大竹聡さんの「20代に教えたい」酒場案内。
創業120余年。至宝の鳥すきやき。|東京・神田「ぼたん」(後編)

創業120余年。至宝の鳥すきやき。|東京・神田「ぼたん」(後編)

圧倒的な風情が漂う空間で、鳥すきやきを堪能します。ムネやモモ、レバーに砂肝。鳥のいろんな部位を味わったら、今度はツクネを。味が濃くて旨いったら。そして〆は鳥の旨味がしみ出た汁をご飯にかけて。お酒も料理も究極のシンプルさ。その潔さも素晴らしく、足を運ぶごとに「ぼたん」が好きになってしまいます。

櫻正宗と鳥すきやきが合いますなア。

冷たいビールは、あっという間に2本がなくなる。
さて、何にしよう。
酒のことはオータケに任せると八っつぁん、お由美さんがそう言うので、燗酒にしてもらう。

櫻正宗

銘柄は櫻正宗。
ちょっと甘めの日本酒ですが、なるほど、鳥すきにきりりと辛い端麗な味わいを合わせても、両者の強弱の塩梅はかえって難しくなるかもしれない。
そこへいくと、甘辛の割り下には、やはりマイルドで甘い口当たりの燗を合わせるのは、なかなか、うまい方法なのかもしれません。

しかも、こちらの「櫻政宗」は本醸造で造りが丁寧だ。

「ああ、これは、いい感じだねえ」
「合いますなア、この酒は」
「あっという間の徳利1本。お由美さん、追加をしておくれでないかい」
「あい、ただいま」

ってな感じですぐさま2本を空にして、さらに2本、という具合になってしまう。

炭火の鳥すきやきは、ぼさっとしていられないのだ。

その間も熱鍋は備長炭の火に熱せられ、鳥と野菜は煮える割り下に浮かんで、箸でつままれるのを今か今かと待っている。
ガスや電気ではないし、焼肉屋さんの小窓のついた七輪とも違うので、温度の調節は、薄めの割り下を追加して塩梅を見るしかない。
つまり、あまり、ぼさっとしていられないわけだが、そこがまた楽しいところで、

「あい、煮えましたよ」
「ほいほい」
「あい、シラタキもとってくださいな」
「あら、ほいほい」

という具合に、喰うそばから煮えていく鍋の中身をテンポよくいただくのです。
もちろん酒のテンポもそれに合わせるわけですが、こっちのほうは、そう急ぐこともない。お猪口に注いだり注がれたり。

「まま、ぐっと」
「おっと、ありがとさん、では、お返しに」
「っとっとっとっと、ぷはー、うまい!」

実に楽しいのです。

こいつぁうめえツクネだねえ。〆はご飯に残ったつゆと鳥肉をのせて。

肉をあらかた投入した後から、ツクネを入れます。これまた見るからに新鮮そうな、--変ないい方になりますが、ピカピカのつくねでして――、ひな鳥でなくて、少し成長した鶏の肉を使ったツクネだそうですが、口に入れてびっくりした。

味わいが、濃いんですよ、味わいが。
こいつぁうめえツクネだねえ、と、思わずため息が出たくらいのものです。

食感も、摺りすぎてねっとりしているのとは逆で、むしろ少し粗目の印象を残し、その粗い襞の隙間に忍び込んだ割り下が、口の中でツクネを噛む瞬間にじわっと口中に広がる。

明治の創業期から変わらぬやり方で供する鳥すきだから、ツクネのうまさにも言葉を尽くしたいところだが、私の頭を支配しているのは、ただの一語。

たまらんなァ……。

これだけ。

鍋もあらかた平らげたら、最後はご飯。
残りの肉と野菜を玉子に絡めて白飯にのせて掻っ込む。
これがひとつ。もうひとつは、割り下の残る鍋に白飯を投入してから玉子とじにする、究極のおじや風。いずれを選ぶも自由だが、いずれにしても、炊き立ての白飯と香の物のうまさがまた格別なることを、最後にひと言、申し添えておきましょう。

神田須田町の「ぼたん」。
この冬、寒い間にぜひ、訪れてみていただきたい1軒です。

――東京・神田「ぼたん」(後編) 了

店舗情報店舗情報

ぼたん
  • 【住所】東京都千代田区神田須田町1-15
  • 【電話番号】03‐3251-0577
  • 【営業時間】11:30~20:00(最終入店)
  • 【定休日】日曜、祝日(8月は2週間休業あり)、2019年12月31日~2020年1月5日休
  • 【アクセス】都営地下鉄「小川町駅」・東京メトロ「淡路町駅」より3分

文:大竹聡 イラスト:信濃八太郎

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大竹 聡(ライター・作家)

1963年東京の西郊の生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告会社、編集プロダクション勤務を経てフリーに。コアな酒呑みファンを持つ雑誌『酒とつまみ』初代編集長。おもな著書に『最高の日本酒 関東厳選ちどりあし酒蔵めぐり』(双葉社)、『新幹線各駅停車 こだま酒場紀行』(ウェッジ)など多数。近著に『酔っぱらいに贈る言葉』(筑摩書房)が刊行。