花街の風情をとどめる新潟県新潟市の繁華街、古町(ふるまち)。しんしんと冷え込む北陸の冬は、五臓六腑にその温かさがしみわたる燗酒とうまい肴から夜を始めたい。酒処・新潟といえども、これから訪れる居酒屋は地酒は少なめ。それでも地元の常連が連夜足を運んでくる。その理由はいかに?
新潟を象徴する繁華街といえば古町というのがかつての定番だった。
しかし、最近は大型店の閉鎖が続くなどして、新潟駅周辺に人が流れるようになり、夜のお客さんもめっきり少なくなった。それでも古町周辺には新潟らしく個性的で、こだわりがあるお店も多い。
なかでも、少し奥まったところにある古町9番町周辺はかつての花街の姿をとどめていて、新潟市内でも一番雰囲気のある繁華街といっていい。古町芸妓さんの姿を見掛けることもあり、「9番町で飲むのはちょっと緊張しますね」という若手もいる。
たまに顔を出す「吟」という居酒屋さんは少し前に、大通り(柾谷小路)に近い7番町付近から9番町周辺にお店を移した。
まず、お酒に一家言がある。
新潟の居酒屋といえば、ほとんどのお店が地酒メインだが、このお店には新潟の酒がほとんどない(冷酒用に2品種ほどはある)。
そういえばdancyuさんも以前は新潟の酒をちっとも評価してくれなかったなぁ。
県外産の純米酒を、原則としてお燗で頂戴する。
冷酒を頼んだりすると店長に(ちょっとだけ)嫌な顔をされる。
どれも選び抜かれた、個性的なお酒である。私なぞは新潟以外の銘柄は全然知らないから、チョイスはすべてお任せ。料理に合うお酒、ときにはメニューにないお酒も出てくる。
カウンターだと盃台(おちょこを載せるための陶器の台)が付いてきて、雰囲気を盛り上げる。
「吟」といえばなんといっても〆のそば(〆でなくてもよいのだが)。
ただし、「吟にそばを食べに行く」と言ってはならない。「吟」のそばが旨いのは公然の秘密なのである。
あくまで、お酒をおいしくいただくためにそばを食べるのである。
酒を注文せずにそばだけ注文し、店長に追い出されたという都市伝説もある(事実らしい)。
新潟のそばというと、魚沼周辺が発祥の「へぎそば」が知られているが、こちらのそばは「ふのり」を使ったへぎそばではない。
お隣の福島県西会津の山都産のそばを使用した手打ちで、淡い色合いの上品な風情である。
辛味大根で食べる高遠そばもいい。
実は店主のご実家が、かつて新潟市内の別の場所でそば屋さんをやっていて、そちらにもときどきお世話になっていた。
お料理はだし巻き玉子やそばを使った定番料理のほか、旬の食材を生かしたメニューがある。
お酒は県外勢でも、食材は佐渡の魚など地のものなので、県外からの人でも新潟を十分に味わえる。
おいしいそばをいただきに……、おっと、おいしいお酒を楽しみに訪ねてみてほしい。
――「新潟の酒場」出口篇につづく。
文:鶴間 尚 写真:大森克己