分厚いタン。ステーキのようなハラミ。庶民的な家族経営の焼肉店で、うまい肉と大きなヨロコビを噛み締める。そこに続くは、塩ホルモンとレモンサワー。今夜は、ひと汗かくような興奮が続きます!
酒をレモンサワーに切り替える。この店で飲むレモンサワーはなぜかくも爽快であるのか。以前、お邪魔したときも、連れてきてくれた先輩と一緒に次々にお代わりをしたのだけれど、どうやら今夜もそんな調子になりかけている。
タンのうまさに感服し、カルビとハラミに高級ステーキを感じた私は、ホルモンもまた絶品であることに改めて驚きます。肉とホルモンの両方がこれほどうまい焼肉屋さんを、私はあまり知らない。そして、私は、肉も好きですが、臓物系にもめっぽう弱いのです。
ミノとウルテを追加いたします。その間も、サンチュにハラミをのっけて巻いて齧りついたり、ちょっとこんがり焼いたホルモンに絶品キムチをのせたり、あれこれ試しながらウンウンと頷き、一瞬も休む間もなくレモンサワーをごくりとやる。
待望のミノがやってきた。ウルテも一緒にやってきた。ミノは牛の4つあるうちの第1の胃。ウルテは喉の気管のところの軟骨。網の上にのっけてしばし眺める。
この七輪にも独自の工夫が施されているという。それは、七輪の縁のところにある、でっぱりだ。この上に網を置くことで、炭火と肉との間の距離が調節されているというのです。
言われてみれば、その通り。網がほどよい高さにセットされるからこそ、七輪全体にいきわたる熱を上手に吸収して、肉や臓物は絶妙な具合に焼きあがるのだと想像がつく。私はなぜか、その光景を、美しいなあと思いながら心奪われる。
網を見ながら、また思う。網目が大きい。そして、網の1本1本が太い。
伺いましたら、この網もまた特注品であるとのことです。さらに言えば、炭は、岩手のナラの木の炭を使っているという。よく目にする備長炭をこの七輪で使うと火力が強くなりすぎるということらしいのです。
はあ~。感服することばかりです。旺盛に飲み食いしながらひたすら感心している私の耳に、「もうそろそろいいですよ」というひと言が入ってきた。
ミノは、まだ早いかな、くらいのタイミングでいいのだと教えていただいたのだ。
これだけ大きくカットしたミノも珍しい。シャキシャキとした噛み応えと、噛むほどにうまくなるミノそのもののうまさ。これまた感動的だ。さらにレモンサワーをさらにお代わりし、止めどない感じになってくる。
ウルテのコリコリ感は、ナンコツ部分であるから当然だけれど、臓物系の好きな私としては唸らざるを得ないヨロコビを与えてくれる。ああ、満足だ。浅草へきてよかった。にたりにたりと笑いをこぼし、腹をさする。
さて、もうひとつ、何か食べたい。ハラミに戻るという選択も捨てがたいが、ここでハッと気づいたことがある。
ホルモンだ。今度は塩でもらおう。
私は塩味のホルモンを個人的に「塩ホル」と呼んでいる。ハマったのはもう15年くらい前、いやいや、20年前くらいになるか。塩ホルのさっぱりとした味わいと、表面をカリっと焼いた香ばしさがたまらず、のめり込んだ。また塩ホルがレモンサワーにしろホッピーにしろ、焼酎を何かで割って飲むスタイルによく合ったものだから、完全にハマったのだった。ハマったなんていい方は好きではないのだが、振り返って、ハマったとしか言いようがない。
たちまちにして、ひと皿をやっつける。ここで締めの飯として、テグタンクッパを注文。仕上げのレモンサワーも頼もうとしていると、
「塩ホルモン、もう1回行きませんか」
八っつぁんだ。よかった、気に入ってくれたようだ。
「行こう、行こう、塩ホル、行ってみよう!」
ちなみにこのホルモンは、豚のホルモン。そこへ、牛ゲンコツからとったスープをベースにしたテグタンクッパが登場。3人して取り鉢に分けて、ずずずっと、熱いところを一気に喰うのです。
日ごろ、おっとり、しっぽり、ぼんやりと酒を飲むことの多い私ですが、「金楽」でのひとときは、軽く興奮しながらひと汗かくような感じ。なんとも爽快な、いい酒になりました。
店を出ると、炭火で火照った顔に夜風が心地いい。気が付けば今夜もすっかり火がついている。私の、飲みたい気分についたこの小さな火を。どこで鎮めるか。私は八っつぁん、お由美さんの了解を取るのももどかしく、すでにして1軒のバーへ向かい始めているのでした。
――東京・浅草「金楽」(後編) 了
文:大竹聡 イラスト:信濃八太郎