始めるためのステップにもなるし、環境にも配慮できる。HVEに取り組むと、国の行政機関から補助金が出るのも生産者にとってはありがたいですね」 さらには、ボルドーは国際的な環境マネジメント認証「ISO14001」にも積極的だ。よく知られている通り、これは農業だけではなくあらゆる企業や組織も習得することができる。
ボルドーではSMEそのものがISO認証を受けているので、たとえば各ワイン生産者が認証を受けたいと望んだときには、一般の手続きより費用や手間が大幅に省略されるという。
なんてシステマティックなんだろう。思わず嘆息する。ワイン生産者はきわめて現実的に、少しずつ、持続可能なワイン造りへのステップを踏んでいくことができるのだ。

シャトー・ジョバントの収穫風景。HVEの取り組みをすることでぶどうの質も年々上がっているという。

そういった組織的な取り組みについて、ボルドーワイン委員会・国際広報のセシル・アさんは話す。
「ボルドーは世界的に有名なワイン産地です。そしてフランスワインのAOC栽培面積の1/4を占める地でもあります。私たちはそれに対する誇りと責任を持っています。だからボルドーが世界のワイン市場でサステイナビリティを主導していくべきだと考えたのです」
その目配りは、ワインの消費者へもきっちり行き届いている。
「いまの消費者は環境問題に敏感です。なかでも20~30代の若者たちは持続可能性に高い関心を持っている。そういった消費者感覚とも、ボルドーは意識を共有していきたいと考えています」
確かに、サステイナビリティはワインに限らず、ファッションなどさまざまな分野でいま、もっとも注視を浴びる仕組みのひとつと言える。広く環境や社会といった観点から世のなか全体を持続可能にしていくという考えが、ワイン造りの現場にも到来し始めた。

ボルドーワイン委員会の国際広報セシルさん。ボルドーの現状とサステナビリティについて説明があった。

ーーつづく。

文:鳥海美奈子 写真:Mathieu Anglada

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鳥海美奈子(ライター)

ノンフィクション作品の共著にガン終末期を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』(集英社)がある。2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在、文化や風土、生産者の人物像とからめたワイン記事を執筆。著書に『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)。雑誌『サライ』(小学館)のWEBにて「日本ワイン生産者の肖像」を連載中。陽より陰のワインを好みがち。