レストラン出身の中野慎太郎シェフにとって、チーズケーキは未経験の菓子だった。ケーキ屋を営むと決め、自分らしいチーズケーキを模索する。「Shinfula」がオープンしたとき、ショーケースにスペシャリテとして並んでいたのはチーズケーキだった。
スフレとレアとベークド。三種類のチーズケーキを合わせた、中野慎太郎シェフの欲張りなスペシャリテが「フロマージュアス」だ。
ずっとレストラン畑を歩いてきた中野シェフにとってチーズケーキは、アンタッチャブルだった。レストランでは、デザートの前にチーズをプレゼンテーションすることが多いため、チーズ系のデザートはまず出さないからだ。
「とはいっても、ケーキ屋さんにチーズケーキは必須」。そう思った中野シェフ。
スフレ、レア、ベークド、などなど……どれにしようかいろいろ考えあぐねた結果、行きついたのがこの三種混合。イメージしたのは、様々なチーズを客に披露するレストランの“チーズワゴン”だ。
「もとは乳なのに菌の働きでいろいろな種類のチーズができるように、チーズケーキも、同じ材料からタイプの違うものをつくるのが面白いかなと思って」と中野シェフは語る。
配合や焼き方などで、バリエーションが生まれるわけで、それらをひとつのケーキで表現する。これも、レストランのパティシエを経験してきたからこその発想かもしれない。
土台はスフレチーズ、キューブ状のものがベークドチーズで、レアチーズは、生クリームのように絞り出してある。
さらに断面を見てみると、中に、レーズンやプルーン、イチヂクにオレンジなどのドライフルーツがぎっしりと隠されていた。チーズに蜂蜜をかけることもあるからとフルーツを蜂蜜漬けにした芸の細かさもさすが。
ベークドと共に散らしたクランブルはバケットをイメージ。きな粉の香ばしさが、チーズケーキのまろやかな味わいに抑揚をつけている。
――つづく。
文:森脇慶子 写真:馬場敬子