寒さが厳しくなってくるこの季節は、ぜひ鴨南蛮を食べて温まっていただきたい。鴨、つゆ、蕎麦のバランスが絶妙な名店を2軒紹介します。まずは、東京・大森町の「もりいろ」から。
この鴨南蛮はどこまでも美しい。見事なロゼ色の鴨の抱き身に、鴨脂でこんがりと炒めた深谷ねぎ。そこに緑の九条ねぎが覆い、黄蘗(きはだ)色の柚子皮が香る。
瞬間、見惚れた後、熱々のつゆに浸った蕎麦を一気に手繰る。キリリと澄んだ味。鴨のコクが加わった、淡い色のかけつゆの奥から、日替わり産地の蕎麦の香りが顔を出す。ここで傍らの日本酒をクイッ。ああ、全身にしみわたる……。
蕎麦、2種のねぎ、精妙な火入れの鴨は幸せな出会いの取り合わせ。ズッ、シャクッ、ジュワァッをひたすら繰り返す。うっすらと鴨の脂の浮いた金色のかけつゆは、ぬるくなるほどに味わいが膨らむ。途中でふった黒七味の香りは極彩色でなんと華やかなことか。
いつまでも飲んでいたい。酒の話ではない。鴨の風味が香るつゆの話である。
文:松浦達也 写真:土居麻紀子
*この記事の内容は2018年2月号に掲載したものです。