「Shinfula」のケーキ7個目は、胡麻をまとったまん丸な「ゴマ団子」。胡麻とケーキはあまり見受けない組み合わせだが、食べてみると不思議なほどしっくりくる相性の良さ。香ばしい胡麻を纏ったムースを割ると、中には濃厚なチョコレートと漉し餡が仕込まれている。
「何か面白いケーキをつくりたいと閃いたのが『ゴマ団子』。以前、中華で食べた芝麻玉という中に黒胡麻餡の入った菓子を想い出してつくってみました」
中野慎太郎シェフのそんな遊び心から生まれたのが、見た目も味もユニークなこのケーキだ。
球状の表面をびっしりと覆うのは、炒り胡麻と擂り胡麻を合わせたもので、見た目はまさしく「ゴマ団子」。だが、その味わいに中華の片鱗はほとんど見られない。 れっきとした洋菓子として成立しているのはさすがだろう。
「洋菓子に仕立てるために、まずチョコレートの食感とコクを取り入れました」
なるほど断面を見てみると、ケーキの底にはチョコレートのダコワーズとマダガスカル産50%のガナッシュが敷かれ、さらにプラリネのフィアンティーヌと漉し餡が層になって、その上に重ねられている。
全体を包み込んでいるのが、黒糖のムース。あえて黒糖にしたのは、甘味のカドが立たない優しいコクをプラスしたいがゆえだ。
これだけで納得する中野シェフではなかった。「胡麻の芳ばしい香り、チョコの苦味、小豆の香りときてもうひと味何か欲しいと思って閃いたのが醤油」だったそうで、きな粉のクッキーと共にトッピングしたスポイトに入っているのは、みたらしソースだ。
醤油の風味が胡麻やチョコの香りと不思議なハーモニーを奏で、エキゾチックな美味しさを醸し出している。洋菓子ではないジャンルの菓子を取り入れることに違和感はない、と語る中野シェフのスタンスを象徴する一品だ。
――明日へつづく。
文:森脇慶子 写真:馬場敬子