酒場の入口、酒場の出口。
新潟の「ソクラテス」は、本当は怖い大衆酒場?

新潟の「ソクラテス」は、本当は怖い大衆酒場?

新潟の花柳街・古町でそばと燗酒を満喫し、店を後にする頃には、ほろ酔い、鼻歌、ちどり足。向かうは、レトロな歓楽街「駅前楽天地」。小路に灯る電飾看板は心嬉しき誘蛾灯。今夜もまた、大衆酒場「ソクラテス」へと誘われてしまう。

レトロな小路の一角。今夜も「ソクラテス」の明かりが灯る。

新潟駅を背にして左側、歓楽街の奥まった通りに「駅前楽天地」のレトロな看板の小路がある。かつては本当にさびれた通りだったが、近年、新しい店が次々とオープンし、古びた色合いを残してはいるものの、老若男女が集まるにぎやかな場所になった。

小路の一角にある「ソクラテス」は楽天地の中興の草分け。新潟だけでなく、全国からさまざまな経歴の人が集まる。
アーティスト、作家、どこかの企業の社長さん、議員さんなどなど。女性が多いのも特徴だ。
ユニークな人たちが集まって、常連だろうが初めてのお客さんだろうが、和気あいあいと飲めるのはマスターの深沢忠史さんの力だろう。

マスターの深沢さん
マスターの深沢忠史さん。店を開いたのは2004年頃のこと。シャッター通りと化していた駅前楽天地に、「ぽつんと明かりがともっていたら美しいな」と思い、この場所での開店を決めた。

私に注がれるのは「鶴の友」。それがきまりらしい。

私が店を訪ねたときに必ず渡されるのは、ビールグラスになみなみと注がれた、新潟市の地酒「鶴の友」。
たまにはビールやワインを飲みたいこともあるのだが、私の場合、これを飲むのがきまりらしい。これさえ与えておけば上機嫌であるということをよく知っているからだ。
それにしてもうまい酒である。

酒を注ぐ様子
「このお客さんにはこれって勝手に出しちゃうことも多々です」。
鶴の友
「鶴ちゃん」こと鶴間さんに供されるのは、決まって新潟の銘酒“鶴の友”。ネーミングもバッチリ!

いつも楽しい。なのに、何も思い出せないのが残念だ。

酔っぱらうほどに、このお店に足が向く。
「帰りの電車までちょっと一杯」のつもりが、いつの間にか終電を逃すこともたびたび。楽しいことは楽しいのだが、ほとんどの場合、翌日何も思い出せないのが残念だ。知らない名刺だけが手元に残っている。

エアコンがないので真夏はとても暑い。小路にテーブルを出して汗を流しながら飲む。
冬はだるまストーブがあるが、温度の調整が難しく、近づくとやたらに熱い。
トイレは2階にあるが、階段はあまりに急で、時に命の危険を感じる。

小路にテーブルを出して汗を流しながら飲む
夏は椅子を出して、開放的な露天で!
店内
冬は電球の下でだるまストーブが活躍。 
本
文壇バーのような、サロン的な雰囲気も。
ビール
瓶ビール“サッポロ赤星”やラムソーダ、泡盛などもあり。
酒用冷蔵庫
数年前、実は新潟県内で最もシャンパーニュ“テタンジェ”を売っている店であった!酒場で各テーブルにシャンパーニュのボトルが並ぶ様もこの店の美観のひとつ。
ワイン
実は、深沢さんセレクトのワインも揃っている。

「大衆酒場」と名乗りながら、その真実は……。

最悪の環境のようで、なぜか落ち着く空間である。
一見ただのあばら家のように見えるが、実はデザイナーの手が入っているらしい。
「皆さん、ぜひこの不思議なお店にようこそ」と言いたいところだが、実は相当に高い敷居がある。マスターが気に入らない客は入れないのだ。
店はガラガラなのに「予約が入っているから」と入店を拒む姿をこれまでに何度か見た!
「dancyu webで紹介されたらお客さんがいっぱい来るかも」という私に、「来ても断るから」とうそぶく深沢さんであった。
儲けはそっちのけなのか。
本当は怖いお店なのである。

マスターの深沢さん
巨大な扉と深沢さん。勇気を出してこの扉を開けてみよう。……断られるかもしれないけれど。

店舗情報店舗情報

大衆酒場 ソクラテス
  • 【住所】新潟県新潟市中央区弁天3‐2‐18
  • 【電話番号】なし
  • 【営業時間】19:00頃~24:00頃
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】JR「新潟駅」から5分

文:鶴間 尚 写真:大森克己

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鶴間 尚(新聞社勤務)

1965年、佐渡島生まれ。新潟県の地方紙、新潟日報社勤務。記者時代の後遺症で夜の街を徘徊する癖が抜けず、収入のほとんどは酒代に。2019年春に大学院を修了し、海外からの留学生を含めて飲む相手がまた増えた。「鶴」の名の付く地酒を愛飲。座右の銘「さけはきらい」。新潟の戦後史を新聞記者の目から描いた『川を上れ 海を渡れ』(17年)、『川を上れ 海を渡れ・事件編』(19年)の編集を担当。県内のベストセラーに。