東京都立浅草高校夜間部(正しくは、昼から夜の授業を担当する三部制B勤務)国語教師の神林桂一さん偏愛の、浅草エリアのランチ案内です。丼物、肉料理、食堂などジャンルごとに店を紹介していきます。第1軒目は麺類部門から、焼鳥屋のランチ限定のラーメンが登場!
最初に紹介するジャンルは、みんな大好き「麺類」!
記念すべき1軒目はラーメンに決めた。
次々に新しい味が登場するラーメン業界だが、長年君臨してきた醤油豚骨系や魚介豚骨系の濃厚なラーメンが飽きられ、ここ数年は昔ながらの中華そば・清湯(チンタン)系に回帰してきている。
これは、我々「昭和からのラーメンマニア」(以後「ラーメンオヤジ」と称しましょう)にとっては朗報だ。苦節十数年、やっと我々の時代が戻ってきたのだ(感涙)!
ちなみに、1958年の「日清チキンラーメン」発売され
浅草の新店も「田中そば店」(喜多方ラーメンがベース)・「中華ソバ ビリケン」(鴨出汁)・「凪」(煮干)と中華そば店が目立つ。
そんな中でラーメンオヤジが選ぶ「浅草ラーメン屋四天王」は、すべて中華そば。
① 「麺 みつヰ」:今回の「ベスト100」にランクイン・「麺や 七彩」出身。
② 「来集軒」:創業69年。ラーメン発祥の地である浅草を代表する老舗。
③ 「自家製麺 伊藤」:秋田県角館の「自家製麺 伊東」がルーツ。
④ 「名代らーめん 与ろゐ屋」:1991年創業・和風醤油らーめんの老舗。
しかし、僕が選ぶ至高の1杯は、この中にはない。
今回紹介するのは「焼鳥 トリビアン」の中華そばなのだ(ラーメン専門店の皆さん、ゴメンナサイ)。
「焼鳥 トリビアン」は、高級焼鳥店、東京・銀座「バードランド」(2010年に焼鳥店として日本初の『ミシュランガイド』一つ星を獲得・以降更新中)出身。過去2回「ミシュラン・ビブグルマン」(コストパフォーマンスがよくてお薦めできる店)に選出されている。
大将の半田聡さんは「バードランド」で9年間修業し、2012年に浅草に店を出した。
浅草観音裏に飲みに来た時に偶然、今の物件を見つけたのだという。
当初の〆メニューは「バードランド系」不動の四番打者「親子丼」だ。
そして、丸鶏を使用している店は、やはり〆の鶏スープが旨い。ある時、客の一人が添えたスープを味わいながら「これに麺を入れたら?」と提案した。
しかし、単に鶏スープに麺を浮かべただけではおいしいラーメンにはならない。それまでラーメンに興味がなかった大将は、そこから研究に没頭。味に妥協を許さず徹底的に追究し、福島・白河「とら食堂」、新潟・長岡で食べ継がれてきた「青島食堂」、神奈川・湯河原「飯田商店」などにも遠征している(ラーメンオヤジも大好きな店ばかり)。
中でも昔からのお客さんでもあった「饗 くろ喜」(もてなしくろき)には一から手解きを受け、多くを学んだという。
スープは、契約農場から丸鶏で仕入れている甲斐路軍鶏の雄鶏のガラを贅沢に使い、他にはネギなどを少し入れるだけ。軍鶏は筋肉質で脂は少ないのだが、鶏足(もみじ)を多く加えることにより、スープにコクと濃度が生まれている。
これを一晩寝かせて使用する(煮凝りになります)。
以前は麺まで手打ちしていたが、小麦アレルギーになり断念したそうだ。
こう書いてくると、焼鳥屋にありがちな近寄りがたいオーラを放つオッカナイ店主を連想されるかもしれないが、あにはからんや、「トリビアン」というオチャメな店名にぴったりの気さくで楽しい大将なのであった。
「焼鳥 トリビアン」がランチで中華そばを始めたのは2018年から。目黒出身の大将が「地元浅草の人たちへの感謝の気持ち」で始めたので、儲け度外視だし、オフィシャルページなどにも宣伝は一切していない(全国5万件の情報を誇る「ラーメンデータベース」にも未掲載)。
夜は22人まで入れる店だが、仕切りを立て、入り口近くの6席のみに限って営業する。そのため、夜の部でスープが出過ぎるとランチの杯数が減ったり、臨時休業になったりするので悪しからず。
僕は、“中華そば”800円よりも“肉中華そば”1,000円が超おススメ。豚肩ロースのチャーシューのほかに、軍鶏の皮つき胸肉が3枚ものるのだ。
何という贅沢!
食後の満足感も比類ない極上の一杯である。
加えて外せないのがサイドメニューのミニ親子丼。「バードランド」ではコースの〆でしか味わえない伝説の味が、な、何と280円!
美味しすぎます、太っ腹です。
ここでラーメンの食べ方について物申したい。
よくネット上で若い女性の「レンゲも使わずに丼を持って食べている無作法なオジサン」などの書き込みを目にする。無知蒙昧!屋台発祥の丼物は抱え込んで食べるのが本来の姿だ。ラーメンオヤジの若い頃は、丼を置いたまま食べることの方が「犬食い」と言われ日本食のマナー違反とされていたのだ。
レンゲに麺をのせて食べる、これは中国流の食べ方だ。そもそも1980年代頃まではレンゲはワンタンや味噌ラーメン(ラードの膜、挽肉、コーンなどを食べやすくするため)には付いても、醤油ラーメンでは一般的ではなかったと記憶する。ちなみに老舗のラーメン店では「レンゲください」と言うと嫌な顔をされることもあるのでご注意を。
日本そばもラーメンも、麺をスープや空気とともに豪快に啜り上げることによって鼻腔と口腔内にその旨さが広がるのだ。
それから、麺は途中で噛み切らない!ラーメンの長さは啜り込むのに丁度よい長さにつくられているのだから。
今さらレンゲを否定する気はない。でも、少数派に転落したラーメンオヤジが麺を啜る美学を貫き続けている姿を、どうか温かい目で見ていただきたい。
文:神林桂一 写真:萬田康文